13
全くタイミングが合わなかった。魔方陣は俺たちの体をすり抜けていった。まるで全身を断層撮影をされたように、魔方陣に接したところは光の線が引かれた。ただし、普通の断層撮影と違うのは光の線が刻まれた先は消えて無くなった、というところだ。
足、腰、腹、胸と徐々に消えていき、最後に頭。気付けば、俺は山中である。少年に覆いかぶさって地べたに伏していた。
ドラゴンたちの狂宴が嘘のようである。閑散とした岩場であった。タカか、トンビかの鳴き声が聞こえる。俺はどこかに飛ばされていた。灰色のやつに魔法でどこかに転送させられたんだ。
「大丈夫か」
俺は少年を揺さぶった。すると少年の胸元がモゾモゾ動いた。なんだろうと思っていると少年は、慌てて俺の手を振り払った。
「下がって」
別に何もしやぁしない。ただ心配になっただけだ。誤解を解くため、俺は危害を加えるつもりがないと両手を上げて、ゆっくりと後ずさった。
どういうわけか、少年の前に赤い魔方陣が出来上がっていた。その文様を直感的に、見たことがある、と思った。灰色のやつのではない。カエルのやつのだ。
案の定、赤い火の玉が発射された。前は野球ボール大だったが、今回はバスケットボールぐらいあった。俺はそれこそ、横っ飛びにかわした。
ファイヤーボールは背後の岩にあたった。ここいらで転がっている中で一番大きいやつだ。直径は五メートルぐらいあろうか。それが燃え上がり、ドロドロと溶けだした。まるで溶岩だった。
ライオンの塔でタイガーとカールが作戦を練っていた時、珍しくその時だけ少年はタイガーと一緒にいなかった。俺は今、その訳を知った。
少年の肩にカエルのドラゴンがいた。少年がドラゴンを手で押さえ、なだめている。が、しかし、拾ってきたにしろ、どうしてドラゴンが少年になついている。
いや、まずはロード・オブ・ザ・ロードだ。魔法が使えない者には見えない。だから一旦、外に出てしまうともう戻れない。森に投げ捨てられたドラゴンをこの少年はどうやって見つけ、その後どうやってライオンの塔に戻って来れたのか。
それにカエルのドラゴンである。少年になついているようだが、ドラゴンは世界樹しか拠り所たりえない。世界樹を失えば、馬鹿になってはぐれドラゴンになってしまうはず。それなのにカエルのやつはまだ魔法が使える。しかも、衰えるどころか、さらにパワーアップして。
「君はドラゴン語がしゃべれるのか」
この質問は、的確ではない。もし、喋れるとしたらロード・オブ・ザ・ロードにも自由に出入り出来るし、ドラゴンと会話も成り立つが、それでもドラゴンがなつくまではいかないし、そもそもドラゴン自体が世界樹を失っている。少年がドラゴン語をしゃべれたとしても、ドラゴンの方が言葉を理解できるはずがない。
「いいえ。魔法も使えないわ」
少年はそう答えた。想定内だからがっくりはしない。この少年はまた別の能力を持っている。
まぁ、いい。それはおいておくとして、今、最優先なのはここはどこかってことだ。少年が何者かってことじゃぁない。俺はカールらとはぐれ、どことも知らない山中にいる。
森の中ならまだしも、ここは木一本生えていない岩場だ。ヘルナデスの尾根から下ったその中腹。眼下には森が広がっている。この風景から、エンドガーデン側ではないのは確かだ。つまり、ここはドラゴンの生息域側。いつ、はぐれドラゴンが襲ってくるか分かったものではない。
「山を下ろう」
だが、少年は動かない。ここがどれだけ危険かは、少年とてさっき目の当たりにして分かっているだろうに。
「ここにいたら危ない。さっきセイトで見ただろ?」
「大丈夫。この子がいるわ。この子が私たちを守ってくれる」
少年の肩にはカエルのドラゴンがいた。そいつは全く逃げるそぶりもない。
「守ってくれるって、そいつとは会話も出来ないんだろ?」
「心で話すの。言葉なんていらない」
テレバシーか、何かか。それとも霊感か? たまに動物としゃべれるやつがいると聞くが、こいつはそういうやつなのか?
