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07


 ラキラ・ハウルは世界樹の農園を先に進んだ。ひときわ大きな世界樹があった。幹は直径十メートルほどあろう。一言で言うと太い木をさらに束ねたような姿をしている。そこから出た太い枝がまるで傘の骨のように広がっていて、細い枝が蜘蛛の巣のように張り巡らされていてる。


 まるでドームのようだった。ラキラはそこに入って行った。俺もドギマギしながら付いて行く。世界樹の大きさといい、袂の暗い感じといい、どんな恐ろしいドラゴンがいるかと思えば拍子抜けであった。ドラゴンの姿は見受けられない。この農園では一本の木に一体、必ずドラゴンがいると思っていた。


「タイガーと呼ばれる者はドラゴン側の代弁者になる。シーカーをまとめているわけではない」


 木の上の暗がりに、二つの光体を見た。それが枝を縫って近づいて来る。世界樹の大きさから言えば、どんな大きなドラゴンがこの世界樹をヤドリギにしているのか想像もできない。ロード・オブ・ザ・ロードに出た灰色のドラゴンは、馬より一回り大きい赤いワイバーンの倍はあった。


 さきほどの岩のドラゴンもゾウほどあった。だが、木から降りて来る影は大きくはなかった。顔は平ぺったく、その幅は二メートル強で、胴もそれと変わらない。


 まるでムカデである。二メートルの幅の物体が延々と連らなる。足も幾つもあり、螺旋階段を降りるように世界樹を下って来る。


 直径十メートルの幹を何周したのだろうか、それでもまだ胴の先は見当たらない。ドラゴンの頭が俺たちの目の前まで来てやっと切れ目が確認できた。何巻きもしている胴を残し、二十メートルほど上に最後尾はあった。


 デカくないというのは間違いだった。おそらくは全長百五十から二百メートルぐらいあるのではないか。


 ドラゴンの頭には大きな角がある。形はクワガタの顎のようで、背中を表とするなら、目と口は裏側にあった。黒目ばかりの目で、半透明の膜、いわゆる瞬膜が閉じたり開いたりしている。口はサメのようだった。


「十二の村にはこのような世界樹の森があり、そこには必ず主がいます。主はその土地でもっとも古いドラゴンで、わたしは彼ら十二の主にタイガーとして選ばれました」


 なるほど、そういうことか。今まで見た全てをひっくるめて、ラキラ・ハウルは預言にある“赤毛の乙女”だと思う。ローラムの竜王はラキラ・ハウルに用があるんだ。俺に用があるわけではない。


 異世界転移はローラムの竜王の仕業ではなかった。ラキラ・ハウルをカールたちから引き離そうとした結果、俺が巻き込まれた。


 だとしたら、おかしいではないか。それならば俺たちは今頃、ローラムの竜王の元にいた。灰色のやつはなぜシーカーの村付近に俺たちを飛ばしたりしたのか。やはり、俺も何らかの関係がある。


 かと言って、二人合わせてローラムの竜王の元に送らないとなれば、俺たち二人がここにいることになんらかの意味があると見ていい。


「彼の名はジンシェン。わたしたちはジンシェンに乗せてもらってエトイナ山に向かう」


 見たところ、翼は確認できない。そりゃぁそうだ。長すぎる。巨大な世界樹を何巻きもしているのだ。


「飛べるのか?」


 愚問である。思わず言ってしまった。魔法かなにかで飛べるに決まっているからこのドラゴンで行くとラキラは言っている。


 いや、もしかして魔法で俺たちを飛ばしてくれるのかも。灰色のやつがやった空間魔法。


「それとも、魔法で飛ばすのか?」


「わたしたちだけ行くの?」 ラキラはクスクス笑った。「帰りはどうするの? 歩いて帰るの?」


 そりゃぁそうだ。ローラムの竜王に魔法を使わせて、俺たちの望むところに送ってもらおうなんて虫が良すぎる。っていうか、思っていたとしても、ローラムの竜王を前にして口が裂けても言えやしない。案の定、ラキラはジンシェンと呼ばれるドラゴンの頭に乗った。そして、ドラゴンをかたどったアーメット兜を被った。


 俺も乗らないわけにはいかない。いいさ、心の準備は出来ている。ちょっと想像しているのと違っただけだ。月光に照らされて優雅に飛ぶドラゴン。マントをなびかせてドラゴンを駆る男たち。英雄的で、空飛ぶドラゴンもかっこよかった。


 裏側に顔があると言ったが、ジンシェンの頭の表側、人で言うと後頭部に当たる部分だが、ふちに沿ってガラス玉のような眼が八つあった。灰色のドラゴンは二つの目の他に、額にも目を持っていた。ただあれと違うのはキョロキョロ動く眼球ではなく、ジンシェンのは蜘蛛なんかと同じくレンズ眼だった。


 背中は小さな鱗が密集している。ぎっちりと固められているのだが、一メートル置きに昆虫の節を思わせる横筋がある。おそらくはアルマジロの甲羅にある筋のようなものなのだろう。丸まった時に伸びるジャバラ部分とおなじ仕組みに違いない。


 俺もアーメット兜を被った。「じゃぁ、失礼します」 


 とは言ったものの、ツルツルで掴むところがない。背骨に当たる部分が盛り上がっていて座るには丁度いいが、捕まるところがない。動き出したら滑って落とされそうだ。


「ラキラ。これって大丈夫なのか?」


「これを握って」


 ラキラはワイヤーのようなものを前から送って来た。ジンシェンの髭か、触覚なのだろう。俺の兜には面頬めんぽおがあり、普段はバイザーのようにあげている。下ろせばそれがくちばしとなった。一応、イーグルをかたどっている。俺はそれを下ろした。


 ワイヤーを握りる。見よう見まねで腰を落とし、足を前に出して突っ張る姿勢をつくる。


「いい? では、行きましょう」


 目の前に赤い魔法陣が現れた。ムカデのドラゴンは動き出すと自ら魔法陣の中に入って行く。当然俺たちも魔法陣を潜ることになる。


 おそらくは補助魔法の内、強化系の状態変化を自らに施したのだろう。ムカデのドラゴンは徐々に加速していく。


 世界樹が栽培された農園の中を森に向かって走って行く。木漏れ日で枝葉の影が落ち、路面にまだら模様を描いていた。そこを物凄いスピードで駆け抜けていく。降り注ぐ光のシャワーを抜けると森に入った。


 一転、薄暗い。まるでトンネルを走るトロッコである。右に左に振り回されたかと思うとあっという間に森も抜けた。目の前にドーム。回廊に入る。ドームは瞬く間に、横目に通り過ぎていく。






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