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09


 俺は無数の魔法陣の中を進んだ。触れた魔法陣は次々と消えていく。リーマンは満足したようだ。俺が振り向くたびにリーマンの顔には笑みがあった。


 兵の注目も浴びていた。円の中にいるのは俺一人だ。否が応でも視線が集まる。俺は小麦畑を徐々に加速して行き、強化外骨格の力を借り、塀をひとっ飛びに超えた。


 着地すると植木の向こうに真っ直ぐに延びる道が見えた。門扉から屋敷の正面ロータリーへつながる道だ。地雷とよばれるイーデンの魔法陣はここでも張り巡らされており、その中を俺はひた走った。


 俺は何のためにこんなことをやっているのか。この戦いを避けられたとしても、リーマンのあの口ぶりだ。俺たちはさらに大きな戦に駆り出されてしまう。ここで生き延びてもその先はないのかもしれない。


 カールらを逃がし、俺も逃げてもいいくらいだ。が、タチの悪いことに、リーマンは魔法の規制をとっぱららうことに反対するどころか、賛成なのだ。


 玄関ドアは教会にあるような木製のドアだった。それを開けた。正面に階段がある大きなロビーだった。パンテオンにあるような大きな柱も無数にあった。その柱の向こうにイーデン・アンダーソンが立っていた。


 ロビーは目を細めるほど明るかった。シャンデリアの明かりではない。どの柱にも上の方に、金色に輝く大蛇が巻き付いていた。


 イーデンの魔法だ。光る大蛇は全身からバチバチと不規則に小さな雷を放っていた。なるほどと思った。普通、放たれた雷は狙ったとしても、思い通りにはならない。イーデンが選んだのは雷に意志を持たせ、思い通りに相手を攻撃する魔法だった。


 柱の数からざっとみて三十体はいる。強化外骨格のフライホイールが回転数を増していた。強烈な磁場も生まれているようだ。背中のヒートステッキも、腰のブラスターも、戦の最中にエネルギー切れの心配はない。


 とはいえ、これだけの雷の大蛇が放たれれば、兵の被害は甚大だ。カールもいるだろうし、全ては対処しきれない。


 俺はロビーを進み、イーデン・アンダーソンの前に立った。


「キース・バージヴァルです。イーデン・アンダーソン殿とお見受けしますが」


「誰が来るかと思えば、殿下ですか」


 髪は薄く、もみあげから口の周りにブロンドの髭をたくわえていた。黒のプレートアーマーを着込み、革の手袋と腰にはロングソード、左手にはアーメットヘルムがあった。武人のようでもあり、悩める哲学者のようでもある。チャラチャラしたリーマンとは真逆で、兄弟とは思えなかった。