一概には言えないがおしなべて、非科学的だとか、思い込みだとか、そういうやつに諭したって聞く耳持ってくれない。そもそも思い込みが激しいから、現実を主観で歪めて解釈してしまってるんだ。そんなやつに、それは思い込みなんだって言ったってしょうがない。現実に対して歪んだ認識でいる以上、誰でもが分かる現実のみがそいつらに対して説得力を持つ。
「なるほどね。それで君はドラゴン語が分からなくても話ができるんだね。でもね、君。そいつはいつか、はぐれドラゴンになってしまんだよ」
俺はカエルのドラゴンを指差した。この事実は、解釈の介在を許さない誰でも分かる現実なはずだ。
「大丈夫。この子はそうならないわ」
はぁぁ? 思い込みは思い込みでもポジティブシンキング。というか、その口調、やりにくいな。まるで女だ。
「キースさん。あなたをずっと見て来たけど、噂ほど悪い人ではないわ。皆はカールさんを頼りにしていたけど、私はあなたを信用する」
ポジティブなうえ、人の話を全然聞いちゃぁいない。これが天然というやつか。だが、振り回されてはたまったもんじゃない。こっちは急いでいる。ちったぁ俺の言うことを聞いてくれ。
「ありがとう。では、森に急ごうか」
「下の森は巻雲の森。ここから見える一番大きな山は龍哭岳。私たちがいるのはちょうどチアナ国の国境付近で、その国境線上の中間地点ぐらい。ライオンの塔までは最短距離で森の中を行ったとしても木々に阻まれ六日。山中を行って、足場の良いユーア国の竜の門からロード・オブ・ザ・ロードを使ったとしても六日」
「分かった、分かった。だけど、この際、ルートの件はおいておこう。まずは身の安全だ」
「巻雲の森の中を進み、ロード・オブ・ザ・ロードの途中から入ったとしても、さっき言った二つのルートとはたった一日二日しか変わらない」
天然かぁぁ。まぁ、いい。「では、最後の案で行こうか。森の中に入って途中からロード・オブ・ザ・ロードに入る。シーカーは独自のルートがあるんだろ? 魔法が使えなくとも君たちはロード・オブ・ザ・ロードに入る術を知っている」
「術って?」
「はぁ?」 質問返しというか、俺の話を聞いていなかったから、ただ単に聞き返している。「それで君はカールが投げたそのドラゴンを拾って来られたんだろ?」
「ああ、それね。あれはあなたが言う術っていうのとはちょっと違うわ。何かやるって訳でもないけど、確かに私たちの何人かはそれが出来る。他の皆は穴の位置を知っているの。ローラムの竜王の魔力のほころび。私たちはそこを穴と呼んでいる。誰でも通れるわ。でも、ライオンの塔付近にはそれはない」
穴? そういやぁ、シーカーが独自のルートを持っているってカールから聞いて、俺がまず思ったのはそれだったっけ。いかにローラムの竜王であろうとも完ぺきではない。って、待てよ。じゃぁ、ライオンの塔ではどうやって戻って来れたんだ。こいつがなおさら何者か分からなくなる。
「とにかく、三つ目のルートで」
「エトイナ山に直接行く。ここからでも一日もかからない」
「はぁぁぁ? 一日もかからい?」 さっき魔法は使えないと言ったじゃないか。「つまり、魔法が使えるって言うんだね? だから君は、ドラゴンを拾ってライオンの塔に戻って来られた」
「いいえ、使えないわ。ただ、一日でエトイナ山に行くなら一度、立ち寄らなければならない場所がある」
どういうこっちゃ。「それはどこだい」
「あそこ」
少年が指さした先。そこにはさっき岩があった。今は蒸発して無くなり、ヘルナデス山脈の連なる尾根と長城がよく見えた。
遠く向こう、尾根は西に大きく膨らんでいた。その辺りの山はここより低く、少年が指差した先は明らかに結界の西側、ドラゴンの領域だった。
「シーカーの村があるの」
シーカーの村? まさしくそういった所にそれがあるって言っていたな。一時避難にはいい。だが、それが行程の短縮にどうつながる。
「タイガーらはどうする。ライオンの塔か、その先の蝶の塔で待っているかもしれない」
「彼らなら大丈夫。彼らは歴戦の勇者だもの」
確かに。タイガーが付いているならカールも安心だ。
「キースさん。私をローラムの竜王のところへ連れて行って下さい」
シーカーの場合、エトイナ山に自分で行けるから行こうって訳にはいかない。少年は俺に、ローラムの竜王との仲介を頼んでいる。
カールもそれは察していた。が、その気がなかった。「君たちはこのことをカールに頼もうとしていたんだろ?」
「お気を悪くしましたか?」
「いいや」 カールを思うとなんか笑えてきた。「いいよ。大体察していたことだし、俺が出来ることなんてもんは、それぐらいのものだ」
「じゃぁ、決まりね」 少年は谷の方に向かって歩き始めた。足取りが軽い。「ぼやぼやしないで」
振り向いたアーメット兜であったが、表情が見えない。が、喜んでいるように見えた。俺は追いかけずに言った。
「ちょっと待ってくれ」
「なんですか?」 少年は立ち止まった。「他に御用でも?」
「なにって。これから一緒に行動するんだ。名前ぐらい教えてもらってもいいだろ?」
「そうだった」 少年は笑った。「私はラキラ・ハウル。皆にはタイガーって呼ばれている」
そう言って兜を脱ぎ、マスクを取った。そこにいたのは少年ではなく、赤い髪をした、キースぐらいの歳頃の女だった。
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