03
「竜王と会って来たんだな」
カール・バージヴァルは俺を見て、そう言った。俺はというと、呆れてものが言えない。というより、混乱をしていたのかもしれない。そもそもが訳の分からない男なのだ。一層分からなくなる。このままアメリアに帰ったとしても己に先はないのに、何なんだ、こいつは。
本人も薄々感じているはずだ。長い間地中に埋まっていた罪なき兵団はまだ生きていて、動かせると結論付けた。それだって、正しいかどうかは別として、こいつなりに人類の未来を考えてのことだった。
馬鹿じゃないんだ。アメリアに帰ったらどんな仕打ちが待ち受けているか想像出来ないはずはない。まさか本当に、命は取られないと高を括っているのか。デンゼルから逃げたと聞いて、やっぱり命が狙われているのを察していたかと安心したのに、そう思った俺が馬鹿だった。
アーロン王の腹積もりは、俺が無理なら他の誰かを使ってでも毒を盛る。あるいは、アーロン王直々に手を下すってことも考えられる。カールは魔法が使えるんだ。もし戦うのなら、アーロン王のお出ましとなる。
一体何を考えている。ここにいるってことは命を取られないと高を括っている、アメリアに帰って賜姓降下し、慣例に従ってアールソンの姓を名乗って、自由気ままに生きるつもりでいるってことだ。であるなら、逃げるように勧めるだけだが、ほんとにそうかなのか、俺はカールに問いただす必要がある。
現状でいえば、エトイナ山に行って帰って来たにしてはあまりにも早い帰還だ。早すぎて、ローラムの竜王に会わずに逃げ帰って来たと普通思われてしまう。ところがカールは俺と会うや否や、ローラムの竜王に会って来たと言い当てた。セイトで別れてからこうなることを予想していたとも取れる。カールの考えがなんであるのか、今ここではっきりとさせないといけない。
「まるで幽霊と出くわしたってツラだな、キース。それともなにか? 私がここにいてはまずいのか」
「いいえ。ご無事で何よりです、王太子殿下」
「私とおまえの仲だ。そういうのはいい。とりあえず、ここに座れ」
カールに言われた通り、囲炉裏の前まで行った。そして、アメリアを旅立った時のように、炎を挟んで向かい側に俺は座った。
「ローラムの竜王に何があった」
やっぱりか。カールは察していた。ロード・オブ・ザ・ロードの変化、シーカーたちの顔ぶれ。そして、現れた灰色のドラゴン。こいつはその真相が知りたくてここにいるんだ。
「会ったんだろ? 話せ」
ローラムの竜王に興味を持つあたり、ますますこいつの本心が知りたくなった。まずはそれをはっきりとさせなくては危なくて、俺の方からカードを切るわけにはいかない。
「その前にはっきりとさせたいんです、王太子殿下。あなた様はご自身の置かれた状況をご存じで?」
「私はいずれ殺されるのだろ。アーロン王にはイーデン・アンダーソンの他にまだ弟がいる。私を守ろうとしたならそいつをこの旅に同行させた。アーロン王は私の身柄を竜王に引渡そうとしていたんだ。あいにく、その目論見は見事に竜王に突っぱねられたがな。人の罪は人で裁けってことだ」
分かっていたんだ。だったらなぜ、介添人をした。少なくともそれは旅の途中で逃げるためのものじゃぁない。シーカーらの仲介を断ろうとしていたのもそう。ただ単に部外者お断りってことだ。部外者ってことは、カールはローラムの竜王に会おうとしていた。危険なセイトを渡ろうとした素振りからも何となく分かる。
「分かっているならなぜ、あなたはここにいるのです。私はちゃんとアーロン王に言い訳を考えていました。あなたは冒険者となるのです」
「出奔しろというのだな。だが、それは出来ぬ相談だ。私は命を懸けている」
この期に及んで何を言っている。
「何に命を掛けているというのです。ドラゴンの居ない世界ですか? それは無理だ。私は今回の旅でそう実感しました。悪いことは言いません。明日の朝にでも、ここから立ち去るのです」
「キース。おまえは考え違いをしている。私は家畜のように生きることを望んでいない。それならば死んだ方がましだと言っている」
ドラゴンと人の共生は始まっている。それに、ローラムの竜王もいなくなる。世界はもう、あんたの考えているように単純ではなくなっているんだ、カール・バージヴァル。
「あなたの言い分は分かりました。分かりましたが、それであなたは何をしたいというのです。期待していた罪なき兵団は飛び去ってあなたには何も残っていない。まさか叔父のイーデンに、クーデターの片棒を担がそうってんじゃぁないでしょうね。その前にあなたはアーロン王に殺されます」
「私がなぜ、逃げずにこの旅に同行したのか考えたことがあるか、キース」
「はい」 考えたさ。さっぱりだ。「ですが、分かりませんでした」
「私は命を懸けているって言ったよな」
「はい。ですが、その言葉をそのまま受け取るのはどうかと」
「どうかとは? 私の言っていることがそんなに可笑しいか?」
「そうではありません。あなたの言葉をそのまま受け取るなら、あなたは一人でローラムの竜王と戦おうとしていたってことになる」
カールはフフフッと笑った。
「いやいや。それはいくら何でも無理がある。戦いにもならない」
俺もそう思っているから言っているんだ。
「では、なぜ、この旅に同行したのです」
「それはだなぁ」 カールは不敵な笑みを浮かべた。「宣戦布告」
「えっ?」 耳を疑った。「誰が、誰に」
「人類がローラムの竜王にだ。宣戦布告すればローラムの竜王も黙っていられないだろうし、そうなれば人類も戦わざるを得ない。ただし、先ずこの私がローラムの竜王に殺されるだろうがな」
狂っている。呆然とする俺に、カールはお構いなしだ。
「おまえもあれをその目で見ただろ。罪なき兵団は間違いなく生きている。だとしたらナグラロクだってそうだ。戦いとなれば、罪なき兵団もナグラロクも、人々は真剣に探そうとするはず。幸か不幸か私は生き長らえた。拾った命は大切に使わさせてもらう。自分に恥じぬよう、これからも私にしかやれないことをやるつもりだ。その前に、おまえからの情報が欲しい。ローラムの竜王に何があった」
やべぇぇ、マジかよ、こいつ。何も分かっちゃいない。ドラゴンとなりゃぁ何もかも一緒くただ。誰が家畜だとか、どうのこうのカッコつけて言っていたが、ローラムの竜王は味方であって敵ではない。この男には世界が広いってことを分からせなくちゃぁいけない。
「あなたは戦おうって相手を間違っている。ザザムもガリオンも、近いうちにローラムを攻め込んで来る」
とはいえ、こいつにローラムの竜王がいなくなるって言えばどうなるか。ローラムの竜王が気になって、わざわざここで俺を待っていたほどだ。何をしでかすか分かったもんじゃない。それだけは、絶対に言えない。




