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09


「キース殿下の話は分かりました。わたしは我が国王陛下より全権代表としてつかわされております。我がユーア国も殿下のエトイナ山行きに参加致しとう存じます」


 ユーア国は要するにドラゴンとの戦いを平民に委ねようってわけか。はっきり言うねぇ。もうちょっと別の言い方もあったんじゃないのか。目の前にいる俺は、姿はキース・バージヴァルでも中身はただの平民なんだぞ。


 でもまぁ、仕方ないか。相手は俺を同じ王族と思って腹を割ってきている。エトイナ山行きを反対されるよりはましだと思わなければ。それよりも、エリノアだ。別にいいんだけど、話を勝手にどんどん進めてやがって。あいつはいったい何がしたいんだ。


「俺としても願ってもないことだが、その前にこの話、ソーンダイク王太子殿下は王太后陛下に聞いたのか。王族でない人々をこの俺がエトイナ山へ連れていこうとしていることを」


「それなんだが、キース殿下。エトイナ山行きについて近々閣議が開かれるそうだ。王太后陛下からこのわたしに閣議参加の要請があってな、それでどうしても殿下と話をしないといけないと今日はお招きした次第。わたしとしても捨て置けない、参加するつもりだ。近く殿下にも閣議の話が来る。どんなに知ったような口をきいたところで平民は平民。結局長城の西に行ったことがない。私としてもその点では力不足。長城の西の、最近の様子は分からない」


「断るべくもない。これは俺が言い出したことだ」


「有難い。それと、まだ言えないここだけの話になるのだがキース殿下、そしてリーマン殿には申し上げないといけない。王太后陛下はブライアン王が持つ外交権、統帥権、行政権いずれも内閣に委任するそうだ。戴冠式後の王の御言葉でそれが公にされる。それまでに王太后陛下は、エトイナ山行きと魔法に関する法整備など諸々について道筋を造っておきたいとのこと」


「委任?」 てっきりエリノアは全権を握って権力を振るうと思っていた。「王太后陛下はブライアン王の後見人とならないのか?」


「その件ですが、出過ぎた真似だとは思いましたが、私がブライアン王の後見人を承りました」


 ソーンダイクが後見人? 王が持つ全権を内閣に委任して自分は後見人とならない? だからか。そういう訳で議会と執政、大臣らはアーロン王暗殺に踏み切った。どおりで誰もアーロン王の死に異論を唱えないわけだ。


「実はわたしの娘クロエは近く、ブライアン王との式を挙げる」


 クロエとブライアンは芝生を裸足で走っている。クロエは幼いブライアンの手を取り、おぼつかない足取りに気を遣っていた。笑い声が聞こえる。


「義理の父であるという理由から王太后陛下はブライアン王の養育をわたしに託された」


 この世界のしきたりでは王に相応しい者がいない場合、他国から魔法の使える男子を貰って王としその国の姫をあてがう。今回の処置はその逆でバージヴァル家は他国から姫の方を貰った。ソーンダイク家がそれで納得したのは王太子リーバー・ソーンダイクをブライアン王の後見人としたためだ。


「ところが後見人と言っても、わたしはアメリアのしきたりをよく分かっていない。ここにリーマン殿を招いたのは他でもない、助力をお願いしたかったからだ。リーマン殿はアメリアの伝統やしきたりに詳しいと聞く」


 何もかも知っていたな、リーマンめ。それでウキウキしていた。


「お願い出来るだろうか、リーマン殿」


「わたくしめで良ければ何なりと」


 そりゃぁ、二つ返事だわな。リーマンはエリノアを始めこの国の重鎮たちに兄のアーロン王を殺されている。ソーンダイクにその気はなくてもリーマンはそそのかすだろう。ソーンダイクを使ってアメリアを国民から奪い返す。


 しかし、現金なやつだ。ついこの間までアーロン・バージヴァルを皇帝にって考えていた。つまりそれは、ソーンダイクをも臣下にしてしまおうってことだ。


 ソーンダイクもソーンダイクで悪気はないのだろうが無頓着にもバージヴァル家の由緒ある庭園を我が物顔で使っている。まぁ、そういうマイペースでお坊ちゃま的なところがリーマンにとって働き甲斐を感じさせるところなのだろうがな。


 妙な雲行きになって来た。しかも、エリノアだ。あいつは何を考えている。話を聞けば聞くほど分からなくなる。やることといえば俺のエトイナ山行きの道筋造り。得るものはなんにもないどころか、依然として宮中はリーマンに掌握されていたままだ。自分の居場所も作らず責務を果たさなければ息子ブライアンが王座を追われる日もそう遠くない。


 だが、そんなことをあのエリノアが許すとは思えない。二手三手、先を読んでいるのだろう。ソーンダイクの言う通りお茶会の後すぐに俺はエリノアの名を以て閣議の参加を命じられた。よくよく考えればエトイナ山行きにエリノアがこれほど入れ込んでいるのは何も国民のためとは限らない。これまでの経緯からそう思えてならなかった。


 閣議はエリノアを中心に執政デューク・デルフォードが取り仕切っていた。ソーンダイクはオブザーバーで出席している。各大臣が議論を戦わせているのを静かに見守っていた。国民議会議長も特別に席を与えられていた。


 幾度となく議論は本題から逸れ、互いに罵る痴話げんかに陥った。が、何とか魔法省新設は決まった。権力者不在の間での超法規的措置だ。魔法省には暫定的に、法に明るい有能な人材を広く集め、多くの法案を次の国会で提出するよう努める。


 議員立法も多く成立させる。その後、改正した国家行政組織法や新たに出来た魔法省設置法の規定に乗っ取り魔法省の組織を造り上げる。もちろん、ここにいる面々はブライアンの戴冠式後に権力が国王から移譲されることを知っている。


 エンドガーデンの歴史始まって以来の民主政治となる。それは自分たちが待ち望んでいたことなのだ。カリム・サンやフィル・ロギンズにこのことを俺はソーンダイクのお茶会の後に告げていた。


 カリム・サンなぞは民主政治に命を捧げていたと言っても過言ではない。議会のためならキース・バージヴァルを殺しかねないと噂になった男だ。感極まって声を詰まらせて泣いていた。俺は彼らに確認しなくてはならなかった。


 俺はエトイナ山に行く。危険な旅だ。民主政治がなったのだ。これ以上、彼らを俺の元で引っ張るわけにはいかない。


 俺といる必要はもうなかろう。これからは大手振って議会のために働ける。むせび泣く彼らをしばらくはそっとして置き、落ち着いたのを見計らって俺は自分の気持ちを告げた。


「カリム・サン、フィル・ロギンズ、潮時だな。色々助かった、ありがとう」


 だが、彼らの反応は思いもよらないものだった。


「我々は殿下のために命を捧げようと思います」


 彼らが言うには民主政治がなったのならもう我々の役目は終わったも同然。むしろスッキリしたくらいだ。議会とキース・バージヴァルの両方に仕えて来た。以前のキースならともかく、ここ最近の俺の働きを見て、葛藤やわだかまりに苦しむ日々が続いたのだという。


 俺のために命を捧げると言ってくれるのだ。俺はそれに応えなくばならない。二人に刀礼を施し、俺の騎士に二人を任じた。






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