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08


 俺たちを乗せたムカデのドラゴンは猛烈な勢いで回廊をばく進している。このままいけば跳ね橋で、それを渡れば崖を掘削した宮殿だった。その先はない。


 もう終点である。だが、減速はしない。それどころかさらに加速していっている。もうぶつかるって時に、俺はみっともなく悲鳴をあげてしまった。ラキラもキャーキャー声を上げている。


 驚くことにムカデのドラゴンは宮殿を垂直に駆け上がっていた。俺たちは逆さ吊りのように天地が逆になっていた。手を離せば一巻の終わりだ。が、それもあっという間だった。


 崖を乗り越え、山を登り出していた。ゴロゴロ岩が転がる山肌をなんでもないように尾根に向う。すぐに長城が見えて来た。すこし平行に走っていつの間にかその長城も超えていた。今度は山を下って行く。


 眼下には森が広がる。確かラキラに教えてもらった巻雲という森だ。ムカデのドラゴンはそこに向かって行っている。右に傾いたり、左に傾いたりと、トロッコどころか今やもの凄いGに襲われている。相変わらずラキラはキャッキャ騒いでいる。ラキラと初めて話した時のことを思い出した。この子はやはり天然だった。


 おっさんの俺は生きた心地はしない。ムカデのドラゴンに乗って以来、まるで延々と続くジェットコースターのようだった。ガンガン登って行って、下る勢いで加速し、コーナーを曲がる。まさか宙がえりまでしないだろうが、この勢いだとやってしまいかねない。


 戦場でヘリや輸送機に乗っていたこともあった。あれはちっとも怖くはなかった。気流でガタガタ揺れたり、弾やミサイルが飛んで来ていた。思うにあれとこれとは別物なのだろう。もうすでに、ムカデのドラゴンは巻雲の森に差し掛かろうとしていた。


 ローラムの竜王に仕えるジェトリが統べる森である。うっそうと茂り、木々は密集している。シーカーの村にあった回廊なんてあるどころか、全く人の手が入っていない。そこをこのムカデはどうやって走破していくというのか。


 ラキラは全然気にしていないようだった。ムカデに全てを委ねている。止める気配はない。案の定、ムカデは森に突っ込んで行った。


 九十度傾くと幾つもの大木の幹をはしごに、ムカデは森を駆けあがって行く。そして、海から飛び出すクジラのように森を飛び出すと森の屋根、無数の枝葉の上を走って行く。


 森の上は思ったより快適だった。回廊や、崖や、山を走るように上下左右の動きはない。森が茂っていることもある。まるで草原を走るようだった。


 ラキラはワイヤーから手を放し、立ち上がった。あなたも立って、と言う。恐る恐るだが、俺も立った。ただし、ラキラのようにワイヤーから手を離さない。


「あの川がロックスプリング」 ラキラは指差した。「ヘブンアンドアースの支流。ヘブンアンドアースは南の狭い海に流れ込んでいる」


 右手に森の切れ目があった。そこに川があり、その向こうにまた森が広がる。おそらくあれは煙嵐の森であろう。俺たちが始めにいた場所だ。


 ムカデのドラゴンは川の流れに沿って蛇行して走っていた。振り返るとムカデのドラゴンは何十車両もある列車のようだった。長い体に、鱗のジャバラ。森の上という高さもあり、俺は列車の屋根の上にいるような気分だった。


「川を越えたら金床の森。チアナ国から蝶の塔に向かうロード・オブ・ザ・ロード、その橋を渡るわ。そこからは蝶の塔を真っ直ぐ突っ切ってエトイナ山に向かう」


 ラキラは兜を脱いだ。少しカールがかかった癖っ毛の、オレンジっぽい赤い髪が風に揺れる。さっきまではしゃいでいたのが嘘のようである。その眼差しはうれいを帯びていた。


 ローラムの竜王に会う緊張だろうか。それならば寂し気にはならない。おっさんの俺は母性本能ならぬ、おっさん本能を動かされた。がんばっているこの子の力になってやりたい。


 昨晩、ドームでは沈んでいるようだった。孤立していると言っていい。タイガーの称号は村のおさをまとめるキングではなく、村の主らの代弁者。俺の見たところ、シーカーではドラゴンに乗れる者が上級市民で、他は下級市民。


 だが、ドラゴンに乗れる者はドラゴンの主に頼らざるを得ず、タイガーをないがしろには出来ない。彼らにとってタイガーは煙たい存在だ。タイガーは主の言いなりでシーカーをないがしろにしている、とでも考えている馬鹿もいるのだろう。


 あるいは、なぜあの小娘なのかと嫉妬しているやつがいるのかもしれない。いずれにしてもラキラ・ハウルは微妙な立場に立たされている。


「もうそろそろです」 ラキラは兜を被り、ワイヤーを掴んだ。「橋を渡ります」


 俺も兜を被り、ワイヤーを掴んだ。ほどなくムカデのドラゴンは森に沈んだ。ロード・オブ・ザ・ロードに入ると橋を渡る。そのままロード・オブ・ザ・ロードをひた走る。


 中継地ルートイン・蝶の塔を走り抜けた。ロード・オブ・ザ・ロードから外れ、森に突っ込む。通常なら、三日月と星の塔へ向かい、そこから熊の塔を経て、エトイナ山に向かう。大きく迂回することを強いられたわけだが、今回は違う。


 森から浮かび上がる。右手に見えるのは草原キングランズ。多くのワイバーンがハゲタカのように宙を舞っていた。


 ムカデのドラゴン、名をジンシェンと言ったか、そいつはキングランズに沿って北上していく。ラキラは立ち上がり、兜を脱いだ。


「あとはエトイナ山に向かうのみです」


 いよいよローラムの竜王とご対面か。俺も立ち上がって兜を脱いだ。ラキラ・ハウルのために何かしてやりたい気持ちはある。だが、ローラムの竜王が元の世界に返してくれると、もし言ったなら俺はどうするか。


 不安を覚えた。ここまでの旅は元の世界に帰るためのものだったはず。なのに竜王がその方法を知らないのを期待する自分がいた。珍しく、揺れ動いている。


 俺は、竜王に自分の望みをちゃんと言えるのだろうか。いや、言わなければならない。ラキラ・ハウルの力になってやりたいなんて一時の迷いだ。この先、何が待っているか知る由もない。だが、何があろうともこの世界はこの世界の者で決着しなければならないんだ。


 そもそも俺一人でどうのこうのするなんて無理だ。出来っこない。そんなこと考えること自体、傲慢だし、この世界の者たちに失礼だ。俺は関与しない。






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