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06


「ラキラ、あのご老人たちは?」


「どうかした?」


「姫様を頼みますとだけ言って名前も何も言わなかったが」


「ああ、ほんとそうね」 ラキラは声を上げて笑った。「ジルドとマウロよ。ごめんね、悪気はないの」


「いい人たちじゃないか。君のことを本当に心配しているんだな」


「有り難いわ。ジルドとマウロは私を育ててくれた」


「育ての親?」 ってことは、両親に何かあったということか。「立ち入ったことを聞いてしまったか?」


「いいえ。みんな知ってるわ。わたし、捨てられていたの。この森の世界樹の下に」


 ジンシェンの森と同じように、この世界樹の森にも多くのドラゴンがいた。ジュールのような小さなやつもいればアトゥラトゥルのように大きなものまでも。形も皆様々で、手が翼のやつもいれば四本足で翼を持つものいる。


 頭が二つのものもいたし、色んな動物が組み合わさったようなやつもいる。一つとして同じものはいない。どれもヤドリギに寄り添っていて、ゆったりと体を休めていた。


 おそらくはアトゥラトゥルのヤドリギもこの森のどこかにあるのだろう。ドラゴン不在のヤドリギは相棒の帰りを心待ちにしていよう。見渡すとジンシェンの森に比べこの森にはドラゴン不在の世界樹が多くあるように思える。ラキラはそんな世界樹の下に置かれたのだろう。


「ジルドとマウロはドラゴンライダーでもあり、この森の管理者でもあるの。生まれたばかりの私を見つけてね」 ラキラはクスクスと笑った。「二人はわたしを世界樹の子だと思ってる」


 そんなわけはないだろうが、あながち間違っていないような気もする。ジンシェンのような里の主に乗れたり、ローラムの竜王の態度だったり。


 北部でありながら蛍が飛んでいた。月明りと相まって幻想的である。川のせせらぎも聞こえて来た。確かこのテーブルマウンテンには滝があった。どこかに水源がある。それが目の前に現れた。


 絶えず綺麗な水が送り込まれているのだろう、雨水だけでは出ない透明度だった。水草が光を放っているのもあり、夜でも泳ぐ魚がはっきりと見えた。


 池には多くの蛍が飛び交っていた。水面からの月光の照り返しと虫の明かりに、世界樹が池の中に照らし出されていた。世界樹の葉張りは上空から確認している。三百メートルほどだ。それよりも池の大きさはというと、少し小さかった。


 世界樹は水面から根を伸ばしていた。樹形はマングローブを思わせる。幹の太さはジンシェンの世界樹とほぼ同じだろう、直径十メートルほどか。その幹の傍に黒い球が浮かんでいた。


 幹の直径と比べ少し大きい。直径十五メートルほどの球だ。それが蛍の明かりの中をゆっくりと俺たちの方に向かって来ている。


 ローラムの竜王を見ていたから何も驚かない。まん丸いフォルムが宙に浮いているのにただただ美しいとだけ思った。


「里の主、ヤールングローヴィよ」


 ラキラがそう紹介した。目の前の巨大な球は、その正面に黒い目が付いていた。光沢のある表皮をよく見ると何か所かに筋が入っている。中でも目玉の下部分の筋が最も濃く、そこが割れた。見た目はダンゴムシだ。球が開いた隙間からアゴというのか、口が見える。ドラゴンだった名残か、ムシにはそぐわないアゴと牙があった。


『ほほー』


 俺を見て感嘆の声を上げている。魔力が強くなると角も翼も必要なくなるのだろう。いざとなれば竜人化すればいい。


『これはこれは』 ガラスのような黒い眼玉に俺の顔が映っている。『なんと変わった生き物だ。眼福に与かれて僕は嬉しいよ。幸運、幸運』


 そう言ったかと思うと主は、すぅーっと自分のヤドリギへと戻っていく。ラキラが、ちょっと待って、と主を呼び止めた。ああ、そうだった、と主が戻って来る。ラキラは俺に視線を向けた。


「キース。ヤールングローヴィは物知りなの。何でも応えてくれる」


 ローラムの竜王と会った後にジュールが言っていた。元の世界に帰してあげたいってラキラが思ってるって。


 この世界の秘密を知れというのがローラムの竜王のアドバイスだ。それにドラゴンライダーの件だ。エトイナ山に行きたがらないとはどういうことだ。ロード・オブ・ザ・ロードのこともある。ローラムの竜王はなぜ消した。


「さぁ、キース。何でも聞いてみて」


「分かった」 まず、これだけは聞いておきたい。『俺がどう見える』


 俺が主をダンゴムシと思ったように、主は俺のことを変わった生き物と言った。俺がどう変わっているか知りたい。


『主よ。その目には』 昆虫のような眼だ。『どう見えるんだ』


『はて。これは予想外の質問だなぁ。もし答えるのなら、何かに似ているとか、こういうイメージだとかは言えないな。初めて見るものだから例えようがない』


『どういう風になら言える』


『そうだな。死人が生きている。死んだモノは生き物とはいえないだろ。だが、生きている。ローラムの竜王は君をマレビトと呼んだそうだが、君はこの世のものではない。それだけは言える』


『ありがと』 この世のものでないか。えらい言われようだが、大体合っている。『ラキラから聞いていると思うが俺は自分の世界に帰りたい。率直に言う。どうしたら帰れる』


『わたしも率直に言うよ。君は、今のままではいつまでたっても元の世界に帰れない』


『今のままではとは』 だから困っているんだ。『つまり、どういうことだ?』


『考えてみたまえ。竜王の加護は魔法を無効化する、だよな』


『ああ、そうだが』


『君は強力な魔法でこの世界に飛ばされて来た。他にどういう方法があってこの世界に飛ばされて来たと思ったんだ』


『そうかっ!』 ロード・オブ・ザ・ロードのこともしかり。ローラムの竜王は俺をハメたのか。くっそー。『解く方法はあるのか』


『魔法というよりそれはほぼ呪いだな。どういう理由で竜王がその力を与えたかは知る由もない。が、竜王が死ねば呪いは解かれるやもしれない。“空”となれば、まず解かれないだろうな』


『それは竜王を殺せってことか?』


『殺したって帰れるとは限らない。肝心の帰れる方法が分からないんだからな』


『じゃぁ、それを教えてくれ』 ローラムの竜王にはけじめを付けさせる。『そのためにここに来たんだ』


『教えろってぇ? ばかをいえ。僕に出来る訳がない。竜王が自分では無理だと言ったんだろ? だったら僕じゃなくて、竜王のうえの魔力を持つ者を探す他あるまい。思い当たるのは創造者。おそらくはその創造者が君を、何らかの理由でこの世界に招いた。創造者が実在するなら竜王の呪いなぞ造作もない』


『創造者? そいつはどこにいる』







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