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08


 弁護人が近衛兵二人を引き連れ、部屋に入って来た。近衛兵は俺に、長い鎖の付いた手錠を掛け、その鎖の先端を握った。まるで犬にリードを付けているようで、事実まさしくその通りに近衛兵はその先端を引いて俺を誘導した。


 裁判は謁見の間で行われるようだった。市街地にある裁判所は使わない。王族だけは特別なのだろう。おそらくはバージヴァル家の長い歴史において家族の一員が法廷で裁かれることなんて稀であった。


 アーロン王に嫌われ、今回の件で籠城しているイーデン・アンダーソンでさえ、法廷で裁かれなかった。自発的に賜姓降下を申し出て、国会で承認されたと聞いている。


 弟を追い落とすため、アーロン王は国会と結託したのだろう。あるいはその前の王、アンドリューの指示なのかもしれない。ともかく、今回の、謁見の間の使用は数少ない事例にならった。伝統を重んじるアーロン王なら当然のことだ。


 謁見の間の大扉は開かれていた。中は傍聴人で溢れている。帰還式を彷彿させたが、状況はまるっきり逆だ。皆の視線が痛い。軽蔑と怒りで謁見の間は満たされていた。


 俺が監禁されている間、世論を操作したのだろう。この場合、場が温まるという表現が合っているとは思えないが、悪いやつが裁かれるとう雰囲気は確実に謁見の間には出来上がっていた。


 傍聴には席が用意されていた。整然と並べられ、その様子は教会にある長椅子のようだ。裁判は長時間に及ぶと覚悟させられた。


 人々は座らずに立っていた。大扉から一直線に開けられたスペースを俺は、犬が引かれるように歩いた。うつむいていたが、人々の視線が肌に感じる。こういうのを文字通り、注目の的というのだろう。


 玉座の前に証言台が仮設され、そこに俺は立たされた。椅子はない。近衛兵が持っていた鎖は証言台に取付けられた金具に結ばれ、鍵が掛けられた。玉座がある高い所には男が四人立っていた。法廷というからにはそこは法壇なのだろう、玉座を挟んで両側に椅子が設えてあった。


 中央の玉座の横には執政が立ち、両サイドの椅子の横にはアーロンの弟と国民議会議長がそれぞれ立っていた。裁判長と二人の裁判官というわけだ。


 そして、左手隅にも証言台。その横には法務大臣が立っている。法務大臣は検察官の役割を担うのだろう。証人の名を読み上げ、証言を誘導したり、傍聴席に訴えかけたりもする。


 執政は王座の前に立つとひざまずき、からの玉座に向けて頭を下げた。執政が裁判長であり、王の代理人でもあるということが示された。執政が玉座に座り、アーロンの弟、国会議長と順に椅子に腰を落とす。傍聴の人々も一斉に腰掛けた。


 皆が落ち着いたのを見計らって、法務大臣がアーロン王の告訴内容を読み上げた。アーロン王が告訴したからには裁判に対して自らが手を下せない。あくまでもアメリア国は立憲君主制をく国家だ。君主の権力は法によって制限されている。


 法の定めによると刑事事件の被害者は裁判に出て被告人と争うことが出来ない。俺の世界と同じだと思っていい。国の機関と被告人が法廷で争う。ただし、王族の裁判においては国王が裁判長になるのが決まりだ。


 今回の場合、法で想定していない国王自らの告訴であった。裁判長に敢えて代理を出すことでアーロン王は自分も法の下では一般市民と同等であるという印象を民衆に与えた。そのうえで、アーロン王は俺を心置きなくフルボッコにするつもりなのだ。


 次々と証人が呼ばれた。出るわ出るわで、よくもまぁこんなに集められたもんだと感心してしまう。まぁ、あのキース・バージヴァルならネタの宝庫だ。それにカールも言っていた。執政のデューク・デルフォードは俺を忌み嫌っていると。


