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ドラゴンライダー全てを納得させられる条件なぞ思い付かない。そもそも彼らのほとんどは十二支族それぞれに属し、それぞれの族長の指揮下にある。おそらくは、彼らと王国の者との接点はない。エトイナ山行きの王族の護衛はタイガーの組織なのだ。
確かにタイガーの組織にもドラゴンライダーはいるだろう。デンゼル・サンダースもその一人だ。しかし、多くの人をエトイナ山に運ぶとなるとかったるい。里の主ヤールングローヴィの話から言って時間はあまり残されていない。
ドラゴン一体で多くの人を運ぼうというのならジンシェンだ。列車を思わせるあの姿なら一度に百人は下らない。だが、巻雲の森と金床の森との間に川がある。その川は南の狭い海に流れ込むヘブンアンドアースの支流で、ロックスプリングといった。
それを渡らなくてはならない。ジンシェンはチアナ国から蝶の塔に向かうロード・オブ・ザ・ロードの橋を渡った。だが、その橋はもうない。
ロックスプリングを南に迂回したとしても、ヘブンアンドアースを越えられず南下して行き、やがては海に出てしまう。だったら川を渡らない方法を考えればいい。ジンシェンの出発地点を替えるとか。例えばもっと北にしてアメリア国センターパレス付近のウインドウとしよう。
エトイナ山に距離としては一番近いのだが、はぐれドラゴンの草原、キングランズが行く手を遮っている。であるならば、ロード・オブ・ザ・ロードがあったルートをそのまま走破する。だがそれもセイトが立ちはだかる。俺とラキラが灰色のドラゴンに転移魔法を掛けられた場所だ。はぐれドラゴンがうようよしている。
行こうと思えば行けないわけではない。ライオンの塔があったところからセイトの横をすり抜けるのだ。被害は出るだろうが、行けないわけではない。
だが、なぜローラムの竜王はロード・オブ・ザ・ロードを消したのか。魔力が弱まったのなら結界の方は消してでも、ロード・オブ・ザ・ロードは残しておかなければならなかったのではないか。
俺でも分かるような差し引きなのにあの老人が分からないはずはない。人類を滅ぼしてしまえって言うんなら、むしろそうしよう。おそらくは打算もあるはずだ。他の大陸からの侵略に対して人類を盾に使う。ローラム大陸に王のいない統治の空白が生まれるのだ。時間稼ぎは必要だ。
敢えてロード・オブ・ザ・ロードを消したとしか思えない。ヤールングローヴィは、竜王に考えがあってのことだろとも言っていた。もしかして、本当に考えがあってロード・オブ・ザ・ロードを消したのかもしれない。多くの人を運べるのはジンシェンだ。そのジンシェンの里に俺たちは強制的に転移させられた。
なぜ、ジンシェンの里だったのか。ラキラはドラゴンライダーだ。十二支族の里ならどこでも良かったんじゃないか。ドラゴンを駆ってエトイナ山にはひとっ飛び。いや、転移させられたこと自体が疑問だ。そんなことをせずとも俺たちに自分の足を使わせてロード・オブ・ザ・ロードを行かせればいい。
そうなのだ。俺たちだけが必要ならむしろ、他の者達を転移させるべきだった。転移というならなぜ、ジンシェンの里というわざわざそんな遠くに転移させる必要があったのだ。フィル・ロギンズによれば自分でなく他者を強制的に転移させるには条件がある。術者の行ったことがある場所。
灰色のドラゴンがエトイナ山に行ったことがないとは思えない。つまり、竜王は考えがあっての、ジンシェンの里だった。あの場所でなければならなかった。
それにラキラだ。ローラムの竜王がドラゴン語をつかえるようにしなかったのはジンシェン。
バーデン・ハザウェイはロード・オブ・ザ・ロードがないのを確認したと言った。すべてを確認のだろうか。したとしても精々、五つの塔ぐらいだろう。俺の考えではロード・オブ・ザ・ロードのすべては失われていない。
「ラキラ、確かめたいことがあるんだ。遠くまで飛んでもらいたい」
「いいけど、どこへ行くの」
「ロックスプリングの橋だ」
ラキラの表情がぱっと明るくなった。ピンと来たようだ。あの橋さえあれば多くの人を乗せたジンシェンはエトイナ山に行ける。ラキラは早速、行こうと俺に声を掛けた。そして、アトゥラトゥルに乗る。里の主ヤールングローヴィは世界樹の袂でふわふわ浮いていた。もう寝ているようだ。
礼は必要ないようだ。俺はラキラの後ろに着いた。アトゥラトゥルが翼と足を体に密着させた。ぐんっと体が沈んで地面が近くなったかと思うと方向転換する。ドリフトするように地面を削って向きを変えた。物凄い勢いで森の道を進む。
あっという間にドームの広場に出た。ジルドとマウロ、そして、デンゼルがいた。彼らを横目に通り過ぎ、アトゥラトゥルは翼を広げた。足で地面を二度三度蹴る。その勢いで飛び上がった。
ひと羽ばたきで上空である。転がる岩の里は遥か眼下だ。また、羽ばたいた。さらに高度が上がった。前方に小さく鷲ヶ岳が見えた。山並みがその奥へ奥へと繋がっている。ヘルナデス山脈の山々だ。そして、来る時には確認出来なかった北の狭い海。ヘルナデス山脈に並走していた。
アトゥラトゥルは翼開長を三分の一に絞った。速度を上げるのだろう。高度も少しずつ下がってきているのが分かる。鷲ヶ岳の頂上すぐ近くを通り抜けた。
どこまでも続く山々。アトゥラトゥルはヘルナデス山脈に沿って南下して行く。やがて竜王の角が見えて来た。鋭くとがった山頂が特徴だ。アトゥラトゥルはまた、高度を上げた。北の狭い海が視界に入った。ヘルナデス山脈と並走する海岸線が竜王の角を越えると西に大きくカーブしている。平野が広がり、カーブした先に山影が見える。エトイナ山である。
翼を畳み、速度を上げた。おそらくはロックスプリングの橋までもう上昇しないのだろう。ヘルナデス山脈は東へ緩やかにカーブして行く。王都センターパレスはもう目と鼻の先だ。
俺たちから見たら王都は左前方となる。正面には煙嵐の森。多くの木々がヘルナデス山脈の裾から流れ落ちるようで、北の狭い海から伸びる平野に向けて広がっている。
その平野はというと、木一本生えてない。平原キングランズである。そこを突っ切ればロックスプリングの橋まで最短距離であった。だが、狭い海同様、はぐれドラゴンの生息地である。俺たちは迂回を余儀なくされる。
ヘルナデス山脈に別れを告げ、煙嵐の森上空を進んだ。バーデン・ハザウェイの言う通り、煙嵐の森にイーグルの塔はなかった。彼がその場に行って確認したって言うんだから他の塔も消え失せているのだろう。
その事実からバーデン・ハザウェイはエンドガーデンの終わりを予感した。だが、確認したって言っても、まぁ、魔力がないんだ。そもそも彼に塔が見えるはずがない。ドラゴンにでも見て貰っていたのだろう。やはり全てを確認したとは思えない。
恐れるべきはローラムの竜王だ。もし、ロックスプリングの橋だけが生きていたとしたなら、ローラムの竜王はすべての王族に選択を迫っていることになる。エンドガーデンと共に滅びるか、それとも歴史に家名を残すのか。いずれにせよ王族は、虎の威を借りて来た代償をいま払わなくてはならない。




