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05


 国王は戴冠式後、大聖堂の広場で国民に向けて御言葉を発する。俺たちはそれを聞いたのちに出発する。


 複数の人間に俺たちが尾行されていたことでも分かる通り、王都はスパイが溢れている。もちろん、アメリアは手をこまねいているわけではない。ユーア国から何人もの王族が秘密裏に、竜王の門に入ったと聞いていた。ブライアンを守ろうというのだ。


 ユーア国の王太子リーバー・ソーンダイクが指揮を執り、その影にはリーマン・バージヴァルがいる。スパイ戦ならリーマンの十八番おはこ。宮中でなら尚更だ。今度はアーロン王の時のように失敗を犯さないだろう。


 それでも、もしやという場合もある。俺たちは聴衆に混ざり、大聖堂から姿を現すブライアン王を守ることにした。そもそも俺たちは護衛の頭数に入れられていない。ブライアンを守り切ってリーバー・ソーンダイクは、ユーア国の力をアメリア議会に見せつける腹積もりでいる。


 だから、聴衆に混ざって王を守ろうっていうのは俺たちの勝手な行動だ。主体的に動いていないので何かあったら対処しようってレベルになるのだが、まぁ、いないよりはましだ。こっちは魔法に対処できる者が二人もいる。


 少しばかり気掛かりなのはラキラ・ハウルだ。今回の戴冠式で王都に向かっているかもしれない。すでに魔法の解禁の件は公にされている。魔法省新設で魔法の取り扱いがすでに議会で話し合われているからだ。ブライアン王の権力移譲も市井に漏れ伝わっていた。人々の間ではそれを信じるか信じないかで盛り上がっている。


 そういった面では新王の、最初の御言葉は多くの人々を集めるだろう。ラキラ・ハウルもやって来るかもしれない。彼女もローラムの竜王と約束したのだ。王国の者らと歩調を合わせないといけない。


 入れ違いになってしまわないだろうか。そう思うと戴冠式を待たずに一刻も早く旅立ちたいところだ。


 最悪、入れ違いになったとしてもラキラはすぐに引き返す。俺がいない王都に長居はしないはず。多少の時間のロスは否めないがリスクの大きさから考えて、やはり出発は戴冠式後がベストなのだろう。


 俺はそれをエリノアに告げた。当然、エリノアは当初に決めた城に旗を掲げる段取りでいた。俺の案は時間を大きく短縮できる。緊張感がふと抜けた素の顔を、エリノアは一瞬見せた。どうやら戴冠式後に旅立つのは気に入ってもらえたようだ。






 戴冠式は大聖堂で行われた。法王がユーア国の自治領からお出ましとなっていた。法王の手によって王冠がブライアンの頭に乗せられ、王笏と宝珠がゆだねられる。その他にブライアンは法王から“信仰の守護者”という特別な称号を頂くという。


 ブライアンは王となったと同時に教会から爵位を得た。教会の風下に立ったと言える。つまりそれは、アーロン王暗殺は教会も納得しているということだ。エリノアは全方位くまなく手を打っていた。


 多くの人々が大聖堂の前に集まっていた。ブライアンはまだ姿を見せていない。現れるのは階段のずっと上の、大聖堂の正面扉からだ。俺たち観衆は階段を登れず、大聖堂からずっと下の広場にいる。


 アメリア全土から人々が新王を見ようと王都の大聖堂に押しかけている。それに例の新王の御言葉だ。噂が本当か確かめずにはいられないのだろう。広場には収まりきらず、街路にまで溢れかえっていた。王の姿が見える広場は芋を洗うようであり、身動き一つ出来なかった。


 今何かあれば大変なことが起きる。人々はパニック状態に陥り、将棋倒しでもなったら多くの命は失われてしまう。


 昨夜、リーマンが俺の部屋に現れた。俺の出発が戴冠式後だと知って会いに来た、というのは表向きで、来た本当の理由は契約の旅のメンバーリストを見せるためだった。


 アメリアは二十人でユーアも二十人、イザイヤの教徒は十人、合計五十人が第一陣としてエトイナ山に向かう。注目すべきはアメリアの二十人だ。リーマンに言わせれば、全てカール・バージヴァルの御学友らしい。そもそもエリノア自体がカールの元恋人なのだ。言うまでもなく、二十人全てにエリノアは面識を持っている。


 その中には女性も含まれている。エリノアの親友たちなのであろう。魔法についての閣議が開かれた時、エリノアは契約の人選だけに口を出した。リーマンが何を言わんとしているか分かる。エリノアは何かを企んでいる。


 ブライアンの後見人にもならなかった。他の仕事をほっぽり投げ、魔法にだけ注力しているようにも見受けられる。平民の出だから魔法に対しある種、憧れがあったのかもしれない。しかし、相手があのエリノアだ。そういったセンチメンタルな考えは微塵もないのだろう。


 つまり、リーマンは俺に警告をしに来たのだ。やつは多くは語らなかった。リストを見せ、その者がどういうやつか言えばその先は別に言う必要もない。言うなればこれは、俺への手向たむけだ。


 意外と義理堅いやつだ、と思いたいところだが、リーマンはソーンダイクに肩入れしている。エリノアが選抜した二十人を監視することと、ユーア国のメンバー全員の安全が頭にあるのだろう。契約の旅のリーダーは俺なのだ。問題が起こらないようにするのはそもそもが俺の勤め。リーマンの望みは俺の義務と合致している。


 しかし、今更ながらこの広場、何という混雑さだ。もうそろそろブライアンがお出ましになってもいいものだろうに、現れないところをみると戴冠式が長引いている。法王が張り切っているのか、大司教のキエーザが目立とうとしているのか、はたまたブライアンがビビって観衆の前に出てこられないのか。


 まだ五歳の子供だもんな。これだけの聴衆の前に出て何か喋らなくてはならないなんてよくよく考えれば残酷だ。荷が重いどころではない。


 国軍も憲兵も大変だろう。おそらくはブライアンを守るだけで精いっぱい。それはリーマンらにも言えることだ。もし、魔法を操る敵が王都に潜り込んでいて何か企んでいたなら、リーマンらはそれで手一杯。民衆は置き去りだ。


 俺なぞはまだ強化外骨格を装着しているからいい。ここから一挙に飛び出すことは可能だ。観衆がパニックに陥ったとして、カリム・サンらには悪いが、抱きかかえて脱出できるのはイーデン一人ぐらいだ。


 俺たちは何の役にも立てそうもない。観衆に埋もれてしまっている。ブライアンの護衛を、と思っていたが浅はかだった。この人出じゃぁ俺たちは自分たちの身を守るので精一杯。


 その不安をよそに、ブライアンが大聖堂から姿を現した。少年王は法王や大司教にいざなわれ階段の手前まで来る。そして、手にある紙を大きな声で読み上げた。


「臣民に次ぐ。朕は君臨すれども統治せず。臣民自らを持ってアメリアを発展せしめよ。朕は汝らの父であり、母であり、兄であり、師であり、アメリアの大地であり、空であり、守護神である。絶えず汝らの傍に居ると心得よ」






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