10
雨が降って来た。シュガールと男の戦いを見ていたフィル・ロギンズは手のひらで雨を受け止めていた。
「あの男が作り出したのは水の防護壁かもしれない」
電気は水に通りがいい。男は避雷針のように自らが作り出した防護壁に電気を呼び込み、接地へと導いたのだ。
さらにまた一つ、魔法陣が上空に現れた。今回のはイーデンの地雷のようにゆっくり降りて来て、地面に着地すると消えていった。
「二つ目の魔法。考えられるのは」
フィル・ロギンズはコインを水たまりに投げた。跳ね上がった飛沫が触手のように形を変え、しかも先端の尖らせた。一斉にコインに向かう。コインはつつかれ、つつかれ、転がって、転がって床の上を移動していく。
どうやら水に力が加えられると触手が飛び出すという仕組みらしい。コインは、床が濡れているのでどこに転がってもつつかれる。まるで生きているようで、延々と踊っていた。
雨は止まない。足元はもう水浸しだ。水の触手も威力が増していき、やがてコインを貫通するまでとなっていた。瞬く間にコインは消え失せてしまった。
皆、動けないことを悟った。ツィンネの凸部分に立っいる女が叫んだ。弓兵を監視していた。
「アーチャーが弓を射る!」
矢を放っても到底ここには及ばない。だが、しかし、王族がいた。イーデンのシュガールを軽く退け、新たな術を放っていた。それはどうやら俺たちを塔の上に釘付けにする目的らしい。
誰もが嫌な予感がした。それが意味すること。矢が降ってくる。シーカーの女も当然それを理解していた。だが、しかし、動けない。ツィンネから飛び降りればフィルが投げたコインと同じ運命が待っている。
女は悲愴な面持ちで俺たち全員に視線を送った。誰もどうすることも出来ない。ずぶ濡れの中、女の運命をただ見守るしかないようだ。俺はというと、この雨にもかかわらず全く濡れていない。魔法無効化の特性が効いている。俺は女に走り寄るとその手を取り、ツィンネから下し、抱きかかえた。
雨が降り注ぐ中、矢が降って来た。どういうトリックか分からないが、ガーディアンの高さを考えれば少なく見積もっても一キロの倍は飛ばしたことになる。しかも、雨の中をだ。
やはり狙いは正確だった。矢の全てが外すことなくガーディアンの頭頂部に到達すると石の床に当たり、跳ねた。水の触手で、コインのように踊って、瞬く間に粉々になっていく。全員無事だった。矢を受けていた者もいたが致命傷は避けたようだ。
昨日よりかは条件が良かった。日中であり、雨が降っているせいで矢の軌道に飛沫が立つ。それでも、これをずっとは続けられない。雨に打たれ続ければ体温は低下し、動きが鈍っていく。第二波が訪れた。
皆、剣を抜いていた。軌道が読めるからタイミングさえ間違わなければ何とか払える。足を動かせなくとも体は傾けられる。俺は動き回り矢をかわした。魔法の雨は俺にはないのと同じだ。
女を下した。俺の足元には雨水がない。
「自分の身は自分で守れるな」
女はうなずいた。
「イーデン殿、弓兵は任せた。俺は雨男をやる」
電撃が効かないのは雨男だけとみた。丘の上はずっと変わらず晴れ晴れとして日が当たっていた。
「承知した」
イーデンにシュガールを向かわせる。俺は雨男を叩く。
突如、振動が起こった。ガーディアンが揺れている。そして、岩に当たった波のように飛沫が頭頂部を襲った。
俺は北側のツィンネに駆け寄った。見下ろすと水の巨人がガーディアンを両の手に持って頭突きを喰らわせている。頭を打ち付けるたびに飛沫が上がった。ガーディアンはまるで嵐の中の灯台のようだった。
城に見立て、必要以上に強固に作っていた甲斐がある。ガーディアンは持ちこたえていた。しかし、それは時間の問題だと思える。水の巨人の破壊力は際限がない。降りやまぬ多くの雨水を吸って、巨人は頭を打ち付けるたびに巨大化していく。
俺たちは当初、敵の攻撃の要が矢で、水の触手はそこに導くための補助だと考えていた。ところが、矢も釘付けの一環だった。本命は水の巨人で、ガーディアンごと俺たちを葬ろうと雨男は考えていた。
いや、もしかして俺たちは川を渡った時点でここに来させられることになっていたのかもしれない。クレシオンの興亡はエンドガーデン全土で語り草となっている。ガーディアン建設の真実もそれに拍車をかけていた。天罰だとか、悪霊に街を支配されたとか色んな逸話が生まれた。どの王国でもクレシオン出身だと言えないほど誰もがその存在を知っていたのだ。
川を渡れば草原を通る。草原での弓の攻撃は俺たちをここに誘導する罠だった。俺たちは敵を待ち構えていたつもりが、逆に追い込まれていた。
見る間に巨人はガーディアンの高さを越えた。次の一撃でガーディアンは倒壊するかもしれない。俺は助走をつけ、塔より頭一つ飛び出た巨人のその顔に突っ込んでいった。巨人の頭部は消え、俺は雨男の方へと落下していく。
雨男は飛来する俺を串刺しにしようと教会の屋上から幾つのも水の触手が伸ばされた。やつは俺が魔法の効かない体質なんて知らない。性懲りもなく次から次へと尖った触手を俺に向かわせた。
触手なんて全く意に返さなかった。教会に着地すると、襲って来る水の触手をよけもせず、雨男に向かった。
雨男に動揺が見られた。始めて見せた恐怖する顔であった。分厚い水の壁を幾つも作り、自分自身にはシュガールの時の様に水のドームを覆いかぶした。
「無駄だっーーーつうの!」
幾つもの水の壁を突っ切り、水のドームを破り、思いっきり雨男を殴ってやった。雨男は飛んで行って床に転がった。
雨が止んだ。魔法が解除されたのだ。雨が降っていたの嘘のようで、屋上の石板タイルは乾いていた。おそらくイーデンも上手くやってくれているだろう。カーディアンを見上げれば、矢は飛んでいなかった。俺は雨男を抱きかかえた。
カーディアンの頭頂部へ飛ぼうかと思ったその時、突風が吹いた。俺の横を風が駆け抜けたようだった。風が吹いた先を見ると男が宙に浮いていた。腰までの丈が短いマント、ケープをはためかせてその手には、俺の脇にあったはずの雨男が抱かれていた。
王族はもう一人いた。矢を際限なく遠くに飛ばしていたのは間違いなくこの男、風太郎の仕業だ。
「さんざん遊んでくれたなぁ」 逃がせばめんどうなことになる。「逃げられると思うなよ」
風太郎に向けて飛んだ。風太郎はというと、待ち構えたように赤い魔方陣を展開した。そして拳を握り振りかぶると自身が作り出したその魔方陣に己の拳を叩き込んだ。
魔法陣から衝撃波が発生した。当然、俺には通用しない。衝撃波は空中にいる俺を置き去りにして、後ろにあった多くの家や屋敷を爆風さながら粉みじんにして消し飛ばす。俺はというと、風太郎に近づいて行く。拳を大きく振りかぶった。
風太郎は驚いていた。呪文を唱えると魔方陣が現れて、それがまるで机の上で回転するコインのごとく風太郎を中心に回転した。雨男と同じように防護壁を張ろうとしている。おそらくは空気壁なのだろう。が、どおってことない。
俺はかまわず風太郎に拳をぶち込んだ。風太郎は雨男共々、高い打点でサーブを打たれたバレーボールように落下していく。崩れかかった壁を幾つも破壊して、瓦礫の中に消えていった。
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