06
デューク・デルフォードの説明によると、腕っぷしと魔法防御力、裁判をひっくり返した智謀を俺はアーロン王に買われた。考え直さねばならぬな、と言ったそうだ。ホントか嘘か、だだハッキリしていることは背に腹は代えられないってことだろう。俺までもイーデンに寝返ったら元も子もないのだ。
アーロン王にとってそれは、大きな賭けであったはずだ。俺の方もアーロン王に貸しを与えるチャンスでもある。ローラムの竜王との約束をやり遂げなければならない。それが俺の進む道であり、その過程で元の世界に戻れる方法が見つかると俺は信じている。
そうは言っても、あのアーロン王が魔法という特権を手放せられようか。実は、決闘裁判が終わって無罪が確定した時、俺は王族を辞めることも考えていた。だが、エンドガーデン全土を見渡してみると王族であった方がなんだかんだで得のような気がする。
他国の王族を説得しなければならない。国内の市民から草の根的に運動を広げ、エンドガーデン全土に行き渡らせていくのも悪くはないが、雲を掴むような話でどこから手を付けてよいのやら皆目見当がつかない。
面倒くさいこともあろうが、王族を続ける。そんな風に考えていたところにデューク・デルフォードが現れた。早速面倒が降りかかってきたというわけだ。
イーデン・アンダーソンの妻子は俺の予想通り、議会に裏切られ、潜伏先で捕まっていた。逃亡に手助けしていた者が憲兵に知らせたという。信じていた者の裏切りは殊の外こたえたはずだ。
イーデンの妻はソフィア、娘はアリスと言った。ソフィアは王家から枝分かれた由緒ある家の出で、プラチナブロンドの気品ある女だ。アリスはキースと同じく隔世遺伝なのだろう、前王アンドリューと同じく金髪碧眼だった。
歳はキースと近かった。二つ下で、将来が楽しみな美少女だった。おっさん目線で言うのもなんだが、キースと並ばせてみたいってもんだ。見た目だけで言うなら、二人はお似合いのカップルなのだろう。
移動中、馬車で揺られるのは俺とこの二人だけだった。カリム・サンもフィル・ロギンズも馬上にいて馬車を守っている。アーロン王から与えられた近衛兵やその他の兵も引き連れていた。
ウォーレン州は国土のほぼ中央にあり、州都ヒッチコックまでは四百キロほどの距離がある。俺たちはその行程を二日かけて走破する。
対面に座って、一日中彼女たちを見るのは辛かった。どうしても妻の杏と娘の里紗がダブってしまって親愛の情が湧いてしまう。
顔色は二人とも血の気がなく土色でやつれていて、疲れているのは明らかだった。表情も蝋人形のように固く、全く読み取れなかった。もう考えることを止めたのであろう。彼女たちは自分の未来を諦めている。
昨晩、ブルーレイクというウォーレン州の都市に宿泊した。都市は州兵で埋め尽くされていて、すでに厳戒態勢が敷かれていた。我々がそこで馬を休めることを周知がなされていて、州兵はソフィアら奪取を目論む輩を警戒していた。
ソフィアらとしてみれば、助けが来ることを期待していたのだろう。夫は国民のために国王の矢面に立った。恩に報いようという者が絶対にいるはずだ。だが、何も起こらなかった。州兵らは進んで国軍に協力し、逆らうどころかソフィアらには冷たかった。
ソフィアらは絶望したに違いない。夫がどれだけ国民に尽くしたのかと憤ってもいただろう。俺が護送役を引き受けたのもショックだったと思う。彼女らはカールの出奔で煽りを食らい、議会にも裏切られた。目の前では同じ境遇の者が同じ馬車で揺られている。
もしや助けてくれるのではないか、と淡い期待を抱いていたのかもしれない。それなのに何もアクションを起こさない。彼女らにとって俺は、裏切り者なんだ。
得てして人生というのはそういう誤解が付きものだ。そもそも俺はカールの味方だった訳ではない。つるんではいたがむしろ、俺はカールに騙されたくちなんだ。
それに、国民から見ればイーデン・アンダーソンも所詮は特権階級なんだ。むしろ、権力争いに国民生活を巻き込んで貰いたくないと大半の人が思っている。
大多数の人々がぎりぎりの生活をしているんだ。戦にでもなったら目も当てられない。百歩譲って、すでに壊れてしまった生活を元に戻そうっていうんなら人々は立ち上がりもしよう。世の中っていうのはそういうもんだ。
きれごとでは人々は動かない。だが、それは俺にも言えることだ。いくら国難だと市井で叫んだとしても、日々の糧に奔走する人々の足を止めることなぞできない。イーデンは共和制を望んで活動していたと聞く。彼女たちを見ていると王族に残った俺の判断は間違いではなかったと思える。
夕暮れ、目的地にほど近い州都ヒッチコックに入った。ここも州兵に街の出入りは厳しく監視されていた。市街地でもブルーレイクと同じく厳戒態勢が敷かれている。
俺たちはそのヒッチコックを通り過ぎ、郊外のアンダーソン邸に向かう。ウォーレン州はアメリア国有数の穀倉地帯であった。見渡す限り小麦畑が広がっていて、街道は真っ直ぐに小麦畑を突っ切って走っていた。
延々と続く小麦畑。やがて小麦畑のずっと向こうにアンダーソン邸が見えてきた。馬車は無数の天幕が張らている国軍の野営地に入っていく。
整然と並ぶ天幕群を抜け、坂道を上へと昇って行く。平地にポコッと飛び出た丘だった。本営は陣地全体が見渡せるところがいい。一番見晴らしのいいところに司令官のリーマン・バージヴァルは陣取っていた。
アンダーソン邸を中心に、国軍は丸く陣を敷いていた。国軍とアンダーソン邸は距離にして五百メートル。国軍とアンダーソン邸の間は小麦畑であった。
見渡すかぎり平地で、しかも、視野が広い小麦畑だというのもある。訓練がなされているというのもあろう。国軍は綺麗な円を描いていた。だが、その円はまるで計ったかのように丸だった。
ロボットならまだしも、生身の人間がやれることとは到底思えない。おそらくは、近付けるギリギリのところまで行ったらああいう陣形になってしまった、というのが真相なのではないだろうか。
馬車は本営に着いたようだ。俺は先に馬車を降りた。婦人の足元を気遣い、手を差し伸べる。案の定、俺は無視された。めげずに娘のアリスにも手を差し伸べた。が、結果は同じだった。
動じることなく俺は、二人を引き連れ、本営の天幕に入った。リーマン・バージヴァルは早速机から離れ、俺の前までやって来た。握手を求められ、俺はそれに答えた。
リーマン・バージヴァルは続いてソフィアらにも挨拶をした。これはこれは義姉上、と久しぶりの再会を喜んだ風を見せ、こう続けた。
「にっくきカールはこのわたくしめが必ずや捕まえて参りましょう。ご安心を」
カール捕縛があたかもソフィアらの要請であるかのような口ぶりであった。
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