05
「で、あなた方はどうやってローラムの竜王に会うというんだ」
「カール・バージヴァル王太子殿下をお探しします。場所は大体見当を付けております」
「そりゃぁいい。だが、見つかったとしてカール・バージヴァルが、あなたらとローラムの竜王との仲介をしないと言ったら?」
「説得致します。事情を話せばあの方はお力をお貸し下さるでしょう」
おめでたいな。「あなた方は罪なき兵団の事件を御存じか。カール・バージヴァルはあれがまだ死んでいないことを知っていた」
「そうでしょうか。知っていたとは思えません。王太子殿下はただただ、王国のため、人類のために学術の発展を強く望んでおります。我々としても他人事ではない。古代遺跡は感慨深いのです。罪なき兵団なら尚更。それが見つかったとなればあの王太子殿下なら発掘するのは道理でありますし、我々も喜ばしい」
こういうのを情報弱者っていうんだろうな。それとも、自分のいいようにしか物事が見えないか。
「では、話しを変えよう。俺は急きょ、ローラムの竜王に会うことになった。どうしてだ?」
「急きょ? 大仰な。殿下が十八歳になられたからでしょ。それが罪なき兵団の事件と何の関係があるのです」
「俺は数々の行事儀式をすっ飛ばして、いきなりローラムの竜王に会うことになった。それはご存じか」
「そのようですな。申し上げにくいが、それは全てあなたがまいた種。誰のせいでもありません。あなたの素行が悪かっただけ。ローラムの竜王との契約をアーロン王にあなたが許されたのは馬から落ちてまともになったから」
「つまり、俺はあんたらに端から信用されていなかった。いくら言葉を重ねようが無駄ってわけだ。だが、これを見たらそういえるかな」
俺は胸元から小瓶を取り出した。アーロン王が俺に渡したあの小瓶だ。
「毒薬だ」 ホスト役の男の前まで行くとそいつに小瓶を手渡した。「幻覚作用もある。夢を見ながら痛みもなく死ねるらしい」
場がどよめく中、俺はドームの中心に戻った。ホスト役の男は小瓶をまじまじと見、隣の男にそれを渡した。
「アーロン王が旅の最中、それをカール・バージヴァルに飲ませろと俺に命じた」
ドームは静まり返った。緊張感が漂う。敵意のまなざしが俺に集まった。
「心配するな。俺はあんたらの邪魔するつもりもない。ローラムの竜王に会おうが会わないが勝手にすればいい。そもそも俺はカールを殺すつもりはないんだ。小瓶は返してもらわなくて結構。捨てるなり、アメリアを強請るために保管するなりすればいい。俺の言いたいことは、カール・バージヴァルは罪なき兵団を動かしてアーロン王を怒らせた。今回の旅もなんのことはない。カール・バージヴァルをローラムの竜王に引き渡すためのもの。罪なき兵団はドラゴンの敵。ローラムの竜王がどう思っているのかは想像出来よう。それだけではない。もし、カール・バージヴァルがローラムの竜王に許されたとしても、あのようなことをまた起こさないとは限らない。古代遺跡に熱心だからな。だから、俺に毒を盛らせようとしている。アーロン王はローラムの竜王を恐れているんだ」
「王太子殿下を殺すつもりはない。だが、命じたのはアーロン王。逆らったあなたはどうなるんだ?」
「カールがピンピンして帰ってきたら間違いなく、俺は難癖付けられて投獄される。首尾よく俺がカールを殺したとしても同じだ。因みにカールにしたって同じことだ。本人は、廃嫡は覚悟しているようだが、殺されるとまで考えているかどうかは疑問だ。俺が思うに、やつはまだ逆転できると信じている。どうやら奥の手があるようだ。が、殺されればそれも水の泡さ」
「つまり、」 ホスト役の男は唸った。「あなたは何が言いたい」
「どっちにしろ、あんたたちの秘密は保たれる。エンドガーデンでは、俺の言葉には誰も耳を貸さないってことだ。そして、カール・バージヴァルはあんたらには手を貸さない。やつが罪なき兵団が生きていることを知っていたと言ったよな。なぜやつに罪なき兵団が必要なんだ。おかしいだろ? だが、ちょっと考えれば分かる。それは使う相手がいるからだ。さっき言ったようにアーロン王もそれを察している」
