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02


 現れたドラゴンはワイバーン型であった。手が翼であり、猛禽類のような足があった。首は長く、尾も長い。まるで蛇のようだ。翼開長はというと、頭からしっぽの先よりも長い。尻尾の先にも矢羽のような翼が三枚ついていた。


 それがガーディアンの頭頂部に向けて滑空してくる。近付くにつれその姿も明らかとなる。大きさもさることながら頭に二本の角。全身が青い鱗に覆われているのが見て取れた。


 弓を下ろすようにハロルドに命じようとした。が、その必要はなかった。ハロルドは腰を抜かし、仰向けになって後ろ手を付いている。


 無理もない。長城の西を旅したといえどもやはり相手はドラゴンなのである。いや、もしかしてハロルドははぐれドラゴンとしか遭遇したことがなかったのかもしれない。本来、魔法のドラゴンは世界樹にへばりついている。


 森でバッタリ会うしかその姿を見ることは出来ない。だが、魔法のドラゴンが人に姿を見せるとは思えない。ハロルドとしては、見たことのない型のドラゴンだったのであろう。それについては誤解がないように敢えて言うが、ワイバーン型とかドラゴンの種類を言ってるのではない。ヤドリギを持ったドラゴンは同じ型をしていたとしても風格というか威圧感がはぐれドラゴンとまるで違う。


 ドラゴンの着地に備え、俺はハロルドの首根っこを掴むとズルズル引き摺って端へと移動した。頭頂部中央にスペースを造らなければならない。ここへ来てドラゴンに押しつぶさたなんて笑い話にもならない。


 ドラゴンの、鷹のような足が搭のツィンネを掴んだ。大きな翼が綺麗に折りたたまれ背中側に向けられる。そして、石板タイルの床に手が置かれた。


 尻尾は頭頂部からはみ出していた。頭は蛇が鎌首をもたげたようにずっと高いところにあった。その首が俺の方に向かって来ている。


「殿下っ!」


 イーデンの姿があった。すでに魔法剣を発動していて雷をまとった剣を手にしている。シュガールも搭の壁面から次々に頭頂部へと上がってきていた。イーデンはシュガールの能力でドラゴンが現れたのを察知したのだ。ドラゴンの動きが止まった。


「殿下っ、今のうちに」


 そう言ったのはハロルドだ。腰を抜かしていたはずだが俺の前に立ち、弓を構えている。俺はイーデンに、動くな、と命じた。イーデンは階段を上がったそこで動きを止めた。ハロルドには問答無用で弓を取り上げた。一旦止まっていたドラゴンの頭がまた俺の方に向かい始める。ドラゴンは俺を食おうとしているのではない。背中にいる誰かを下ろそうと姿勢を低くしているだけだ。


 シーカーらはドラゴンに乗る者たちをドラゴンライダーと呼んでいた。王国に属する人間は誰一人その存在を知らない。シーカーは怪しげな魔具を操り、ドラゴンと戦うということだけが一部の者に知られていた。


 そのシーカーがまさかドラゴンに騎乗するとは思ってもみない。いや、それ以前にドラゴンを操れる人間がいること自体、信じられないことなのだ。


 案の定、イーデンも、ハロルドも、ドラゴンの背中に人間がいるのに驚きを隠せない。その人間がドラゴンの翼を使って滑り降りて来た。ドラゴンが自らの翼で造ったスロープだ。二人はただただ見守るしかないようだ。


 ドラゴンから降りて来た人間はドラゴンのアーメットヘルムを被っていた。ラキラ・ハウル直々のお出ましって訳だ。俺はハロルドの肩を叩き、後ろに下がらせた。ラキラはスタスタと俺の前まで来る。


 ドラゴンの顔を模した装飾品がラキラの肩から胸にかけて飾られていた。ドラゴンは下を向いていて、その後頭部で左胸を守るようなかっこになっている。以前見なかった防具だ。ちょっと趣味が悪い。アーメットヘルムと合わせてドラゴンの顔が二つ、ラキラの体にあることになる。


