01
雨男と風太郎は、所持していた剣とタガーの紋章でチアナとイスランの王族と分かった。年齢と容姿から雨男はコウ・ユーハンで、風太郎はウマル・ライスマンに間違いないとイーデンは言う。瓦礫の中から取り出した二人は骨折や怪我をしているものの命に別条はなかった。
彼らが率いた弓兵五十五人もイーデンのシュガールに襲われて、ことごとく動きを止められていた。全員がチアナの兵で、雨男と風太郎の組み合わせから隊の編成が弓兵と決められたのだろう、チアナとイスランはすでに共同で作戦行動するほど強い繋がりを持っていた。
弓兵らは王族二人が捕らえられたことを知ると大人しく俺たちに従った。王族を置いて逃げるわけにもいかない。
彼ら全てをクレシオンの塔、ガーディアンに収容してある。もちろん、王族を黙らすあのマスクも用意してあった。王族との戦いを想定しての旅である。王族二人にも俺が裁判中に味わったあの辛い生活を体験して頂く。
戦いがあってからもう五日が過ぎていた。ラース・グレンは単独で旅立っていた。所帯が大きくなりすぎてお忍びの旅とはいかず、かといって雨男らを置いて行く訳にも行かない。彼らのお守りもあるし、ラース・グレン一人に任せるしかなかった。
搭の最上階には、俺とイーデン、そしてハロルドがいた。イーデンはシュガールと地雷に集中してもらい、俺とハロルドが交代で頭頂部に上り、目視で敵を警戒する。その下の階はカリム・サンとフィル・ロギンズだ。雨男と風太郎の面倒を見ている。
さらにその下の階にはシーカーの女戦士二人。彼女らには申し訳ないが、五十五人もの弓兵の面倒を見て貰っている。もちろん、任せっきりってのぇも悪いので、イーデンのシュガールも監視に一役買っている。弓兵らの一部はシュガールの電撃を食らった。シュガールがチョロチョロしているだけで弓兵らは変な考えを起こさないだろう。
五日も経っている。ラース・グレンはタイガーに会えただろうか。搭から見て西の方角は、ヘルナデス山脈が南から北に連なっている。その最高峰たる竜王の角は南西の方角に見えた。東は延々と、荒涼たる草原が広がっていた。
シーカーの里はヘルナデス山脈を隔てた向こう側の何所かにある。ローラムの竜王が張った結界はヘルナデス山脈の高峰を結んで魔法の壁を作っている。ムカデのドラゴン、ジンシェンの里は結界よりも尾根が西に入り込んだそこにあった。タイガーが居る里もきっとその様などこかにあるはずだ。地図上で確認すれば大体の位置は特定できると思う。そういう場所はそう何か所もないはずだ。
別にラース・グレンを信用していないって訳ではない。ただ自分で探すのならどうする、とそう思っただけだ。ラース・グレンはきっと仕事をやり遂げてくれると信じている。
月が真上から照らす明るい夜だった。空気が余程澄んでいるのだろう。雲一つなく、空気の透明度も高い。ゴーストタウンのクレシオンが瑞々しく青く照らし出されていた。
交代の時間である。ハロルドが下の階から姿を現した。俺たちは二人で二時間おきに見張りに立っている。
ハロルドは頭頂部に上がると必ず最初にやることがあった。頭頂部の縁に沿うのこぎり型隙間のツィンネの上に立ち、宙に向かって小便を放つのだ。
本人の言い分は、見張りの最中に催したくないでしょ。まぁ、目を離した隙に敵襲となればな、それは分からないことではないが、やはり一番は己の楽しみなのだろう。
風向きによっては小便が自分に帰って来る。そうするときゃっきゃ騒ぎ、そうでなかったとしても小便の出が悪く、勢いがなければつまらなそうな顔をして俺の方に向かって来る。どんな時でも楽しみが見つけられるのは性格的に得だ。壊れにくいし、だから魔法を使えなくても長城の西奥深く、ガリム湾のダンジョンまで行けたのであろう。
そこにいくとイーデンは真面目だ。搭の最上階で瞑想をするように胡坐を組んでいる。魔法は歩いていても、用を足していても解かれることはない。
もちろん寝ていてもだ。だが、敵を察知するという魔法の性質上、意識の波を造りたくない。体力の低下も魔法に何らかの影響を及ぼすのだろう。それでその瞑想スタイルなのだが、ここ五日間ずっと魔法を展開しているのだから、瞑想のスタイルであっても負担は相当なはずだ。
俺としては、頼りになるのはイーデンだが、ほっとけないのもイーデンである。ハロルドは例によって小便をカーディアンの頭頂部から放ち、気分良く俺の方にやって来た。真顔がニヤけているからその辺りの心境は分かりづらいのだが、調子はどうだという声掛けに、上々とだけ答えた当たり、絶好調なのはまぁ、間違っていなかったんだろうなと思う。
俺はハロルドの肩を二回叩き、頼んだぞと階段へと向かった。ハロルドは、了解と答えたが、その後すぐに、あっ、と変な声色を出した。
ハロルドは上空を見上げていた。その目線の先を追うとそこには魔法陣があった。夜空に光るように紫色の魔法陣が展開している。
紫で思い出すのはカール・バージヴァルだ。アーロン王の怒りを買い、魔法の攻撃を受けた際、展開した魔法陣は紫色であった。
やつはその魔法陣に自ら飛び込み姿を消した。俺とラキラ・ハウルを飛ばした魔法の魔法陣も紫色だった。上空に浮かぶ魔法陣はおそらく空間魔法だろう。この周囲で誰かが俺たちを攻撃しようと魔法を発動した訳ではない。
攻撃を加えるような、または攻撃を加えるために自身を強化するような魔法は、魔法陣が赤色だ。上空の魔法陣の色から判断するに、俺たちが直ちに襲われることはない。
その辺のことはハロルドには分からない。敵の攻撃かと思ってか、矢を取り、弓を構えた。そして、固唾を呑んで周囲を警戒した。
ラース・グレンが旅立ってすでに五日が経っていた。俺としてももうそろそろだとは思っていた。だがしかし、迎えに来るにしても魔法を使って来るとは思ってもみなかった。しかも魔法陣が現れたのは上空である。
単に人が送られて来たとするなら、これでは自殺行為だ。だとするなら考えられるのは、送られてくる人間がドラゴンと一緒だということだ。ハロルドは驚くに違いない。いきなりドラゴンが空から現れるのだ。
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