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03


「本当に、これでいいのですね」


 カリム・サンは強化外骨格を俺に渡した。この部屋に入る前、入退室を管理する近衛兵の検査が行われた。カリム・サンは強化外骨格を鎧だと説明したが、鼻で笑われ、厳しい検査を受ける羽目となった。


 近衛兵の専らの関心は、俺がマスクを外そうとすることである。部屋に出入りする侍従二人は絶えず厳しい検査を受けていた。近衛兵としてみれば、ヘアピンであっても見逃せられないのである。


 近衛兵は、まさか本当にこれで戦おうなんて全く信じていない。逃亡する何かの手段だろうと決めつけていた。調べに調べてまだ納得いかず、カリム・サンと一緒に部屋に入って来た。


 強化外骨格の生体認証は生体電流で行われる。生体電流とは生体中に流れる微量な電流だ。戦場での生き死にも確認できることもあって採用された。


 生体電流の波形で個人を特定し、ロックを解除する。初期設定としては、俺が使用者だと強化外骨格に認識させ、ネットワークをつなぐ。


 ネットワークからの情報のやり取りや各種アプリを取得するには当局から与えられたアドレスが必要となって来る。もちろん、ネットワークはつなげようにもつなげられない。俺としても便利機能を使うつもりはないし、もし、それをやろうと思えばフルフェイスのヘルメットが必要となってくる。


 ただ動いてくれればそれでいい。情報のやり取りやアプリは無視だ。俺は強化外骨格を手順に沿って装着していった。


 独りで着るには訓練しないと難しい。倒したバイクを起こせなければバイクの免許がとれないように、独りで着られないと強化外骨格での戦闘は許可されない。


 全て装着を終え、俺は左手甲にあるカバーを開けた。キーボートがあり、起動のボタンがある。これを押せば自動で生体電流を認識し、その後自作のパスワードを入れることで生体認証の設定が完了となる。


 ボタンを押しても動かないって可能性はないわけではない。強化外骨格はフライホイール蓄電システムを採用していて、そのフライホイールは磁場からの磁力で動く。背中を守るようにプレートが付けられていた。その部分にフライホイールは内蔵されている。


 バイクを乗る時の、ハードシェルタイプのリュックに似てなくてもない。見ようによっては河童の背中とも言える。


 リュックには二本のヒートステッキが刺さっていた。背中から抜くと警棒のように刀身が伸び、高熱が発せられる。また、腰にはブラスター二丁が装着されている。エネルギー弾を発射し、そのエネルギー量も摘まみで自由に調節できる。


 俺は起動のボタンを押した。過酷な環境で使われることもあって、数々の難しい試験をクリアして強化外骨格は世に出される。動かないという事例は聞いたことがない。ただ、そうはいっても数千年も地中に埋まっていた。それほどの耐久試験は出来ないだろうし、もちろん、数千年の保証書なんて考えらない。


 背中のフライホイールが動き出した。聞きなれた、静かで滑らかな音だ。良かった。起動のボダンを押して動き出すまでどれだけ長く感じたことか。思わず、ほっと息をついてしまっていた。これで一安心だ。


 強化外骨格に装備されている武器は初期設定を終えてからエネルギー充填まで半日は掛かろう。今回は使い物にならない。


 さて、生体認証の設定だ。強化外骨格は俺の生体電流を読み取っているはずだ。完了すれば、パスワードを催促してくる。


 キーの上にある小さなディスプレイに文字が浮かび上がった。と、同時に音声がした。


『パスワード入力』


 俺はパスワードを十二の文字、“KGR1015JN410”とキーに打ち込んだ。


『使用済み。再入力』


 ど、どういうことだ。自分でも血の気が失せていくのが分かった。


 使用済み? 使われている? 使われているってどういうことだ? 外骨格は未使用品でなかったのか? いや、それどころではない。拒否されたってことはネットワークが生きている。ヘルメットがないから分からなかっただけだ。


 確かに、ハンプティダンプティは生きていた。ということは、動かせるやつがいるってことだ。この強化外骨格はそいつがいるどこかと繋がっている。ハンプティダンプティが飛んで行った方向。カールと組んで遺跡を発掘していたハロルド・アバークロンビーという男が訴えていたという。そこにラグナロクがある、さがせと。


 知るか、俺にとっちゃぁラグナロクなんてどうでもいい。俺の打ち込んだパスワード。あれは俺本来の名KAGURAJINから全ての母音を取って、名字の後に結婚記念日を、そして、名前の後に娘の誕生日を付けた、俺がいつも使うパスワード。


 とすれば、ここは地球で数千年後の世界。俺はここに住んでいたってことになる。冗談じゃない。パラレルワールドでもなんでもなく、この世界は俺の世界の成れの果て、それもたったの数千年しか経っていない地球。


 だとしてもだ、ドラゴンと戦っていたなんてこれっぽっちも記憶にない。


 いや、そこではない。だから何で俺が登録されているかということだ。これじゃぁ俺はラグナロクの一味ってことになる。それとも何か。俺という人間が他にもいるってか。あるいは、誰かが俺と偽ってパスワードを使っていたか。


 いいや、その可能性は限りなく低い。パスワードは誰にも言ったことはないし、間違いなくこの俺の生きたあかしを示している。


 だったら俺が無事、ここから地球に帰った後に兵士となり、パスワードを登録したってことか? おそらく俺はスーツタイプの方でパスワードを使った。一方で、強化外骨格ではキースの体で俺のパスワードを使った。当然、違った生体電気で同じパスワードの使用は認められない。


 ということは、本来の俺は本格的な戦闘に加わっていた。地球で何があった。センターパレスの遺跡を見るに輸送機の墜落跡であった。だが、その仮説が間違っていた。何百機のハンプティダンプティはのんびりと飛行機に揺られ、悠々と戦地に赴いていた。


 パスワードを新たにキーに打ち込んだ。


『ようこそ』


 強化外骨格の初期設定が終えた。キース・バージヴァルが使用者と認められた。

 

 やはり、パワード・エクソスケルトンは未使用品だった。戦場に出るのに使用者が定かでないと言わんばかりだ。自分で戦場に赴かないものぐさなハンプティダンプティもそうだが、そんなことが有り得るのか。


「あのぉー、殿下」


 フィル・ロギンズの声である。俺は侍従二人と近衛兵二人に見詰められていた。彼らは一様に戸惑っている。


「あのぉー、殿下。今の“ようこそ”は、何です? 魔法ですか」


 彼らはガラクタが喋ったのに驚いていたのだ。


「ちがう。テクノロジーだ」


「テクノロジー?」


 やり場のない怒りに襲われていた俺は、フィルの問いにそれ以上は答える気にならなかった。







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