10
俺たちは完全に囲まれてしまった。サメのやつが横で、前方には二体回られている。その二体のフォルムはカジキのように上顎が剣のように伸びているやつと、蛇というか、おそらくはウツボなのだろう。俺としてはどっちでもいいのだが、サメ、カジキと来て、もう一体が蛇では様にならない。ということで、ウツボということにしよう。
後の四体は魚のフォルムではないが雑魚と言っていい。普通のワイバーンだ。若いドラゴンなのだろう。騎乗しているやつらもほんの子供だ。パシリなのだろう。
セプトンに乗っている男とラキラは何やら話をしているようだ。お互い距離があるがドラゴンを介して念話で言葉を交わしている。ジュールには筒抜けだ。
『セプトンの男、お前を乗せるってんでむくれているみたいだぜ、キース』
ジュールが実況解説してくれるようだ。半分面白がっている。
『あさましいな。やつぁ、なんでそんな男の手助けをするんだって怒っているぜ。魔法の一つや二つ使えたってドラゴンには敵わない、王国は滅ぶんだ、とも言っている』
『で、ラキラはなんて答えている』
『十二支族の長に行動の自由は認められている、って反論している。セプトンの男は、俺は認めないと言っている』
『やつは何者なんだ』
『カンバーバッチ。族長の息子みたいだな。ラキラは話し合いを諦めたようだ。カンバーバッチの野郎、お前を引き渡せって。これ以上構ってらんねぇ、逃げるってよ』
ジュールがそいう言うとアトゥラトゥルの翼が畳まれた。急降下して、風の鞍の者達の包囲を抜けた。
森すれすれでアトゥラトゥルは飛んだ。例の巡航ミサイルだ。これならばやつらは追い付けない。このスピードを買ってラキラはアトゥラトゥルをこの旅に選んだのだ。
だが、やつらには魔法がある。こちらは俺がいるためにそれが使えない。案の定、やつらはジャンプして来た。アトゥラトゥルの前方に次々と魔法陣が現れる。アトゥラトゥルはそれを縫うようにかわして飛んで行く。魔法陣はあっという間に遥か後方だ。
誰かを飛ばす時は自分が行った場所にしか飛ばせない。自分がジャンプするならその目標物に触れていないといけない。目標物はラキラなのだろう。そして、魔法が発動してもジャンプして来るまでわずかな時間がある。アトゥラトゥルのスピードならその数秒の間で大きく距離を空けられる。
やつらは結局追い付けない。だが、変だ。置いてけぼりにした魔法陣は六つしかなかった。龍哭岳はもう目の前だった。もしかして、俺たちが行こうとしている所が読まれている?
『ジュール! ラキラに龍哭岳には行くなと言ってくれ』
『どうしてだ』
『理由を話している時間はない。早く』
『キース、残念だがもう龍哭岳だ』
龍哭岳がそびえ立っていた。大岩壁が行く手を阻んでいる。巨大な壁で高さは二千メートルを超える。アトゥラトゥルは翼を広げた。上昇気流を受け、岩壁に沿って上昇していく。
大岩壁を抜けるともう頂上だ。が、そこに人影があった。大男だ。アトゥラトゥルも気付いたようで咄嗟に頭を右に振った。急激な方向転換だった。
だが、間に合わなかった。大男は頂上から飛び降りると稲妻のごとくに宙を蹴って近付いて来ると、アトゥラトゥルの二本ある角の一方を掴んだ。そして、アトゥラトゥルの首に足を掛け、もう一方の角も掴む。大男はアトゥラトゥルの首の上に跨った。
大男の後ろ姿は恐ろしいものだった。おそらくは身長三メートルはあるだろう。背中が異様に広く、そこに所狭しと半月刀のような角が付いている。前腕にも鎌のような爪が左右一本ずつ付いていた。
全身は甲冑のような表皮に覆われ、首は太く、肩は盛り上がっている。腕は大木のようで、アトゥラトゥルの二本ある角を握る拳はバスケットボールより一回りも二回りも大きかった。ドラゴンニュート。セプトンが竜人化した姿だった。
セプトンはアトゥラトゥルの二本の角から片手を離し、その大きな拳を振り上げたかと思うとアトゥラトゥルの側頭部にぶつけた。
アトゥラトゥルの動きが止まった。完全に意識を失っている。翼はまるで強風で裏返った傘のようである。風に負けて力無くはためいていた。アトゥラトゥルはセプトンの重みのせいで頭から降下を始める。
それでも、セプトンは手を緩めない。角を持っていたもう一方の手も離し、頭上で両の手を握った。まるでハンマーを落とすかのようにそれをアトゥラトゥルの脳天に叩き落とす。気味の悪い鈍い音がした。
その直後にアトゥラトゥルは大岩壁に接触した。バンッと弾かれたその衝撃で俺たちは宙に放り出されてしまった。一方で、アトゥラトゥルとセプトンは何度も大岩壁に接触しつつ、落下していく。
