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01


 通常の裁判は終わり、俺の侍従二人は戻ってきて俺のそばで仕えている。一般市民なら決闘裁判の準備で飛び回っていようが、俺の場合は相変わらず監禁状態であり、部屋からの出入りは許されない。


 マスクもハメられたままで生活に支障をきたしている。部屋も出れないし、王族はこういう時に損をする。魔法が使えるってだけでこのあり様だ。


 侍従の二人、カリム・サンとフィル・ロギンズは身体検査等を強いられるが、出入りという点においては自由である。本来なら旨いものを飲んで食って慰みをしていようものだが、それもままならない。


 基本、彼らが持ち寄ってくるモノは旨いものでも何でもなく情報だった。それはもちろん、扉の前の近衛兵が奪うことは出来ない。


 カリム・サンは、始めはふてくされていた。シルヴィア・ロザンの件で俺が嘘をついたからだった。結果的にあれでよかったんだが、もし、俺がシルヴィア・ロザンを証人に立てようものなら、俺たちの動きが敵にバレて、それこそ敵の思うつぼであった。


 それくらいの道理、カリム・サンも分かっているはずだ。ただ、やつの性格を考えるとふがいない自分よりも騙した俺に対して腹が立っている。やつは義心が厚いだけにそういう所がある。


 それでも、裁判から三日も経つとカリム・サンもやっと心の整理が出来たようだ。喋るようになってきた。情報も仕入れてくる。中でも興味がそそられた話はイーデン・アンダーソン、元バージヴァルを名乗っていた男の妻子のことだ。


 帰還式の当日、王都から消えていなくなったということらしい。イーデン・アンダーソンの妻は賢い女だ。カールがアーロン王の逆鱗に触れ、出奔したと誰かに聞いたのだろう。もしかしてその場にいたのかもしれない。


 イーデン・アンダーソンは賜姓降下をし、ウォーレン州で政治家になった。彼はずっとアーロン王に目を付けられていた。そして、自身の潔白を示すため妻子を王都に留めておいていた。選挙に出れたのも、知事として職務を全うできたのもそのためだと思う。


 カールの所在が不明となれば、真っ先に夫のイーデン・アンダーソンが疑われる。彼女の、その判断は正しかった。アーロン王はウォーレン州に派兵した。


 イーデン・アンダーソンは戦う構えだ。屋敷を固く閉ざし、魔法で防備を固めているらしい。アメリア軍は屋敷を包囲したまま足止めを食らっていた。軍を指揮するのはイーデン・アンダーソンの弟リーマン・バージヴァルである。


 イーデンと同じく前王アンドリューの子息であり、三番目の男子だ。俺の裁判では裁判官を務めていたが、今度は国軍の司令官だ。賜姓降下といってもイーデンは未だに魔法を使える。アーロン王が出向かないとなればリーマンが行くしかない。


 リーマンについてさらにいえば、こいつも一癖ある男らしい。己が操る魔法を隠そうとはしない。普通は手の内は明かさないものだ。だが、逆に明かすことによって身の安全を保ち、アーロン王から信頼を得ている。


 四つ持てる魔法の内、二つはアーロン王のために身に着けたと噂される。リーマンは目の前にある現実がよく見えているのだろう。魔法が使えるんだと思いあがるような甘ちゃんではない。権力も魔法のようなものだ。いや、それよりもえげつないかもしれない。見えざる手に、誰もが絡み取られている。


 俺の予測では近く、イーデン・アンダーソンはさらに苦境に立たされるだろう。議会はカール・バージヴァルを見放し、エリノア王女に付いた。イーデンは共和制を説く。実際に選挙に打って出、知事となった。


 議会はカールを推すとともにイーデンとも共闘する間柄であったはずだ。おそらく、イーデンの妻と子は議会の口添えでどこかに潜伏しているのだろう。女子供だけで、アーロン王の目を潜り抜けるのは至難の業なのだ。


 だが、議会はカールを切った。すなわち、いずれイーデンの妻子は議会に裏切られる。いや、もう裏切られているのかもしれない。そして、リーマン・バージヴァル。やつは馬鹿でない。混乱の終息にイーデンの妻子を利用するのだろう。


 イーデンだけでなく、カールも今度こそ風前の灯火だ。真っ当な裁判なぞ受けさせてもらえなかった俺の比ではない。カールの場合はもっと悲惨で、アンダーソン邸で切り捨てられてしまうのではないだろうか。


 俺に責任がないわけでもない。アーロン王は簡単に裁判を終わらせるつもりが、こうなった。キース・バージヴァルでさえ手を焼いたのに相手はあのカールである。一筋縄でいかないのは分かり切っている。だったらもっと簡単な方法があると、戦場で死んだということにしてしまう。


 監禁されてからずっと目を鍛えている。トイレが常設していることもあって臭さもひどいのだが、ハエもうっとうしい。部屋中を、ブンブンと飛び回っている。水栓なんて上等なものはなく、糞尿はツボにため込まれるというシステムだった。


 果物の汁ばかりすすっていても出る物は出るんだな。侍従二人が来るまではそのハエを目で追っていた。キース・バージヴァルの体は思いもよらず高性能だった。若さを差し引いても反射神経やら動体視力やらは申し分ない。素質でいえば戦場の第一線で活躍できるレベル。グリーンベレーに入隊出来るほどのものがあるんじゃなかろうか。自堕落な生活を送らず鍛え上げていればキース・バージヴァルの体はより高い次元のパホーマンスを見せていたのだろう。


 侍従二人が来てからはハエの数は減っていった。代わりに壁に数字を書かせた。一から百までをランダムに数字を言わせ、俺はそこに視線を向ける。決闘裁判で勝つために最も大事なことだった。







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