07
ユーア国の王太子リーバー・ソーンダイクは先王の葬儀からずっと竜王の門に滞在している。そのソーンダイクに俺とリーマンが招かれた。庭園でお茶会をするそうだ。俺とリーマンは連れだってその場所に向かっていた。
なぜ俺たちがお呼ばれしたのかリーマンは情報を何か掴んでいるのだろう。いつものように手を背後に組み美しい姿勢で歩いているのだが、足取りは弾んでいるように見受けられる。
こいつが浮かれるということは再就職の見込みがたったということだ。自分に合った雇い主が見つかったというわけだ。変わったやつだ。王族のくせに使われることに喜びを感じている。
雇い、雇われるといってもリーマンは王族なのだ。組織に組み込まれる、主従の関係、賃金等々のお役所勤めやサラリーマンの辛さを分かっていない。本人はいたって大真面目なんだろうが、俺に言わせれば趣味やお遊びとしか思えない。
何も好き好んでそんなことをやらなくても、と思うだろうが、趣味やお遊びで命を落としてしまうことだってありうる。ハングライダーやバンジージャンプ。リーマンもそういう意味で言うとスリルも味わっている。
リーマンの気持ちは分からないわけでもない。ブライアン・バージヴァルの戴冠式が間近に迫り、俺の処遇も公にされた。王嗣という立場で、称号はない。その発表のついでといっちゃぁなんだが、財務大臣から相続について個人的に説明があった。
前王太子カール・バージヴァルの全財産を引き継ぎ、先王アーロンの資産の一部を与えられる。本来ならブライアンが全て相続するのだが王嗣となったからには、王になる手付金のようなものだと大金が書かれた明細の束を手渡された。名ばかりの王嗣ではないということだ。
まぁ、そうはいってもアーロンの資産全体から見ればほんの少しだ。称号がない分これで我慢しなってことなのだろう。それでも、元々持っていた分も合わせて俺は国内第二位の大金持ちになった。
十万ヘクタールに及ぶ農地に、国内有数都市にある数々の不動産、そのうえ島まで持っている。もちろん一位はブライアン王だ。彼は俺なんかとは桁が違う。
話しがどんどんリーマンとそれていくようだが、リーマンもまた大金持ちだ。趣味や遊びでやれることはほぼやりつくしたと想像できる。そして、そのどれもが詰まらなかった。所詮ごっこだったのだ。リーマンは天職と思える仕事を欲していた。
ユーア国の王太子リーバー・ソーンダイクはリーマンのお眼鏡にかなった相手なのかもしれない。リーマンのことだ。ソーンダイクの人柄も知り、今回のお呼ばれした理由もちゃんと情報収集してあって、そう思ったのであろう。会えるのが待ち遠しいはずだ。
天気も申し分ない。ぽかぽか陽気に、小鳥のさえずり。竜王の門の広大な庭園。俺とリーマンは並んで並木道を歩いた。その後ろを、イーデンとカリム・サンら二人、そしてリーマンのフットマンが続く。
イーデン・アンダーソンは本来なら俺の後ろに付くはずの男でなかった。先王の弟であり、俺と肩を並べて歩いているリーマンの兄である。彼が俺に従っているのは理由がある。不死の魔法を自分にかけてしまったからだ。
いざという時に俺がそれを解除する。そういう約束だ。家臣にならずとも絶えず一緒にいればいいだけなのだが、そこんところがややこしいところだ。先王アーロン王に疎まれたこともあって俺の騎士となっていた。
そのアーロン王はもういない。しかも、ブライアン・バージヴァルの即位に際し近く恩赦が出されるという。イーデンは別に罪を負ったわけではないのだから厳密に言うと恩赦は関係ない。しかし、先王アーロンに疎まれていたのも事実である。恩赦はお墨付きのようなものだった。もう誰に気兼ねすることなく生きていけるはずだ。
もちろん、リーマンと約束したイーデンの財産没収も、妻ソフィアと娘のアリスの人質の件も無効である。実際、ソフィアとアリスはすでにウォーレン州の実家、アンダーソン邸に帰っている。
イーデンが俺の臣下である必要はもうないのだ。が、この男は強情だ。一度言い出したら後には引かない。おそらくは意地と勢いだけでウォーレン州の知事になった。政治家としてもよくやっていただろう。ただし、裕福層には人気がなかった。
不正を聞いたら許せなかったのであろう。何人も牢獄送りにしている。元王族ということもあって好き勝手にのさばっていたやつらには随分と恐れられたはずだ。しかも、魔法が使える。
普通ならイーデンは水路に死体となって浮かんでいてもおかしくはない。特権を利用して私腹を肥やす寄生虫や、法を犯すならず者らは手も足も出なかった。そこにアーロン王の派兵である。小躍りして喜んだに違いない。
義理人情に厚いのであろう。俺に従っているのは意地を張っているだけでない。おそらくは俺に感謝している。そういうのを出せないところも強情っ張りの特徴だ。だが、しかし、不思議な兄弟だと思う。
アーロン・バージヴァルの遺骸が燃やされる時に俺は、ふと思った。リーマンは自爆の魔法を自身にかけた。イーデンもそうしたら良かったんじゃないかと。屋敷に立て籠っていたのはいつかアーロンが現れるとイーデンが踏んだから。そして、刺し違えようと自身に不死の魔法をかけた。
そこまでする必要があったのか。よっぽどの恨みつらみがあったとみえる。だが、今となってはどうでもいいことだ。煙が天に立ち上り、炎が音を立てて燃え盛っている。アーロン・バージヴァルは灰となって天に昇って行った。蒸し返すのはよそう。俺はその時そう思った。
葬儀が終わり、部屋に戻るとイーデンはずっと我慢していたのか突然泣いた。ここまで耐えるのがやっとだった。愛憎相半ばするとはこのことなのだろう。おそらくイーデンはアーロンに愛されたかった。刺し違えようと考えていたのもその証拠だ。だがやはり、疑問も湧く。だったら自爆で良かったんじゃないかと。
「一つ教えてほしい。答えたくなかったら答えなくてもいい」
そう前置きして、俺は自身が抱いる疑問をイーデンにぶつけた。イーデンは答えを拒否しなかった。これからずっと一緒にいるのですから隠し立てするのは良くない、と切り出し、不死となった理由を打ち明けた。
「アーロンは一定時間、全身を鉄に変える魔法を持っています」
爆発してもアーロンは生き残る。一方、不死になれば不死のドラゴンが攫いに来る。そして、ガリオンの竜王の元へ引き出される。イーデンは鉄の像と化したアーロンを抱いて、もろともそこへ行こうと考えていた。
不思議な兄弟だと思う。不死だけじゃない。鉄といい、雷といい、なんと魔法が絡み合っていることか。しかも、リーマンは魔法枠二つをアーロンに捧げている。いや、考えようによっては三つか。
自爆魔法はアーロンには効かない。つまり、アーロンだけには殺されてもいいというリーマンのメッセージである。彼らは魔法で繋がっている、切っても切れない本当の兄弟だったのだ。