当然、俺も落下している。ラキラはいち早く態勢を整えたようだ。ジュールが翼を広げ、俺を拾おうと向かって来ている。大岩壁は高さ二千メートルほどあった。宙に投げ出されたのは大岩壁のほぼ最長地点である。強化外骨格をもってしても落下の衝撃には耐えられない。
大岩壁の真ん中辺りで俺はラキラに拾われた。それでも落下していた。スピードは落ちたもののジュールの翼が裏返ろうとしている。ジュールにとって大人二人は辛いのだ。
ジュールは必至だった。ほとんど錐もみ状態で旋回していた。地上まで百メートル。おそらくはこのスピードなら強化外骨格が何とかしてくれるだろう。着地し、ラキラとジュールを抱きかかえた。衝撃を逃がすため転がっていく。
取り敢えず危機は脱したようだ。腕の中でラキラの視線は朦朧としていた。ジュールも意識を取り戻そうと頭を振っていた。大岩壁の下にはアトゥラトゥルが横たわっていた。セプトンはアトゥラトゥルから離れ、悠々と俺の視界を横切っていた。
すでに風の鞍の七人は大岩壁の下を遠巻きに囲んでいた。一仕事を終えたセプトンはカンバーバッチのガキの元に向かっていた。
アトゥラトゥルは身動き一つしない。何度も大岩壁にぶつかったのだろう。一緒に落ちて来た瓦礫に体半分埋もれている。死んでいるのか生きているのか分からない。意識を取り戻したラキラがアトゥラトゥルの元へ向かった。
カンバーバッチのガキが腕を組んで、それを眺めていた。いっちょ前に髭を生やしていて、元々薄いのか、生やしたばかりなのか、ちょろちょろっと貧相に、その有様は無精ひげにもなっていない。よっぽど大人の世界に憧れがあると見える。その口元がせせら笑っていた。
「おい、お前」 俺の声に、カンバーバッチの視線が俺へと向けられた。「ドラゴンなら回復魔法が使えんだろ。お前らのドラゴンにアトゥラトゥルを直せって命じろよ」
カンバーバッチが笑った。
「勘違いしてないか。それが人にお願いする態度かねぇ」
他の六人も続いて笑った。聞く耳持たぬってわけか。良かろう。大人の厳しさってやつを教えてやる。
「勘違いはお前だなぁ。俺は被害者。そして、あんたが加害者で、これは断言しよう。お前はこれから裁かれ、俺達に泣いて許しを請う」
「バカかぁ。この状況を見ろ!」 見ろとばかりに両手を広げた。「おまえたちがこの俺様に命乞いをするんだ。だが、その前に、おまえの返事だ」
「返事? 返事ってなんだ」
「動くなっ!」 ジュールがラキラの方に移動しようとしていた。それをカンバーバッチが止めた。「チビ、そのままじっとしてろ。正直、俺たちはラキラに用はない。後で回復するなり何なり好きなようにすればいい。ただし、金髪。おまえが俺たちと来るのが条件だ」
「なぜ俺だけだ。俺はなぜ行かなくてはならない」
「俺の下僕にしてやる。で、従順になるよう俺がしつけてやる」 カンバーバッチは犬の鳴きまねをした。「犬のようにな」
他の六人も犬の鳴き声をまねた。親が甘やかせ過ぎなのか、元々頭が悪いのか、いずれにせよ、程度が低すぎる。これは本当に教育が必要だ。
「なぁ。一つ、いいか?」
唐突な俺の問いに、カンバーバッチらは犬の鳴きまねを止めた。俺の言葉を待っている。
「お前たち、シーカーなんだろ? お前らの先祖はドラゴンと戦った。ドラゴンニュートも何体も倒した。な、そうだろ?」
「知った口をきくなよぉ、金髪ぅっ!」
カンバーバッチらの表情に不快感がありありと見えた。王国の者にシーカーを語られたくないのだろう。だが、言わなければならない。
「知った口をきくな? お前こそ大人に向かって分かったような口きくなよ。ドラゴンニュートを倒す。お前たちの先祖がやっていたことだ。それがこの俺に出来ないと誰が言い切れる。この状況がどうしてお前に利があると言い切れる」
そして、俺はカンバーバッチを指さした。
「このクソガキに、それを教えてやろうって俺は言ってんだよっ!」
俺の見た目は十八歳だ。カンバーバッチも十八歳前後。髭を生やして背伸びしている。そんなガキが、俺にクソガキと言われてキレないはずはない。
「セプトン。やつをぶっ殺せ」
強化外骨格の全機能を屈指すれば何とかあのセプトンも対処できよう。だが、俺はフィル・ロギンズに幾つか魔法を見繕って貰っていた。竜王の加護で魔法が無効化してしまう俺に合いそうなやつだ。その一つを使ってみようかと思う。
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