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07


『竜王が生まれた時にこの世界から姿を消した。巷ではそう囁かれている』


 ちまた? ドラゴンの都市伝説みたいなものか。根拠が曖昧なそんなやつを俺に探せと?


『眠たくなってきたので、』 主は世界樹へと戻っていく。『では、ごきげんよう』


「はぁ?」 こいつは寝るのか?「ちょっと待て。話は終わってない」


『なんだなんだ』 主が戻って来た。『真夜中だぞ』


 はぁ? 夜更かしできないのか、ガキじゃあるまいし。


『ロード・オブ・ザ・ロード。ローラムの竜王はなぜ消したのか、教えてくれ』


『そらぁぁ、竜王に考えがあってのことだろ。僕には分からない。それとも、時間ときが満ちて来ているのかもよ。結界の弱まる周期も早くなっているし、ただ単に、竜王にそれだけの力がもうないってことかもな』


『“空”ってやつか』 


 “空”となれば竜王の加護は未来永劫解かれない。その前にもう一度、竜王と話さないといけない。そうだ。ドラゴンライダーの件だ。やつらは行きたがらないと族長のバーデン・ハザウェイが言っていた。


『ドラゴンライダーはなぜエトイナ山に行かない。魔法が使えるようになるのだぞ』


『ドラゴンライダーは、魔法を使えるようになるとドラゴンライダーではなくなる。それはヤドリギとドラゴンの関係に似ている。ドラゴンライダーをヤドリギだと考えてみろ。ドラゴンライダーと一緒にいるドラゴンはヤドリギから離れてもはぐれドラゴンになることはないだろ』


 それでか。それでローラムの竜王はドラゴン語を使える魔法を俺にはかけても、ラキラにはかけなかった。


『で、君たち王族の魔法使いはその関係で例えるならドラゴンだ。違うところは、ドラゴンはその力量によって差があるがどもれが幾つもの魔法を使える。が、王族の魔法使いはたった四つだ。ヤドリギを持っていないせいでそれが限界なのだろう。はぐれドラゴンのように狂いはしないがな』


 ドラゴンライダーは自分が操るドラゴンによって魔法が使い放題。それなのにドラゴンも操れず、魔法も四つしか使えないとなっちゃぁな、俺でも拒否する。


『エトイナ山に行きたがらないのはそういうわけか。それでも、何か得るものがあればドラゴンライダーは喜んで王国の者達を自分のドラゴンに乗せようものだがな。さてどうしたものか』


『もういいだろ、僕は眠いんだ』


『悪い。これが最後だ』 これは魔法のドラゴンに直接聞いてみたかった。『ローラムの竜王が“空”とやらになったらエトイナ山はどうなる。次に王になるものは決まっているのか。それとも奪い合いになるのか』


 次の王が決まっているのなら何とかなるかもしれない。ローラムの竜王からそいつに取りなしてもらって、ローラム大陸を守るため手を結ぶ。新たに契約を結び直せるかもしれない。ひいてはエンドガーデンも守られる。


『淡い期待を持っているだろ、君ぃ。残念だがそうはならない。ドラゴンの本能は世界樹を奪い合うように出来ている。死に物狂いで守るということと、死に物狂いで奪うということは同じことなのだよ。とはいえ、エトイナ山の奪い合いに限っては、ヤドリギ持ちのドラゴンでないと太刀打ち出来ん。ジェントリクラスのドラゴンが動くだろう。もちろん、彼らもヤドリギ持ちだ。その留守に己のヤドリギを奪われたら目も当てられない。不思議に思うだろうが、守るより奪う方が本能的に少し勝っているんだ。だから、そう長くは離れられないが短期間ならヤドリギから離れられる。そこに葛藤がある。おそらく彼らは、ギリギリまで話し合うだろう。候補を絞り込み、最後は一対一の対決となる』


 話し合いとなれば、当然ローラム大陸を治めるものがいない空白の期間が生まれる。ザザムやガリオンがその間を黙って見ているとは思えない。もしかして、彼らがローラムのドラゴンを押し退けてエトイナ山を奪ってしまうかもしれない。里の主の言葉は続く。


『それが王位継承の一番スマートな解決法のわけだが、話し合いを有利に働かせるために版図を広げようというジェントリもいるかもしれない。どこかの跳ねっかえりが勝手に行動を起こすってことも考えられる。僕が心配するのはジェントリクラスのドラゴンがラキラを己のドラゴンライダーにすることだ。ジェントリらはラキラがジンシェンに乗っているのを知っているはず』


 考えもしなかった。ラキラを利用すればドラゴンは己のヤドリギから長期間離れられる。奪い合いになったらそいつは俄然有利となる。


『ラキラをドラゴンライダーするとは聞こえがいい。だが、領地を持つ魔法のドラゴンらはプライドが高い。人を虫けら同然に思っていて、ラキラを己の背中に結びつけておけばいいっていう程度にしか考えない。そんなやつがラキラを背負ってエトイナ山を奪ったとして、その後ラキラはどうなる。少なくとも竜王がいる内はいい。ラキラは竜王のお気に入りだ。誰も手だしができない。だが、竜王がいなくなればどうだ。もし、ラキラの身に危険が及ぶのなら、僕たち十二の主は黙ってはいない。ラキラを守り抜くつもりだ』


 主は己の甲羅を閉じた。まん丸い球となって、すっーと滑るようにして世界樹に向けて飛んで行ってしまった。


 ラキラと目が合った。ラキラは、しょうがないねっていう肩をすぼめたジェスチャーを見せた。明らかにこの事実を知っている。バレないと思っていたのだ。それが思わぬ方向に話が行って、この事実を俺が知ることになった。


「言わないつもりだったなっ!」


 思わず声を荒げてしまった。ラキラは何も言わず、じぃーっと俺の顔を見ている。分かってほしいという目だ。


 ジルドとマウロが、姫を頼みますと何度も懇願していた。あまりにも必死過ぎて、ラキラは相当甘やかされているなと思ったが、ラキラに口止めされて、ああいうしかなかった。あれはそういうことだったのだ。


 ここは大人として説教したいところだが、俺も見た目はガキだ。様にならないし、かえって反発される恐れがある。怒りは抑えるとしてだ、大人として先のことを考えないといけない。


 ローラムの竜王がエトイナ山にいる内は、ラキラは安全だ。それまでに手を打たなければならない。出来る限りエトイナ山に人を送り込み、統治の空白に備える。


 言うまでもなく、他の大陸からの侵略に対してエンドガーデンは自衛を余儀なくされる。それなりの準備が出来れば俺は自由に動ける。ラキラを守ることだって出来る。そして、いざという時に最も頼りになりそうなのがドラゴンライダーだ。だが、彼らには多くを期待出来ない。






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