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02

 

 決闘裁判の相手が誰だか分かった。サー・チャドラーという男である。通り名は神の手。身長百九十八センチで、体重百二十キロ。巨漢だが、素早く動き、バック宙も出来るらしい。そのうえ器用で、相手の武器に合わせて自分の得物を決めるらしい。ロングソード二刀で戦うこともあったという。


 どんな武器も使いこなした。それでサー・チャドラーは人々に神の手と呼ばれた。因みに決闘裁判では主催者が武器を用意する。観戦者の前で互いに選ぶのだそうだが、チャドラーは相手に選ばせて自分の武器を取る。よほど自信がないとできないことだ。実際、チャドラーは負けたことはない。


 いや、負けたらやつはいない。決闘裁判はどちらかが死ぬまで続けられる。勲功爵代決闘士の栄誉に輝いたのはこれまで負け知らずだったからだ。


 カリム・サンも勝てる見込みはないと言った。何も驚くことはない。それぐらいのやつが出てくると俺も思っていた。この国で最も強い男がアーロン王の代決闘士となれば誰も俺の代決闘士になりたがらない。言わずもがな、アーロン王は裁判当初から俺を殺す気で来ている。


 サー・チャドラーにとっては名誉なことだ。国王の代決闘士に選ばれたのだから。相手が格下も格下、キース・バージヴァルだというのに厳しい訓練に励んでいるらしい。カリム・サンはその訓練風景を見たという。


 三人の近衛兵と戦ってみたり、死刑囚を何人も切って捨てみたりもしていた。もちろん、肉体を鍛え上げるのも余念はない。華々しい場でアーロン王に自身の肉体美をアピールしなければならないのだ。


 因みに三人の近衛兵とカリム・サンは知り合いでもあり手合わせしたことがあった。どの近衛兵もカリム・サンより手練れであった。


 そもそも、こういう現実があったからこそキース・バージヴァルは決闘裁判に持ち込まない、持ち込めないと誰しもが思ったはずなのだ。ところが、俺はそれをひっくり返した。


 もちろん勝算はある。カールが発掘した古代遺跡で見付けた古代の遺物。俺がいた世界ではこう呼ばれていた。


 パワード・エクソスケルトン。別名、強化外骨格。フライホイール蓄電システムを採用していて電気アクチュエータで可動する。フライホイールは磁場からの磁力で動くので地上ならいつでもどこでも強化外骨格は起動させられる。


 俺の世界では、本格的な戦闘にはスーツタイプで、民間人が含まれる市街地では外骨格タイプが使われていた。


 スーツタイプほどではないが、使いようによっては“XN-10 トルーパー”、通称ハンプティダンプティと呼ばれる軍事用ロボットとも対等に戦える。


 ハンプティダンプティとは、この世界でいうなら遠い昔、ドラゴンとの戦いに活躍した伝説の“罪なき兵団”であり、古代遺跡を発掘した折に突如動き出したカール失脚の原因ともなったしろものである。


 強化外骨格の性能をちゃんと引き出せればサー・チャドラーといえども赤子の手を捻るようなものだ。だた、カリム・サンはこのことを知らない。強化外骨格をオブジェか医療器具か、何か鉄のガラクタだと思っている。


 やつは律儀で約束を守るから、ガラクタと思ってもきっちりとどこかに隠し持っているだろう。決闘裁判当日、カリム・サンに持って来させ、それを身に付けて戦いに挑む。武器は支給だといっても防具の方はそうはいかない。サイズは人それぞれだ。自前のを用意しなければならない。問題は、俺の目論見通りにそれが動くかどうかだ。


 遺跡の状況からして、ハンプティダンプティも強化外骨格も、空輸中にトラブルに会って輸送機が墜落、そのまま放置されたと考えられる。


 どこかの国が第三国に売ろうとしていたのだろう。戦時での空輸って場合はあり得ない。ハンプティダンプティは自ら戦地に赴く。月であろうと宇宙ステーションであろうとセンターパレスから飛び立ったように、敵地へ飛んで行って作戦を遂行する。


