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05


 チャドラーのグレートソードは、俺に跳ね除けられた衝撃でチャドラーの手から離れ、いまや闘技場の端に転がっている。闘技場の中心から端までだから二十メートルぐらいは飛ばされたことになる。


 これでラキラにはメッセージが届いたはずだ。実際にラキラは席を立った。助けがいらないのに納得したのだろう。


 俺は観客席の最上段から視線を下に移した。アーロン王と妃のエリノアがいる。そして、執政のデューク・デルフォードだ。貴賓席の彼らは平静を装っていたが、内心は面白くないのであろう。観客席からはどこからともなく殺せコールが始まっていて、やがてはスタンド全体に広がる。俺の手にはグレートソードがあり、チャドラーにはなにもなかった。


 アーロン王は席を立った。エリノアもそれに続く。近衛兵もアーロン王に従った。貴賓席に残されたのは執政のデューク・デルフォードだけだった。


 観客席はもう、殺せコールの渦である。決闘裁判はまだ終わっていない。どちらかが死ぬまで続けられる。殺せコールは俺への歓声ではない。結局、観客は人の死が見たいだけなのだ。


 また、沸々と怒りが沸き起こって来た。俺はグレートソードを闘技場に刺した。そして、こぶしを握って戦闘ポーズを取った。恥をかかされたチャドラーは俺が素手でやろうと挑発するのに逆上した。


 俺が王子なのを忘れ、小僧がと言って殴りかかって来た。強烈な右ストレートだったが、俺は手の平で受け止めた。強く握って離さず、がら空きになったチャドラーの腹めがけ、こぶしを放った。


 チャドラーの動きが止まった。前かがみに頭を垂らし、俺に体を預けてきた。俺はチャドラーを受け止めず、代わりに近付いて来る頭に膝を合わせた。チャドラーは俺の打撃をもろに食らい、のけ反った。フワッと脱力して、そのまま後ろに倒れていった。


 大の字のチャンドラー。観客席の殺せコールはテンポを上げていった。観客は勝敗なぞ、もうどうでもいいようだった。どうしても死人を見たいのだ。


 そんなに死人が見たいのか。俺は意識を失っているチャンドラーを持ち上げた。ウエイトリフティングの要領で高々と持ち上げ、スタンドに放り込んでやった。そして、マスクを繋ぐバンドの付け根を左右それぞれ握って、思いっきり引きちぎる。


「そんなに死人が見たいなら、自分たちでやるんだな!」


 自分たちは何もできないくせに、人にはやらそうとしやがって。俺はマスクを観客席に投げ込み、貴賓席の前まで行った。執政のデルフォードがわなわなと怒りに震えていた。


 このざまをよーく見てみろ。何もおまえの思い通りなんかにはならないんだよ。


「俺は無罪ってことでいいんだな!」


 デルフォードはあまりの怒りで言葉が出ないらしい。


「聞いてんのか! 俺は無罪だな!」


 我に返ったようだ。はっとしたデルフォードは言葉を返した。


「どちらかが死ぬまで判決は下されない!」


 まだ言うか。俺も頭に来ていた。


「だったら別の代決闘士をここによこせ! 今すぐにだ!」


 デルフォードはこぶしを、下で固く握った。この国で最高の戦士がこともなく倒されたのだ。もうどうもに出来ない。ぶるぶると震えたこぶしを高々と振り上げたと思うと宙に落とした。


 デルフォードのやれることといえば己の腕を振ること。笑えるじゃないか。うっぷん晴らしに椅子を蹴とばすことを考えたら随分と品位があるってもんだ。


 観客はというと、混乱していた。俺の無罪を喜ぶ者もいればそうでない者もいる。闘技場を去る者や観客席の塀を乗り越え俺に近付いて来る者、所々で喧嘩も始まり、罵倒や賞賛が飛び交う中、俺は通路に戻った。カリム・サンらが俺を待っていてくれていた。俺たちは堂々と闘技場を後にした。






 俺は馬車で移動中だった。イーデン・アンダーソンの妻子をウォーレン州に護送する任務を負っていた。決闘裁判が終わった次の日、執政デューク・デルフォードが俺の部屋にやって来たのだ。


 やつは人が変わったように俺に接して来た。裁判で俺を糾弾していたことなぞやつの中では無かったことになっている。あまりに普通に接してくるので、こっちも毒を抜かれ邪険に突き放せなかった。


 なんにしろ、変わり身が早いというのは政治家の資質があるということだ。実際に行政の最高責任者に上り詰めている。そこまでに来る間、入れ代わり立ち代わり多くの上司と接していた。


 対立していた者が自分の上司になるということもあったろう。攻撃していた派閥の者が上司になるってこともあったはずだ。それでもやつはそんな上司らと上手くやった。


 やつはアーロン王の命令を俺に伝えにやって来た。ウォーレン州ヒッチコック郊外にイーデン・アンダーソンの私邸がある。国軍が包囲しているが、国家反逆罪の容疑者二人をそこに護送せよというのだ。


 それだけではない。俺は国軍の副司令官に任命された。司令官リーマン・バージヴァルの補佐役だ。確かに、リーマン・バージヴァルだけでは心許こころもとない。カール・バージヴァルがイーデン・アンダーソンといるとなれば、魔法が使えるという点では一対二。国軍が不利である。


 しかも、カール・バージヴァルの能力は未知である。帰還式の時、転移魔法を行った。分かっているのはただそれだけであった。


 他の魔法が分からないうえ、転移魔法というのも確かに厄介である。いざ、捕まえようとした瞬間、消えていなくなってしまう。確実にカールを捕らえるには魔法を封じなければならない。


 カールが投降すればそれが一番いい。そのためにイーデンの妻子を利用するのだろうが、イーデンの言うことを素直にカールが聞くだろうか。あるいは、イーデンとカールの戦いになるかもしれない。


 イーデンとカールが一緒に、玉砕覚悟で国軍と戦う可能性だって否定しきれない。色んなケースを想定するのであればやはり、リーマン・バージヴァルでは力不足だ。イーデンは雷の使い手だと噂される。


 アーロン王は鉄の王だ。帰還式で見せた魔法でも分かるように金属の属性を多用する魔法の使い手である。イーデンは雷だからお互い使いようによっては相性がいい。だが、敵対するとなればアーロン王は不利である。


 イーデンはそういう考えもあって雷の使い手となったのであろう。四つ習得できる魔法はほぼ雷に関連する魔法と見ていい。対するリーマン・バージヴァルはどうか。


 やつは自分の能力を隠そうともしない。公然の秘密となっている。聞くところによれば、使える枠の内二つは、魔法探知と姿が見えなくなる魔法でアーロン王に捧げたという。


 つまり、やつはアーロン王の諜報部員みたいなものだ。戦闘も不得手どころか、交渉にも向いていない。イーデンにはなから信用されないのにディールなぞ出来ようか。







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