07
ソフィアらは別の天幕に移動させられ本営は、俺とリーマン・バージヴァルの二人きりとなった。
リーマン・バージヴァルは背筋が伸びた綺麗な姿勢で、腕を後ろに回していた。キザっぽく口髭も生やしている。
髪はブロンドなのに口髭は黒かった。髪か髭かどちらかを染めている。眉がブロンドだから髭を染めているのだろう、綺麗に整えられていた。自慢の髭ではないだろうか。
背丈は俺より少し高いぐらいだった。俺と今からダンスをするかのごとく近付いてきて、耳元で囁いた。
「わたくしめの秘密をお教えしましょうか」
この世界の者なら驚くだろうが、俺の世界では珍しいことではない。趣味が違うので丁寧に断るだけだ。
にしてもだ。ずいぶんとおちょくられたもんだ。裁判では何もしゃべらずずっとニヤニヤしていただけだった。俺に気があるのなら、少しは助け舟を出せばよかったろうに。
「俺とあなたはまだ、そんなに親しくはない」
リーマンは笑った。
「殿下は面白いお人だ。気味悪がらないのですね」
リーマンは俺の周りをゆっくりと歩きだした。
「確かにわたしめは両刀使いです。ですが、わたしは殿下を誘っているわけではありません。真面目にわたしめの秘密を打ち明けようと思っているのです。普通、秘密は聞かれたくないものでしょ。だから耳元で、ほら、言うではありませんか、壁に耳ありと」
俺をからかっているのか、馬鹿にしているのか。
「秘密とはあなたの魔法のことか? あなたがアーロン王の手先だということか? それならすでに知っている」
「ほほう、お耳が早い。誰から聞かれたのです」
「知らないのか? そりゃおかしいな、自分で風潮しといて?」
「そうなのですか? わたくしめとしたことがお恥ずかしい。ところでその鎧は何なのです。見ると防備がまるでなってない。付ける意味がないのではないですか。それとも何か秘密でも」
パワード・エクソスケルトン、強化外骨格に目を付けたか。だが、致し方ない。遅かれ早かれ、そうなるのは分かっていた。
「秘密があったとしてだ、なぜあなたにそれを話さなければならない」
「私の秘密を知っているじゃぁありませんか。ですが、私の言いたいことはそういうことではありません」
「よく分からんが? 何が言いたい」
「わたくしめの言いたいことは、その防具はカールから譲ってもらったものではないかということです。カールが古代遺跡からちょろまかしてきた。だったら、忌々(ゆゆ)しきことです。それに帰還式の、あの魔法防御。あれはいったいどういうカラクリなんです」
なるほどな。いやに絡んで来るなと思ったらこいつ、俺を敵か味方か確認している。ここは嘘でも言い切った方がいい。あいまいな答えは想像逞しく悪い方に膨らんでいくものだ。
「両方ともローラムの竜王に貰った力だ。俺だけが、ドラゴン語が喋れるのと他に、別の能力を持っている。ローラムの竜王は与えた役目を俺に遂行できるよう手心を加えたんだ」
『クレシルド・リア』
ドラゴン語だ。赤い魔方陣がリーマンの頭上に現れると足元まで下りてきて床に消えた。噂に聞く姿を消す魔法だ。
紫ではなく赤い魔方陣だった。状態変化の魔法だろう。強化の類だ。結界やら転移やらの空間魔法ではない。
実際リーマンはここにいるし、相変わらず俺の周りをゆっくり移動していた。結界魔法なら動けない。カエルのドラゴンがやっていた。結界魔法は外から見えなかったがそこから動けなかった。
リーマンは腰のタガーを抜いた。消える魔法は、俺には通じなかった。リーマンはゆっくりと俺の周りを一周して、俺の喉元にタガーを向けた。
殺す気なのか。俺はアーロン王のためにならない、俺を敵だと判断したのか。
「やるのか。だったら受けて立つが」
リーマンはまた笑った。
