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04


 強化外骨格が本来の俺を認知したという事実が、俺の頭から離れなかった。この世界は俺と関係なくはない。いや、関係ないどころかここは俺の世界そのものだ。


 どのようになったらドラゴンと魔法の世界となるのだろうか。人類は何をしでかしたというのか。それを考えるとむかっ腹が立つ。やり場のない怒りだ。俺も、地球を変えてしまった一員であったのだ。


 闘技場は人で埋め尽くされていた。丸いフィールドとそれを囲む観覧席。観客がフィールドを見下ろすすり鉢状のスタジアムであった。そのまんまに、闘技場はスタディオンと呼ばれていた。


 サー・チャドラーコールが闘技場に響いていた。チャドラーはすでにフィールドにいた。上半身は兜も鎧も何もつけていない半裸姿で、力こぶを観客に見せつけ力を誇示していた。カリム・サンら侍従二人と近衛兵らを通路に残し、俺もフィールドに入った。


 フィールドは直径四十メートルほどの円である。床は砂地ではなく石板のタイルだ。堅いが、思ったより滑りにくそうだった。程よく磨きがかけられていた。


 観客のチャドラーコールの中に、笑いが混じっていた。俺の姿を滑稽と見たのだろう、それで笑っているのだ。


 チャドラーも俺がフィールドに入って来たのに気付いていた。ロングの金髪で、金色の口ひげを生やしている。顎の髭は剃っていた。金色が自分のトレードカラーなのだろう。下半身の防具は金で統一されている。


 近付くにつれチャドラーの表情が明らかになる。怪訝な顔をしていた。真面目に戦う気があるのかと俺のことを思っているのだろう。が、目と鼻の先で険しい表情に変わった。これはおそらく、俺に馬鹿にされているとの考えに至った。勘違いされている。


 プレートで体を守らず、棒のみが俺の体全体に張り巡らされている。辛うじて、守りが堅いのは背中のみだ。


 観客の声はチャドラーコールより、嘲笑の方が多くなりつつあった。俺はむしろ、辱められたり、理不尽なめに会ったりする方が闘志が湧く。讃えられたり、褒められたりすると気が抜ける。俺の力の根源は怒りなんだと今更ながらに気付いく。


 若い時に、生涯の職を軍とし、戦場で暴れ回っていた。俺はあの時、世の中に憤っていた。何もかもぶっ壊したかった。思春期から青年期にかけて誰しもが抱く特有の正義感が原因だった。


 俺は敢えて観客席を見渡した。どの顔も憎らしい。球場ならバックネット裏に例えてもいいのだろう、アーロン王の席が用意されていた。そこは空席だったが、隣に用意された席には執政のデューク・デルフォードは座っていた。裁判で俺をいびり倒した男だ。やつも笑っていた。


 強化外骨格に俺本来のパスワードが拒否されたこともあった。俺の怒りは頂点に達していた。


 ふと、観客席にラキラ・ハウルを見つけた。シーカーの民族衣装はまとっていなかった。カールのかかった赤毛が印象的で、間違うことはない。光の具合で赤毛はオレンジ色っぽくもあり、ブラウンぽくもあった。


 デューク・デルフォードが座っている所は天幕が張られていた。ラキラが座っているのはそのずっと上の、スタンド席の最上段だった。


 俺に気付かれるようにそこに座っているのだろう。無言のメッセージだ。ラキラは何かをやらかそうとしている。それを伝えようと自らが出向き、俺が絶対に目を向ける貴賓席の後ろに陣取った。


 大体は想像出来る。おそらくは、殺される前に俺を拉致ッて行こうという魂胆なのだ。ローラムの竜王から与えられた特性のために俺は魔法が通じない。カールが帰還式で消えたように、あるいは、俺とラキラがシーカーの村付近に飛ばされたように、魔法をかけて俺をどこかに飛ばすことはもう出来ない。


 いつも一緒のデンゼルがいないことから、デンゼルが率いるシーカーの兵団がどこかで待機しているのだろう。この闘技場に魔法で飛ばし、力ずくで俺を王国から奪って逃げる。より確実に王国から逃がすのであれば最悪、ドラゴンの登場も有り得る。俺には魔法が効かないが、ドラゴンの背には乗れるのだ。


 俺を拉致る方法をラキラはどこまで考えているのか分からない。が、つまりはそういうことなのだろう。俺のことを大切に思ってくれるのはいいとしよう。だが、要らぬお世話だ。それを早々に、分かってもらわなければならない。


 アーロン王が現れた。エリノアも一緒だった。多くの近衛兵に守られて、席に着いた。スタジアムは静まり返っていた。チャドラーはアーロン王の前に行った。俺もそこに行く。チャドラーがひざまずくのを横目で見て、俺もその作法にならった。


 執政のデューク・デルフォードが決闘裁判の開始を宣言した。名乗りは必要としないのだろう、立ち上がったチャドラーは俺を蔑むように見ていた。


 なに俺を見ているんだ。さっさと武器を取りに行けよ。貴賓席の前に武器が並べられていた。スピア、スパイク、ランスの各種槍とタガーからロングソードまでの各種刀剣。遠くからでも見栄えのいいようにグレートソードもあった。


 ああ、そういや、こいつ、相手に合わせて得物を選ぶんだったな。さて、じゃぁ、何を選ぼうか。ラキラは俺にメッセージを送ってきている。俺もラキラにメッセージを送り返さなければな、どうせなら分かりやすいメッセージがいい。


 俺はグレートソードを選んだ。刀身は二百センチ、幅は四十から三十センチ。闘技場の飾り用だと思ったが刀身は研がれ、刃も鋭かった。俺はわざと重そうにそれを引き摺ってフィールドの真ん中に移動する。


 スタンドは笑いの渦である。俺はその笑いを浴びるかっこでサー・チャドラーが来るのを待った。サー・チャドラーは戸惑ったものの、やはりグレートソードを選んだ。


 流石は勲功爵代決闘士である。背負うかっこで剣先を地面に付けることなく俺の前に来た。そして、難なく中段に構える。スタンドから歓声が上がった。


 だが、しかし、ずっとそのまま静止し続けは出来まい。グレートソードは長さと幅もあったが、厚みは五センチほどあった。かなりな重量のはずだ。二百キロぐらいはあるかもしれない。生身の人間には辛いはずだ。


 がんばれよ。チャドラーコールも巻き起こっている。どれだけ我慢できるか見ものだ。俺は構える気も無ければ、先手を打つ気もない。待てばいい。我慢しきれなくなったら相手は勝手に仕掛けて来るだろう。力尽きて、グレートソードを落とすような真似は勲功爵代決闘士としては絶対に出来まい。


 顔も、胸も、腕も、みんな真っ赤にしたチャドラーは案の定、気合の声を上げつつ、最後の力を振り絞るようにグレートソードを大きく振りかぶった。やはりもう限界だったのだろう、重みに任せグレートソードを俺に向けて振り落としてきた。


 俺は難なく跳ね除けた。勢いそのままにグレートソードを大きく振り回すと剣先を高々と天に向け、振り下ろした。そして、チャドラーの脳天寸前で止める。ピタリと剣先はチャドラーの頭上にあった。


 スタンドは静まり返っていた。俺が真っ二つにされるはずが反対に、サー・チャドラーが真っ二つにされそうになっていた。







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