02
イーデンが、終わりましたと俺に言った。呆気なかった。ものの十五分か二十分ぐらいだ。全然懲りないというか、何か対策でもしようものなら逃げるのも理解できるのだが、ただ闇雲である。めげないという面で言えばハロルドはストレスに強く、身体的にもタフといえる。それに長城の西から生還した。やつはよっぽどツキにも恵まれているのだろう。実際今回も恩赦されようとしている。
いや、恩赦は二日後に出される。恩赦が出される前のハロルドは、王太后陛下に召し上げられて俺に従僕という形で与えられる。二日待ってその後で自由の身になればやつとしては万々歳であったろうが、やつに選択の余地はない。幸運かどうかは本人の受け取り次第というわけだ。
やつにとって悪い話ではないと思う。やつの目的と俺の目的は重なっているはずなのだ。逃亡し、どこかでぶっ倒れているハロルドのもとへ俺たちはこぞって向かった。
ハロルドはやはり道に横たわっていた。多くの人が見守っていて、助けに近づく者はいない。おそらくはシュガールから逃げ惑い、襲われたところを見たのであろう。魔法を目の当たりにすれば誰にでもわかるはずだ。道に横たわっている男を攻撃した相手は王族。
その王族ってぇのが俺たちってわけだ。カリム・サンとフィル・ロギンズが肩に担いてハロルドを引き摺って進む。人々は道を開けた。畏怖の念が伝わってくる。馬車にぶち込み、竜の門へと急がせた。
魔法云々もそうだが、道に転がっていた男を連れていくのがキース・バージヴァルっていうのも良くない。見物人らは男の末路を想像しているのだろう。想像力たくましく色んな死に方を思いつくかもしれない。どうして俺に追われていたのかも面白がって話すかもしれない。今夜は酒場で大盛り上がりだ。
意識が朦朧の内にハロルドを竜王の門の俺の部屋に入れた。こいつの行動を止めるには鎖や首輪ではどうにもならない。それは二回の逃走で身に染みた。こいつは自分がしたいことしかしないのだ。誰が何を言っても耳を貸さない。
早々に、目標が一致していることをこいつに理解させないといけない。追いかけっこやかくれんぼなぞしている暇はないのだ。椅子にうなだれているハロルドがすこし意識がはっきりしたのか、顔を上げて俺たちを見ていた。虚ろなハロルドの視線はやがて焦点が合い、話を聞けると判断した俺はパワード・エクソスケルトン、別名、強化外骨格をハロルドの前においた。
「これがなにか知っているな」
「知らない」 チラッと見ただけ。「私には関係ない」
興味がないようだ。自分の発掘現場からこれが出てきて、俺がそれを持っているなぞ夢にも思っていない。それよりもこいつの今の関心事は、釈放されたのになぜ自分が王族に拉致されたかだ。
「関係ない? それが大ありなんだな。これは遺跡の発掘現場で拾った」
ハロルドは目の色が変わった。強化外骨格に飛びつき、手に取って、細部を確認している。
「それを身に付けると何百倍の力を出せる。見せてあげようか」
ハロルドがうなずいた。俺は強化外骨格を装着した。さほど時間はかからなかった。前の世界ではみっちり訓練を受けていて、しょっちゅう身に着けていた。
ブロンズ像が俺の机に置かれていた。ペガサスのような馬が翼を広げていて、今にも飛び立とうとしている。その左右の翼を俺は馬の背中側にくっつけた。そして、首も左側に曲げてやった。
「どうだ?」 ペガサスをハロルドに手渡した。「信用するか?」
ペガサスを受け取ったハロルドの目の輝きは尋常ではない。ペガサスの重みをしっかり感じ、トリックでないと確信するとペガサスを捨てた。床にゴトンとペガサスの落ちる音かがした。
言葉も出ないのか、俺に近づいてくるとまた強化外骨格を触り、嘗め回すように見る。
「これ一つだけですか? 見つけたのは」
「残念だがな。発掘現場はアーロン王によって埋められている」
「私が呼ばれたのは発掘を再開しようというのですね」
「いいや、残念だがそうではない」
ハロルドは、はっとし、一歩下がった。身の危険を感じている。
「心配するな。別にこれを秘密にしているってわけではない。俺はこれを着て、王都でも、州都でも大暴れしている」
「では、発掘なされればよろしい。なぜなさらないのです」
「これは誰にも動かせるってもんじゃない。いくら発掘しても君たちには無用の長物だ」
「じゃぁ、なぜ私を」
「動かせられないのに俺は動かせた。その理由を知りたい」
それは嘘だ。俺はこれが何んであるかを知り、動かすべく動かしてやった。ハロルドは冒険家であるが、学者だ。こういう云い方をすれば、学者の血が騒ぐであろう。思っていた通りハロルドは頭を働かせた。
「もしかして、殿下が着ているそれは“天人の骨”というものかもしれません。私は勘違いしていました。最初に地上に降り立った人は天人の骨を身に着けていたと言われます。そして、彼らはドラゴンの領域深くまで進み、集落を造りました。私はその天人の骨をもっと小さなものと考えていました。ネックレスか首飾りのようなものだろうと」
俺のパスワードは拒否された。そして、この世界に来てからすぐに会った金髪の女、アンドロイドの“NR2 ヴァルキリー”。やつが現れて罪なき兵団が動き出した。ハンプティダンプティと呼ばれる軍事用ロボット、“XN-10 トルーパー”だ。
「ラグナロクは生きている。そうだな?」
「はい」
目的は発掘ではない。冒険だ。ハロルドは自分がここに連れて来られた理由を悟ったようだ。ハンプティダンプティが飛び去った後、ハンプティダンプティを追えとハロルドは牢屋で叫んでいた。そこにラグナロクがあると言うのだ。
「飛び去ったのは東南の方向。ガリオン大陸にあるか、その向こうにあるか。あいるはその手前か。もし俺がそこに行くとしてガリオンの竜王は黙ってそれを見逃してくれるか? それで相談だ、ハロルド。モノには順序ってものがある」
「順序? ですか?」