「信じられない。カール・バージヴァルはローラムの竜王と戦う気でいる?」
「よくよく分からん男だ。この旅でトンズラってわけではない。なら、タイガーが現れた時、ラッキーだと喜ぶだろ。その素振りもないどころか本人も、なんでタイガーなんだと不思議がっていたほどだ。おそらくは、賜姓降下したら自由にふるまえるとでも思っているのだろう。叔父にイーデン・アンダーソンがいる。そいつには心を開いているようだ。見習っているのだろう」
俺はタイガー、ラキラ・ハウルの前に行き、振り返って十二人を見渡した。
「つまり、俺の言いたいことは、ここにいるタイガーはあんたらにとって最善な選択をしたってことだ。それでも、あんたらは俺をここに引き留めておくのか。俺はそれでもいいぜ。渡りに船だ。ちょうど困っていた時に、ここにかくまってくれるってあんたらがわざわざ俺に言ってくれているんだ。国に帰れば不当な裁判にかけられた挙句、斬首か、絞死刑の身なのに」
ドームは静まり返っていた。そりゃぁそうだ。いきなりこんなことを言われて面食らっただろうし、タイガーの意見に反して、こいつらは俺をここに留めおくと決めたんだ。引くに引けないというのが人情というもの。
「ここからは、俺が言うのを信じても信じなくてもいい。まぁ、聞いてくれ。今の話からすれば、俺がローラムの竜王の元に行く必要がないってことが分かる。むしろ、ここにいる方が安全だ。渡りに船だと言ったよな。なのになぜ、タイガーにローラムの竜王と合わせてやると言ったのか。おかしいとは思わないか。実は、俺はローラムの竜王に呼び出された異世界人なんだ」
呼び出されたとは、はったりだ。俺が異世界転移したのがローラムの竜王に関係するかどうかも分からない。だが、そう言った方が筋が通る。
「元の世界に戻るには是が非でもローラムの竜王に会わなくてはならない。状況はあんたらと同じさ。なぁ、よく考えてみろ。俺があの悪童、キース・バージヴァルと思えるのか。中身はおっさん。人にこき使われるサラリーマンの中年だ」
サラリーマンという言葉がこの世界にあるかどうかは分からない。だが、この場合、サラリーマンという言葉が無い方のが好ましい。異世界から来たっぽいではないか。
「もし俺が上手く帰れたらここでの記憶は当然、向こう側の別世界にある。あんたらの秘密は保たれる。それに、もしかしてだが、ローラムの竜王の異変は俺に関係しているやもしれない。あとはあんたらで判断してくれ。俺は言いたいことは全部言った。ここから出ていく。俺がいない方が話をしやすいだろ?」
ドームを出て、崖を見上げた。
Vの字の一番深い奥の部分。石窟は、他の住居群とはまるで違い、整然とし、バルコニーも下から上へと等間隔に並べられている。彫刻や石造も飾られていた。鋸壁のような物騒なデザインはなく、城というより宮殿に近かった。所々に灯されたかがり火が、崖である城壁を赤く染めていた。
すぐ後ろに衛兵が二人付いた。ここに来た時から俺に張り付いていた男たちだ。俺は構わず、一人歩きするように宮殿に向かった。
ドームでは上手く話せたと思う。それでも、俺をここに幽閉するというなら、やつらは完全にあほうだ。だが、きっとそうはならない。時間が必要なだけなのだ。
回廊を歩いて跳ね橋を渡り、宮殿に入る。ドームでの結論は明日の朝、もたらされるのだろう。今夜は酒を飲んでゆっくりする。体を休め、疲労を取らねばなるまい。もし、明日の朝、旅立つのならラキラ・ハウルの言う通り、その日のうちにエトイナ山に着く。慣れないドラゴンに乗るのだ。
ラキラがドラゴンを駆り、俺はバイクの後ろに座らされた女の子のようにラキラの腰にしがみ付く。ドラゴンへの恐怖と、落ちてしまわないかの不安の中で俺はドキドキする。そして、ラキラの背中に顔をうずめ、その背中に頼りがいを感じてしまうのだろう。