「地雷をよく抜けて来られた。飛んできたのかな」


「いえ。歩いてきた」


 イーデンは一瞬、言葉に詰まった。返す言葉が見つからなかったのだろう。


「なんにしろ、苦労して来ては頂いたが、残念ですな、殿下。カールはここへは来ていない」


 ロビーにはイーデンのみであった。広い屋敷のどこかにかくまわれていると思ったが、イーデンがいないと言えばそうなのだろう。嘘をつくような男ではない。


 だったらなぜ、アーロン王が命じた時、上洛しなかった。カールはどこに行ったんだ。


「今からでも遅くはありません。アーロン王に申し開きを」


「信用なりませんな。殿下は裁判にかけられたのでしょ。どうやって許しを得たのです? わたしを王都に連れて来るとか言ったのでしょう」


 俺がイーデンを売ったと思っている。イーデンはカールが出奔して直ぐに屋敷に立て籠もっている。俺がつかまった後、どうなったか知る由もない。


「許しなぞ得ていない。俺はアーロン王に勝った。裁判で負けそうだったから決闘裁判に持ち込んだ。それで無罪となった」


 イーデンは鼻で笑った。


「面白いことを言う。誰に勝ったのです。アーロン王との決闘裁判であれば、相手は王室専属の代決闘士。勲功爵代決闘士と呼ばれる王国最高の戦士が相手となる」


「サー・チャドラーと呼ばれる男だ」


「神の手アレクシス・チャドラーか。して、殿下の代決闘士は?」


「俺の代決闘士には誰も手を上げなかった」


 イーデンの眉間に深い皺が刻まれた。目はカッと見ひらいている。


「どの口が言う、若造が」


 イーデンはもう、我慢の限界のようだ。俺におちょくられていると思っている。ピリピリとする緊張感がロビー全体に広がった。


「王族と思って黙って聞いてやったが、愚弄するのもほどがある。それになんだ、そのなり。それで誰と戦おうとしている? 今の流行りか? 大人を舐めるのもいい加減にしろよ」


 パワード・エクソスケルトン、別名、強化外骨格。やはりこれはこの世界では受け入れてもらえない。


「しかも、武器も持たず手ぶらで来よって。それともなにか? 殿下は魔法がお得意か」


 ちゃんと武器はある。ヒートステッキにブラスター。十分だろ。


「まぁ、よい」 イーデンがアーメットヘルムを被った。「殿下がその気がなかっても、わたしは容赦せん。悪いが殿下から血祭りに上げさせてもらう」


 そうなるかぁ。やっぱ、そうなるわなぁ。さて、どうしたものか。


「まずは殿下、我が地雷を抜けてきたその自慢の魔法でも見せて頂こうか」


 そう言うと一体の雷の大蛇が、あっちこっちに放電しつつ柱を螺旋に巻きながら床に降り立った。周りに幾つものスパークを起こして大理石の床をするすると蛇行する。そして、俺の前で鎌首をもたげた。


 丸呑みにしようかというほどの大口を開けた。まるで生きているようだ。ネズミに食らい付く蛇のように雷の大蛇は俺に襲い掛かって来た。だが、いかによく出来ていようが所詮魔法の産物だ。俺の前で、存在していなかったかのようにフッと消えた。


 イーデンは信じられないような顔つきでそれを見ていた。呆気に取られている。俺はまだ魔法を発動させていない。


 イーデンには理解不能らしい。今度は三体、雷の大蛇に俺を襲わせた。当然、俺は突っ立ったままで、結果は同じだった。さらにイーデンは性懲りもなく次々と、雷の大蛇を俺に向かわせる。


 イーデンとはこれまで話が全くかみ合っていなかった。イーデンの気の済むまで好きにさせようと思う。俺は床に腰を下ろした。


 やがて、全ての蛇を失って、イーデンは剣を抜いた。魔法を唱えると直径三十センチほどの魔法陣がイーデンの前に現れ、そこにイーデンは自身のロングソードを突き刺していく。手首のところで魔法陣は留まり、剣は雷を帯びた。


 魔法剣だ。威力のありそうな一撃が飛んできた。が、ヒートステッキで叩き切ってやった。万策尽きたかイーデンは、ひざまずき、タガーで己の命を絶とうとした。もちろん、俺はそれを許さない。羽交い締めにしてやった。


 イーデンは抵抗した。どうしても死にたかったのだろう、暴れまわった。しようがなかった。強化外骨格の一撃で眠ってもらった。


 気を失っているイーデンをこのままリーマンのところに連れてってもよかった。カールはここに居ず、イーデンが破れかぶれになって、この戦いは終わったとみていいだろう。だが、このままイーデンを連れて行けばイーデン自身は罪人のままだ。


 あらぬ疑いをかけられたのはかわいそうだが、自邸に立て籠もることはなかった。イーデンが罪人のままなら当然、妻のソフィアと娘のアリスは生きてはいけない。カールはここに居なかった。イーデンはカールをかくまってはいない。やはり、自分の足でリーマンのところへ行き、釈明すべきだ。







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