05
ラキラはドームの敷地に着地した。森が開け、広々とした芝地だった。ラキラの帰りを待ちわびていたのか、すでに男が三人そこにいた。一人は見覚えがあった。遠目でも分かる。デンゼル・サンダースだ。
アトゥラトゥルも続いて着陸した。ラキラはアーメットヘルムとマスクを取り、三人に近付いて行く。二人の男は双子なのかそっくりで、両方とも口の周りに白い髭を蓄えた小太りの老人だった。二人はラキラのことを姫様と呼んで駆け寄った。
デンゼル・サンダースは少し離れて抱き合う三人を見守っていた。ラキラもそれを分かっていて双子の老人から離れると手を広げた。デンゼル・サンダースは女の子のように、タイガーっ、と声を上げ、ラキラに飛びついた。
双子の老人は二人を黙って見守るつもりはないようだった。ハグするラキラに構わず走り寄り、四人仲良く抱き合った。ふと、他に人の気配を感じた。ドームの方を見ると男が三人こっちに向かって来ている。一番前を歩く男に見覚えがあった。ジンシェンの里に来ていたドラゴンライダーだ。
腰に差す剣も他の者と造りが違う。特別な魔具なのだろう。大きな石の入った首飾りも掛けていた。
族長のお出ましって訳だ。控えるように後ろを付いて来る男らはこの里の政務官か、宰相みたいなやつらなのだろう。あるいは、護衛官か。いずれにしても、族長は俺に用があるようだ。騒ぐラキラらには目もくれず俺の前に立った。
「“転がる岩”にようこそ、キース殿下。お待ちしておりました。わたしはバーデン・ハザウェイと申します」
黒髪を後ろで束ねている。首は太く、肩の筋肉が盛り上がっていた。ブルーアイで、歳の頃は四十から五十の間か。
「お招き頂き痛み入る。貴殿はハザウェイ殿と申されましたか。確かラキラの隣の席に座っていた」
「光栄です。覚えていらしたとは。どうです? ここではなんですし、中でお話でも」
バーデンは親指でドームを指した。
「光栄の限りだが今は立て込んでいてな、すぐにでも帰らなくてはならないんだ」
「そうでしたな。ラース、」 バーデンは口ごもり、手を胸元でかき回すような仕草を見せた。何か思い出したいようだ。後ろから男が、ラース・グレン、と囁いた。「そうそう。ラース・グレンから聞いたよ」
名前を忘れていたのか。バーデンのしゃべりは終わらない。
「コウ・ユーハンとウマル・スライマンを倒したのだって。魔法での戦いはここ百年行われていないが、歴史を見れば幾つかある。どれも同じ王族どうしの内輪もめでだ。私の知る限り今回が初めてのことだよ。他族間の、それも二対二の戦いともなると」
えらく興奮している。悪いやつではなさそうだが面倒臭そうだ。
「そのうえ殿下は魔法無しで、神の手アレクシス・チャドラーを倒したって聞く。アレクシス・チャドラーはシーカーの間でも知らない者はいない。わたしも昔は腕に覚えがありまして、チャドラーとは一度手合わせしたいと思っていたんです」
無駄話を続ける時間はない。
「ラース・グレンはまだここにいるのか?」
「彼は王都に帰らせました。入れ違いになるやもしれませんので。それに王国の情勢が気になる」
王都か。残念だが、無事ならいい。では、本題だ。
「ところでハザウェイ殿、ローラムの竜王との契約のことだが、我がブライアン王は第一陣を五十五人と考えている。内二人が魔法の使える者だ。シーカーからも五十人ほどお願いしたい」
「いや、それなのですが、一つ問題がありまして」
「問題?」
「なんというか、つまり、ロード・オブ・ザ・ロードが消えて無くなりまして。もう誰もエトイナ山に行くことが叶わないのです、我々ドラゴンライダー以外は」
「ロード・オブ・ザ・ロードが無くなった?」 ローラムの竜王は広く魔法を解放するんじゃなかったのか。「そんなはずはない」
「間違いありません。その場に行って確認したのですから。地上には安全な道はもうない。空を行くしかないのですが、そのドラゴンライダーに問題がありまして、誰も行きたがらない」
「そういうことか」 ラキラが言った問題とは。「だが、なぜ行きたがらない。秘密がバレるからか。話を聞かせていただきたい」
「お気を悪くされるな。確証があって言っているのではないのだ。言い出したのは里の主で、この私よりも言い出した主の方に聞いてほしい」
エトイナ山までのルートを失い、そのうえドラゴンライダーの手は借りられないとなると八方塞がりだ。
「分かった。どういうことかその里の主に聞いてみよう。では、失礼する」
ラキラは老人らと話し込んでいた。一方で、ジュールはラキラの背を離れ地面に降りていてデンゼルと言い合っている。ドラゴン語と人の言葉とで意思が通じるようで、お互い一歩も引かない。デンゼルもラキラと同じドラゴンライダーのようだ。念話が使える。
「殿下っ」 バーデンに呼び止められた。「言いにくいことですが、私の見立てでは王国の存続は極めて困難です。もしも、もしもだが、王国が無くなるようなことがあればこのわたくしを頼ってほしい。殿下なら大歓迎です」
確かにローラムの竜王がいなくなり、自衛手段が何にもないとなればエンドガーデンは他の竜王たちの切り取り次第。対してシーカーにはドラゴンライダーがいる。これまで通り細々とやっていこうということか。
「お心遣い、感謝する」
俺はバーデンに礼をするとラキラの元に向かった。デンゼルも、ジュールも、俺に気付いて喧嘩を止めた。ジュールはさっとラキラの背中に張り付く。双子の老人は俺の前に来て、姫を頼みます、と何度も頭を下げた。
ラキラの先導で森の中に入った。老人らとデンゼルは付いて来なかった。森の入口で老人らは手を振り、デンゼルは茫然と突っ立っている。アトゥラトゥルはというと、二本の足と翼を畳み、蛇のように蛇行して俺たちの後ろを付いて来た。
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