01
ワイバーンが飛んでいた。恐ろしい鳴き声と風切る翼音をあたりに響かせて北西の方角へ飛んで行った。
カールによるとドラゴンはどうやって生まれるのか分からない。鳥のような卵なのか、カエルのような卵なのか、そもそも卵というのも疑わしい。それから考えるとドラゴンは生殖行為を行わないように思える。
物証もなく、論理が飛躍し過ぎてただの空想になってしまうのだが、もし、そうだとしたなら、今さっき上空を飛んで行ったワイバーンがなぜ鳴いているのか理解できない。メスを探している訳でもなし、誰に何を伝えようとしているというのか。
おろらくは狂っているのだろう。ゾンビは物音が聞こえない時は身動き一つしない。まぁ、映画の中での話なのだからここで言うのもどうかと思うが、どちらかというと狂犬病みたいなものなのだろう。
ともかく、俺は大きな岩の下に身を隠している。ラキラ・ハウルとちっこいドラゴンも一緒だ。ワイバーンが空を通るたんびに俺たちは岩の物陰に隠れている。
思う様に先には進めていない。もう日没も近い。そろそろ野営も考えなければならなかった。いくら進みが悪いと言っても、ここは見渡す限り石の荒野。進むのを諦めて、どこか身を隠しつつ、横になれる場所を探さなくてはならない。
こうなる前にラキラには聞いた。ドラゴンと意思疎通が出来るのなら、一々隠れずに先に進んだらどうなんだって。が、彼女曰く、どのドラゴンにも声は掛けている。要は、相手に聞こえるかどうかだ、ということだ。
聞こえないということも考えて、岩に身を隠すのだという。なるほどとは思う。灰色のワイバーンに首を引きちぎられた赤いワイバーンは、何十匹集まって来たドラゴンの内、たった一匹だけだった。
なんで赤いのだけがあの場に留まっていたのか、なんで一目散にこっちに向かって来たのか。あれはラキラ・ハウルの声に応えた結果だ。俺の言いたいことは、あれだけ集まって来てたった一匹だけだったということだ。
「ここで野営しましょう」
突然、ラキラ・ハウルが足を止めた。ここって、ここですか。
まだ、岩の荒野を抜けていない。標高が高いのもあってここは冬になれば雪が積もるのだろう。身を隠せるような大きな木は一本も生えていない。
大きな岩もない。見渡す限り白っぽい小さな石ばかり。ラキラ・ハウルはその石をひとっところに集めて囲炉裏を造った。もちろん、俺も手伝った。何か考えがあるのは分かる。相手はうら若き乙女だと言ってもシーカーの王だ。
頭の上に紫色の魔方陣が現れた。大きいやつだ。直径は五メートルある。それがゆっくりと降りてきて俺たちの体を通り過ぎていって足元の地面に消えた。
「結界が張られたわ。この円の外からは、私たちを見ることは出来ないし、入って来ることもできない」
はぁ? つまり、ローラムの竜王がヘルナデス山脈に施した魔法の壁の小さい版か。だが、それをこのちっこいドラゴンが?
「ちょっと待て。ならば、はじめっからそうすればこいつだってカールに捨てられることはなかった」
「いいえ。いま私が教えたの。魔法はイメージよ。ドラゴン語を喋ると魔方陣が浮かび上がる。あなた達がドラゴン語と言っているものは魔方陣を作る魔法のこと。自分が造った魔法陣を見ることで頭の中のイメージがより鮮明化されていく。それが魔法を生み出すのよ。魔法陣が魔法を生み出すわけではない」
「つまり、魔法陣は自分のイメージを作るための魔法というわけだな」
「一方で、相手も、その魔方陣から、魔方陣を発した者のイメージが読み取れる。ドラゴンと会話が成り立つのはそのため、イメージを解してってこと」
一人と一匹は上手くやっているようだ。ちっこいドラゴンはラキラの頭の上に乗っている。まるで巣にいる雛のようだ。
「つまり、君は魔法陣を使わなくとも結界というもののイメージを、このちっこいドラゴンに見せれるってことだね。君が持つ霊感みたいなやつで」
「霊感かどうかは分からない。でも、そういうこと」
「伝えられるっていうことは、そういう魔法を知っている、見たことがあるってことだ。君は賢いドラゴンのことをよく知っている。俺が言う“知っている”ってぇのは、見知っているっていう意味じゃない。おそらくは、そのちっこいドラゴンももっと賢くなれば色んな魔法が使えるようになる、こんなことも出来るのかって気付いていくんだろ? 普通ならドラゴンがどれもやっていることなんだ。それを魔法も使えない君がちっこいドラゴンに伝えられるということは、君には賢いドラゴンに友人がいる。そういうことなんだろ?」
ラキラ・ハウルは笑った。「村に行けば分かるわ」
行けば分かるか。俺がカールから聞いているシーカーのイメージと、こいつらはまるっきり違う。こいつらはまるでドラゴンとマジ共生しているようだ。
「暖を取りましょう。キースさん、危ないから下がって」
そう言って腰の袋から箸ほどの木の棒を出した。それを石積みの囲炉裏の中に入れるとちっこいドラゴンが魔法で小さな火の玉を出した。赤々と見えながらゆらゆらと宙を進み、暖炉の中に落ちる。
轟音と共に背丈ほどの火柱が上がった。それからゆっくりと火力が落ちていき、一メートルほどの高さで炎は落ち着く。
「世界樹の木は魔法で燃やすとこうなるの」 腰袋から世界樹の枝を取り出し、俺に見せた。「明日の朝までならこの一本で十分」
燃えるためには三つの要素が必要だ。酸化の反応を起こすためのたくさんの酸素に、酸素と結びつく燃料。そして、燃える反応を起こす元だ。
世界樹はここで言う燃料にあたる。一見、焚き木の細い棒だが、その実、魔力を溜めた固形燃料とは言えまいか。なんとなく、ドラゴンが何も食べないっていうのも分かる気がする。
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