「申し訳ありませんでした。確かにあなたは魔法を使っていませんでした。ですが、わたくしめの動きをその目で追っていた。あなたは嘘をついていない。つまり、信用に足るということです。と、いうことはですね、帰還式であなた方がアーロン王に進言したローラムの竜王の申し出。あれは本当だったということになります」
「本当もなにも、アーロン王が勝手にぶち切れただけだろ。それともなにか? カールの無罪を認めたってことか」
「いいえ、それはありません。彼は無罪を証明せずに逃げました。それもアーロン王からです。ですが、あなたは別です。神々があなたの無罪を証明しました。そもそも決闘裁判というのは人では判断がつかなかったことを神にゆだねるというものです。わたしめの言いたいことはつまり、ローラムの竜王の申し出をわが国は受けるべきだということです」
こいつ、意外だ。「あんたら王家は困るんじゃないのか」
「いえいえ、別にそんなこと、どうにでもなりますよ。要は魔法の管理を我々がすればいいってことでしょ。王の承認がなければローラムの竜王と契約できない。魔法の呪文は王が授ける。そして、使用は王の許可がいる。破ればもちろん、厳罰です」
なるほど。それは考えてもみなかった。
「アーロン王は聞く耳を持つのか」
「わたしめの秘密をお教えしましょうか、と先ほど申しました」
「ああ、言った。魔法のことじゃなかったのか?」
「ご冗談を」
もちろん、両刀使いってことではないだろう。「じゃぁ、あんたがアーロン王の手先ってことか?」
「いいえ、正確に言うならアーロン王はわたくしめの言葉しかお聞きになりません。なぜならわたくしめは、アーロン王が王になる前、アーロン王御自らが任じた参謀なのです。世間では誤解があるのでしょうが、わたくしめは諜報員ごときではございません」
王になる手助けをした。実質の右腕はこいつだった。アーロン王にとって執政のデューク・デルフォードは単なる家宰のようなもの。
「もし、殿下がローラムの竜王の申し出を遂行できなかったとしたら、ローラムの竜王は他の者を探すでしょう。エンドガーデンの他の四王家で近々十八となる男子は三人。順にロージニア、チアナ、ユーアです。そのうち誰かに、ローラムの竜王が殿下に頼んだことと一緒のことを言ったとしましょう。そして、その誰かがローラムの竜王の申し出を成し遂げたとしましょう。我が国はたちまち遅れをとる」
「それならそれでいいじゃないか」 誰が成し遂げようがこの際問題ではない。「現にあんたらはそうしようとしている」
「カールが舞い戻って来て、しかも、あのようなことを公の面前で言うとは思いもよらなかった。恥ずかしながらカッとしてしまいました。本来なら真偽を確かめなければいけない。殿下がアーロン王の魔法を退けたにもかかわらずです。これはわたくしめのミスです。決闘裁判で殿下が勝利を収めたと聞いた時、ようやく目が覚めました。カールがアーロン王の前で言った荒唐無稽な殿下の英雄譚、あれは真実だった。その殿下を殺そうなぞと。今になって自分がやろうとしたことにぞっと致します」
それを俺に言うか。しかも、カールを殺せとこいつがアーロン王をそそのかしたようにも聞こえる。議会も、教会も、こいつも、さんざんなやつらだ。それでもってアーロン王はただの神輿。物言わぬ感じからただの木偶の棒に思えて来た。
いや、リーマンもカッとしたがアーロン王もあの時、確かにキレていた。リーマンは自分の陰謀が上手くいかなかったので腹が立ったようだが、アーロン王はそういうのと違っているように思える。王族の伝統だけはいくら物言わぬアーロン王といえども特別だったとみえる。
「だったら、軍をひき上げろ。この戦いに大義はない」
「さぁ、どうでしょうか」 リーマンはそう言って天幕を出た。「付いてきてください」
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