 放置されていたところから見て、公の手続きを踏んでいないものだったと思われる。密輸か、国の秘密機関が暗躍する裏取引のようなことがその時、起きていた。戦争をしたくない一般市民にとっては悲劇であったが、俺にとってはラッキーだった。


 パワードスーツももちろん、強化外骨格も起動させる際、生体認証がなされる。登録のない者の使用を防ぐためだ。戦時中、つまり、その国の兵が使うと確定している場合、当然すでに初期設定がなされている。


 となれば、過去の遺物は文字通り遺物であり、全く使い物にならない。ところがだ。新品を誰かに売ろうとしていた場合に初期設定はなされるか。誰が使うか知らされることはないのだ。それはないと言い切れる。つまり、俺が拾った強化外骨格は俺が初期設定すれば間違いなく動く。


 強化外骨格のもっとも有効な使い方。もちろん、それを使ってこの世界で暴れまわるのもいい。力でねじ伏せるのだ。ところがだ。それによって自由を得られ、自分の世界に帰れる手段を見つけられたらいい。だが、この世界では魔法があり、ドラゴンがいる。俺が考える以上におそらくは、この世界も複雑なのだろう。


 力でねじ伏せられなかったとしたらどうするか。この世界での司法制度を学んだ時、思ったのだ。俺はずっと裁判となれば勝ち続けられる。もちろん、シルヴィア・ロザンのこともあった。最悪、裁判で決着を付けてもよかったのだ。


 俺はこの世界でビクつくことなく堂々と己の道を歩ける。俺の侍従らはそのことを知らない。教えたとしても理解できないし、俺の頭が変になったと疑われるのがオチだ。


 侍従らは俺が殺されると思っているのだろう。まったく覇気がない。カリム・サンなぞはいつもの様に憎まれ口をたたいてもいいものなのに、柄にもなく気の利いた言葉を選んで俺に話を合わせてくる。フィル・ロギンズもフィル・ロギンズで、最後の晩餐を盛大にやってあげたいがそのマスクがあるからなぁってつらをしてやがる。


 とはいえ、二人は心底諦めてはいないようだった。コソコソと俺に黙って動いていた。一縷いちるの望みを他国の代決闘士にかけていたんだろう。だが、それもままならず、決闘裁判を二日後に控えた午後のことだった。


 フィル・ロギンズが有望な代決闘士を見つけたというのだ。実際は相手の方が声をかけてきたのだが、名をデンゼル・サンダースと言った。


 二メートルを超える巨漢で、しかも筋骨隆々である。サー・チャドラーに全く見劣りしないどころか、それよりも強い気がする。フィル・ロギンズは一度会ってくれと俺に懇願した。


 戦闘の素人であるフィルであったが、目利きは間違いではない。おそらくはサー・チャドラーよりもデンゼルのほうが強いだろう。なんせデンゼルは、シーカー十二支族からラキラ・ハウルの護衛役に選ばれた男だ。それにドラゴンと戦っているのだ。動きも素早いはずだ。


 魔具を使わずとも生身の体でサー・チャドラーを倒してしまうのだろう。だが、ラキラ・ハウルをこの件に巻き込みたくはない。どうせデンゼルはラキラに命じられて動いている。ラキラが、俺を失うわけにはいかないと思うのは至極当然なことなのだ。


 俺はその申し出を断った。俺には強化外骨格がある。彼らの手助けは必要としていない。


 フィルがガックリしたのはもちろんなのだが、面白いのはカリム・サンだ。サー・チャドラーより強い男がいるとフィルから聞いた時は半信半疑だった。疑いの眼差しをフィルに向けていた。


 サー・チャドラーに勝てるという戦士が無名だったということ。戦闘のせの字もしらないくせにサー・チャドラーより強い男だとフィルがデンゼルを評したこと。それでもカリム・サンは俺が代決闘士を断ったことに対して落胆していた。代決闘士の断りにフィルと一緒にデンゼルに会った後はもっと落胆していた。


 俺はそんな二人に構ってはやれない。ともかく目と耳を鍛える。あとは全部、強化外骨格がやってくれる。サー・チャドラーの攻撃に反応できなければ強化外骨格も無用の長物なのだ。








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