 新しい魔具か? だとしたらラキラも危険に晒されているのかもしれない。非常時のために防備を固めているってことか。


 ハロルドは俺の後ろから、殿下、殿下と連呼していた。うるさいやつだと思いつつ、ああ、分かってると少し強い口調で黙らせた。


 ラキラ・ハウルは笑っているようだった。アーメットヘルムは脱いでいないが、仮面の下はおそらくそうであろうと感じた。


「今夜はいい夜ね」


「ああ、雲一つない」 ラキラが直に来たとするなら仕事は終わったも同然だ。ただ、問題はある。「ところでどうすんだ? この状況。ドラゴンライダーは秘密なんだろ?」


「大丈夫」


 やはり笑っていた。ラキラの声色が笑っている。仮面の下はいたずらな笑みを浮かべているのだろう。いざとなったら魔法で彼らの記憶を消すつもりなのだ。


「なるほどな。で、そっちの準備は整ったのか?」


「まぁね。でも、反対意見もある」


「意見とは?」


「平たく言えば、王国なんてほっとけってこと」


「まぁ、そいつらの言い分も分からないわけでもないな。ずっと密かに暮らしていたんだ」


「他にも問題がある」


「他にもか。こっちも問題だらけなんだ。だが、強行するのだろ?」


「ええ。でも、その前にあなたに会ってほしいドラゴンがいるの」


 それでか。俺はこのドラゴンに乗せられてどこかに連れていかれるんだ。仕事は終わったも同然だと思ったが、そうは上手くいかないもんだな。


「行きたいのは山々だが、」 イーデンは、俺が命じてから一歩も動いてなかった。「俺はここにいなければならない理由がある」


 俺一人で行ってしまえばイーデンとの約束を破ることになる。


「そうね。敵がいつ襲って来るとは限らない」


 こちらの状況を把握している。ラキラはラース・グレンから話を聞いているようだ。ちょうどいい。それを理由にするか。


「行かねばらならないのなら、捕虜は解放するか。そうなれば俺たちは身軽だ」


 俺たちとはここにいる三人とカリム・サンとフィル・ロギンズを含めた五人だ。このドラゴンの大きさからいって五人ぐらいは楽勝だろう。捕虜は記憶でも何でも飛ばせばいい。


「いいえ。さっき会ってほしいと言ったドラゴンにあなたのことを話した」 ローラムの竜王は俺をマレビトと呼んでいた。「話を聞くのはあなただけの方がいい。それに、わたし達が置かれている状況は簡単では無い」


 つまり、ラキラが言いたいのは、俺たちはラキラの里に押し掛けなかった方が良かった。結果的にそうはならなかったからよかったものの、押しかければ一悶着起こっていた。まぁ、そうなるわなぁ。ムカデのドラゴンの里に入ったのも俺一人だったしな。


「俺一人が行くとしてだ、俺の仲間たちはどうする。新手がいないとも限らない」


「大丈夫。わたしとアトゥラトゥルがいる」


 アトゥラトゥル? あ、このドラゴンの名前な。だが、俺たちは一緒に行くのでは?


「ここに残る誰かとアトゥラトゥルを同調させる。何かあったら私たちがジャンプする。あなたは魔法を受け付けないのでジャンプは出来ない。どこかで待っていてもらいます」


 あくまでも俺一人ってわけか。まぁ、本物のドラゴンがいたなら誰が来ようとも負けやしないんだがな。


「ところで、ラキラ。少し会わないだけだったが装飾が増えたんじゃないか。それは新しい魔具か?」


 ラキラの肩から胸にかけてのドラゴンの装飾品。俺はそれを指さした。すると突然その装飾が口を開けた。ラキラの背中では翼が広がり、腰からは尾っぽが現れた。ドラゴンのアーメットヘルムも合わせて、ラキラの見た目まるでドラゴンニュートだった。


 ラキラは声を上げて笑っていた。俺以外の者からしたら、これでは竜人どころか魔王の高笑いだ。ハロルドは驚いてまた腰を抜かしている。イーデンは、殿下ぁぁぁ、と叫びながら俺の方に向かって来ていた。







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