01
ハロルド・アバークロンビーは知性的でいて、そのくせ後先考えないバカであり、そして、タフであった。
俺たち四人がメディシン刑務所を訪れるとハロルドはこう言った。
「用があるんなら二時間後にしてくれ。私は今、日光浴を楽しんでいる」
ハロルドは床に腰を下ろし、窓から差す日に当たっていた。小さな窓で、体の半分ほどだけが照らされている。窓は東向きである。昼になればこの部屋の日差しは失せてしまい、さらに暗くなるであろう。
金髪だが、黄色がつよい。バターブロンドというやつだ。ハロルドはそれを肩まで伸ばしていた。眉は濃く、髭は喉ぼとけが隠れるまでになっていた。毛をかき分けてどかっと大きい鼻が顔の中心に鎮座し、まるでヨークシャー・テリアのようである。
与えられたたった一枚の毛布を下に敷き、足を抱くように座っている。俺たちには見向きもしない。
「無礼であるぞ。ここにおわすはキース・バージヴァル殿下である」
カリム・サンがそういうとハロルドはチラリとだけこっちに振り向いた。それから全く応答がない。カリム・サンは呆れた顔を造り、それを俺に見せた。俺は、わかったとうなずくとハロルドの視線の高さに合わすため、日を遮らないようその横にしゃがんだ。ハロルドの顔は毛で覆われていたが、ニヤついているように見えた。
「近く恩赦が出る。お前は釈放だ」
「信じがたいな」
こっちを見向きもしない。横顔だけだが、やはりハロルドはニヤついている。何がそんなに面白いのか。
「アーロン王がお隠れになった。新王即位の慣例だ。お前だけが釈放されるわけではない」
「なるほど。それでわざわざ殿下自らが伝えに来たってわけか」
ハロルドは立ち上がった。俺たちを無視して扉へと向かう。イーデンがハロルドの肩を掴んだ。
「無礼であるぞ」
「無礼? あんたらはカールの命でここに来たのではないのか?」
ハロルドはカールと組んで、また発掘を続ける気でいる。
「いいや、王になるのはブライアンだ。カールは行方知れず。どこかに消えた」
青天のへきれきといった顔をハロルドは見せた。驚くのも無理はない。このハロルド・アバークロンビーが牢に繋がれている一ヶ月ほどの間で情勢はめまぐるしく変化したのだ。
俺たちがここに来た理由を説明するにはちょっとした時間が必要だった。ハロルドはバカではない。色々と尋ねて来るだろうし、話せばわかってくれるだろうと思っていた。俺としてはハロルドを説得する材料も用意してあるし、ハロルドもどうしてカールが消えたのか知りたいはずだ。
そう高を括っていたのが間違いだった。ハロルドは俺たちのちょっとした隙を見て、イーデンの手を振り切って牢から出て行ってしまった。やつは二度脱獄を試みている。
脱獄といっても幼稚なものだ。腹が痛いと夜中暴れて、様子を見に来た看守を振り切って逃げようとした。もう一つの脱獄も手口は違えどもやはり看守を油断させて、その隙に逃げた。
そういった情報はすでに俺たちは得ている。詰めが甘いというか、無謀というか、後先を考えないというか、思いついたらどうしてもやりたいのだろう。失敗も恐れていない、驚くほど前向きなのだ。ハロルドを知的なようでいて馬鹿だと称したのはそのためだ。
今回も同じようなことである。まさかとは思ったが、万が一に備えて事前に雷の蛇を通路に潜ませてあった。イーデンが用いる魔法で、イーデンはそれをシュガールと呼んでいた。シュガールは大きさも自在で、簡単な命令なら実行できる。
例えば犬と同じように目的物を特定し、追うことが出来る。犬の場合なら臭いだが、シュガールの場合は生体電気である。強化外骨格も生体認証に生体電気を採用している。シュガールは細胞が発する固有の電気信号を感知して目標を特定するのだ。
一メートルほどのシュガールがハロルドを追っていた。長い通路をひた走るハロルドだったが、見る間に追いつかれ、あえなく脱走は失敗した。
カリム・サンとフィル・ロギンズが、電撃に打たれたハロルドを運んだ。ハロルドの体臭はひどかった。さっきは牢内自体、悪臭がひどかったから気付けなかった。
用意していた馬車に行くまでもなく、ハロルドに接している二人は音を上げた。
メディシン刑務所の風呂を借りることにした。髪と髭は竜王の門で整えるとして、まずは臭い取りである。悪臭を放ったままでは王宮に入れなれない。かといって、公衆浴場を使うわけにもいかない。浴場の主人や客に迷惑をかける。
湯船に放り込み、ごしごし洗って新しい服を着せた。その頃にはハロルドは意識を取り戻し、自分で歩いて馬車に乗り込んだ。
竜王の門に行くには市街地を抜けるのが手っ取り早い。市街地から離れ、大きく回り込んで竜王の門に向かうことも出来るがその必要もない。ハロルドは罪を許されたのだ。罪人を護送しているのでなければ、誰かがハロルドを奪いに来ることもない。
ただ、人ごみに紛れて逃亡する可能性はある。案の定、ハロルドは馬車から飛び降りたかと思ったら人ごみの中に消えていった。俺たちは慌てなかった。ハロルドがバカなのは承知している。イーデンのシュガールがハロルドを見つけ、さっきのように電撃を喰らわすのを俺たちは馬車の中で待っていた。
シュガールはすでにハロルドの生体電気信号を覚えていた。メディシン刑務所の通路で襲った時、それを感知し、インプットされている。イーデンがハロルドを追えと言えばシュガールは永遠に、魔法を解かない限りハロルドを追い続ける。
そうでなくざっくりと、人を襲えと言えばシュガールは手あたり次第人を襲い続けるだろう。人か人でないかは生体電気で見分けられる。そうでなく、動くものを襲えと言えば生体電気があろうがなかろうが動くものがなくなるまでシュガールは攻撃し続けるだろう。
シュガールの行動は遠く離れていようが魔法の主に届けられる。もし、シュガールがハロルドを見つけたならイーデンに伝わる。もちろん、攻撃し、行動不能に陥らせたとしてもそうだ。
そのシュガールを、イーデンは五十体ほど放っていた。アンダーソン邸で戦った時は俺を丸呑み出来るほどの巨大なシュガールを三十体は出していた。放ったのはたった五十センチほどのシュガールだ。まだ余力を残している。
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