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07


 段取りが変わったことを俺が報せた者はエリノアだけだ。しかし、エリノアが漏らすはずはない。リーマンが出発前にリストを持って来た。エリノアはお友達をエトイナ山に送り込みたいらしい。だとしたら、妨害するとは考えにくい。


 日が沈もうとしていた。一面赤く染まった西の空に、竜王の角のシルエットが浮かび上がっていた。


 見渡す限りの草原にぽつんと三本、木があった。どれも高さは三、四メートルほどで低い上、樹勢も衰えている。風雨にさらされているからなのだろうか。それとも、馬に葉っぱを食われて弱ってしまったのか。


 馬を縛るには丁度良いようだし、俺たちはその木の袂で野営することにした。穴を掘って囲炉裏を造り、木の枝を折って、火をくべだ。


 どうも、嫌な予感がする。先ほどまでちらほら見受けられた馬がいない。夕暮れとなって寝床に帰ったのか、鳥も鳴いてはいない。多くの者に見られているような視線も感じる。


「イーデン殿、地雷を頼みたいのだが」


 うなずくとイーデンは呪文を唱えた。空に巨大な魔法陣が浮かび上がった。それがゆっくりと降りて来て地面に姿を消した。


 地雷の効果範囲は半径十メートルから五百メートルの間だ。俺とイーデンを除いて他の者はイーデンが魔法を解くまで半径十メートルの円から出ることは出来ない。


 もし万が一、追っ手がいればこの罠に引っ掛かる。イーデンから聞いた話ではネズミやウサギなど小さなモノには反応しないそうだ。一々五月蠅くないのでそれはそれでいいが、馬やシカなら発動してしまう。


 馬が地雷を踏んでも、人との見分けはイーデンが認知できるので心配ない。その時点で状況は把握できるし、地雷の発する音と光で俺たちも見逃すはずはない。眠っていようとも、いざっていう時には対応できる。


 それでもやはり、万が一ってこともある。地雷に任せっきりせず、俺たちは見張りを交代で立てることにした。


 順に一時間ずつ一人が受け持った。十一人いるのだから余裕だろう。俺が見張りに立った時は深夜だった。月は見えず、星もなかった。人気もなく、真っ暗で、しかも、遮るものはない。ラース・グレンはよくもこの道を選んだものだ。イーデンがうってつけの魔法を持っているから良かったものの、明日にでも問いたださないといけない。


 場合によっては、今後どこを通るか行程を知る必要がある。タイガーの場所は言わないまでもある程度の通過予定地は把握したい。


 見張りを交代し、横になったすぐであった。地面に幾つもの衝撃音と馬のいななきを聞いた。弓矢での攻撃であった。飛んできた矢は地面にほぼ垂直で突き立っていた。数も尋常ではなく、それが第二波、第三波とやって来る。まるで雨のようである。地面が矢で埋め尽くされていく。


 皆それぞれ、盾や荷物を自分の頭の上にかざし、身を守った。木の袂に身をひそめる者もいる。囲炉裏端にいた見張りはハリネズミのようであった。死んでも、次から次へと矢を受けている。


 一方で、木がある方はそれほどでもなかった。馬は一頭横たわっていたが、他はいななきを発し、手綱を切ろうと暴れている。間違いない、敵は火の明かりを目標に矢を撃ってきている。


 俺は腰のブラスターで囲炉裏を撃った。ボンっと火の粉や土を跳ね上げて囲炉裏は無くなった。真っ暗闇である。馬の暴れる足音だけが草原に響いていた。


 思ってた通り、敵は火の明かりを目標に矢を放っている。矢の雨は止まったようだ。目も暗闇に慣れてきてイーデンがどこにいるかも分かった。イーデンの方も俺が無事なのが分かったようで俺に向けて首を横に振っていた。


 敵は、イーデンが仕掛けた罠にかかっていない。つまり、魔方陣の外から攻撃を仕掛けている。俺はそれぞれに散開するように手振りで指示を出した。敵は闇雲に矢を放っていない。おそらくはもう襲ってこない。だが、敵の手の内が分からない以上、万が一の時に一っ所に固まっていたら全滅の憂き目にあう。


「殿下。シュガールを放ちましょうか」


 イーデンの抑えた声である。敵がもし、まだその辺にいたなら効果的だ。俺はその意見にゴーサインを送った。


 馬は収まりつかなかった。そりゃぁそうだろう。いきなり矢で撃たれたんだ。馬だから成り行きは当然わからず、イーデンの罠なんて知ったこっちゃない。逃げたくて必至だ。


 散開すると言っても誰も木の方には近づかなかった。火を消しても、馬が暴れる音がする。それを目標に狙いを定めてくるかもしれない。


 皆、盾や荷物を高々と頭の上に掲げていた。もちろん、俺もそうだ。だだっ広い草原に男女が九人。他は一人がハリネズミで、一人が横たわったままである。俺たちはその姿勢で夜明けを迎えることになってしまった。


 やはり、敵は失せてしまったようだ。イーデンはシュガールに何の反応もないと言っていた。日が昇れば俺たちに、反撃の機会が与えられるのは言うまでもない。この調子では、日中は襲ってこないのだろう。


 馬が一頭死んでいた。さっきの矢の正確さからいえば完全に流れ弾だろう。他に一頭は傷を負い、長旅には耐えられそうにない。シーカーは二人死に、一人は重傷。それぞれが男だった。


 俺たちはシーカー二人を埋葬した。三本ある木の真ん中ほどである。あっちこっちに散らばった食糧やら盾やらを拾い集め、荷物をまとめた。重症のシーカーは連れていくわけにはいかない。元気な一頭馬を与え、傷を負った馬も面倒を見させた。


 四頭にそれぞれ荷物を乗せ、八人は空の馬にまたがった。俺たちを襲った敵は、弓矢という珍しくもない武器を使用した。一見、何でもない敵のようだったが、一筋縄ではいかない。


 矢は、五百メートル以上の飛距離だった。それも正確無比。ほとんどが囲炉裏から五メートルの範囲内に命中し、それは地面に刺さった矢から確認できた。


 そんなことが普通の人間に出来るだろうか。飛ばせるとしてもせいぜい距離にして百五十から二百メートル。達人ならもしかして五百メートルいけるのかもしれない。が、実際目にしたのは矢の雨あられだった。達人が五十人も六十人もそろっていたことになる。


 機械のような器具を使ったのか。もしそんな道具があるとしてこれだけ正確に狙いを定められるのか。道具を使おうとも結局、人のなせる技の範疇からは出れない。


 考えうるは、やはり魔法か。






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