 やつとしてはめちゃくちゃ頑張ったのだろう。日頃からキース・バージヴァルを改めさせるようアーロン王に諫言かんげんしていた。いつも相手にされず憤っていたのが、思わぬ形でそのイライラが解消される。おそらくは、アーロン王に代理を任された時、内心でガッツポーズをしたのではないか。


 アーロン王にしても、それを見越しての人選だった。執政の諫言を聞き流していた風を装いながら、いざという時には事にあたらせるつもりでいた。カールもキースも、いつか不祥事を起こすのは目に見えていた。


 キースはともかく、相手がカールであったのなら、頭を痛めただろう。執政もカールには好意的だし、なにしろあの人気ぶりだ。議会も後押ししている。それでローラムの竜王に処分してもらおうと思い立ち、それでもダメならキースだとばかりに、俺に毒の瓶を託した。


 キースがカールを殺さずに帰還してくるというのは想定内だった。キースの性根は見え透いている。びびって何もできない。次なる手を考えねばならなかった。キースは何とでもなる。だがやはり、問題はカールだ。人知れず闇に葬るしかない。


 そんな時に、帰還式でのカールの、あの言動である。我慢ならなかった。あの時にいっそのこと二人ともども殺せたらどんなに気持ちがよかったか。その後起こる混乱も、秩序の崩壊も関係なく心の安らぎだけを求めてしまったに違いない。


 運がよかったのはカールが逃げ、キースだけが残ったことだ。キースの有罪を確定できれば、裁判にならずとも自動的にカールを有罪にできる。


 それには議会も困ったのだろう。勝ち目のない戦いなのだ。民間出身のエリノアと結びつくのは必然だったと言えよう。


 このような状況をキース・バージヴァルは何と思うだろうか。大の大人たちの思惑があって、キースはさらし者になっている。


 酔って路上で暴力を振るわれたとか、農夫の娘が森に連れ込まれ犯されたとか、馬車でひかれたとか、家に火をつけられたとか、無理やり大量の酒を飲まされて急性アルコール中毒で死ぬところだったとか、猟犬をけしかけられたとか、総じてキース・バージヴァルは王族をかさにきて悪の限りを尽くしている。中には、子供から菓子を奪ったって証言も出てくる。


 こんなのを、かれこれ二時間だ。こんなのって言い方が適切ではないのは分かってはいる。裁かれるべくして裁かれているのだが、憤ってしまうのはどうしようもない。法壇でふんぞり返っているやつらを思うと腸が煮えくり返ってくる。キースがやったことであって俺がやったことではないのもそれに拍車がかけられる。


 しかも、証言の合間あいまに、申したいことはと法務大臣が尋ねてくる。マスクをさせられていて喋れないことをいいことに、この仕打ちだ。弁護人は弁護人で決まって、ありませんと俺に代わって答えてくれる。


 真っ当な裁判ではないことは分かっていた。傍聴する人々も俺を蔑むように見ていた。少なくとも彼らにはキース・バージヴァルがどんなに苦しんでいたかだけは知ってもらいたかった。このマスクがなければ俺が代弁してやったろうに。


 証言は、キースの素行から核心部分へと移っていた。証言台には立ったのは専属の教師だった男だった。アーロンがエリノアを妃にすると言い出した時のキースのキレよう。キースはアーロンを殺すとまで言ったそうだ。


 その他にも近衛兵だが、部屋で暴れているキースを床に押さえつけるとキースはわめいたあげく、アーロンを罵り、殺すとまで言った、と証言した。おそらくはクスリでもやっていたのだろう。


 あとの証言も大体似たり寄ったりで、殺しを示唆する証言は大抵キースがキレた時に発せられていた。正常な状態でのそういった話は全くと言っていいほど聞かれなかった。


 裁判も二時間半を越し、証言もどれもこれも同じで内容に変化がなく、出し尽くされた感はいなめない。見世物としてもこれ以上続けるのもどうかと俺でさえ思ってしまった。


 案の定、居眠りをする者も現れ、そろそろお開きかって時に、ムーランルージュの支配人が証言台に姿を現した。






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