09
庭師を道の隅に寄せ、俺たちは三十分の昼休憩とした。斥候は交代し、新たに斥候になった男は飯だけで休憩も取らず出発した。
誰も話そうとはしない。無口なのは考えているからだろう。皆、俺と同じような疑問を持っているはずだ。なぜ、庭師は魔力を失ってしまったか。ロード・オブ・ザ・ロードも魔法の産物である。それがもし庭師と同じように魔力を失ってしまったら。
ウインドウからルートインまでの庭師は健在だった。ちゃんと元気に仕事をしていた。魔力切れになっていたのは二つのルートインの間。だが、いったい庭師は全部で何体いるのだろうか。結構な数がいると思う。
魔力の仕組みはよく分からない。おそらくはマイクロ波での電力無線伝送みたいなものなのだろう。だとしたら普通に考えて、問題はエネルギーの発信源側にある。いずれ全体に影響が及ぶだろう。これから行く先の庭師は、ロード・オブ・ザ・ロードは、一体どうなっているのだろうか。
引き返すか。それも選択肢の一つだ。旅はまだ始まったばかりなのだ。カールはどうするつもりだろうか。タイガーは。
二人のリーダーの顔色をうかがった。引き返すような気配はない。それどころかタイガーは不測の事態に備え、ショートスピアに付いたワイヤーの結び目とか、戦闘用ナイフ(サクス)の刃こぼれとか、魔具のチェックをしていた。
他のシーカーも同じで、靴の紐を結び直したりと魔具、装備の点検をしていた。怖気る様子もなく黙々と。狼狽えてタイガーに指示を請うようなことは誰もしない。
俺が思うに指示もなく、息の合った動きからして、彼らにとってこれは想定の範囲内の出来事なのだろう。当たり前のように事態を受け止めている。
そう言えばカールは、今回のタイガー直々のお出ましを不審に思っていた。何かあるなと勘ぐってはいたけれど、その答えがこの先にあるとあって、カールの好奇心に火が付いたようだ。やる気満々で、馬に掛けていたソードベルトを着用し始めた。
ローラムの竜王に何かあったのではないか、と俺と同じように考えていたのなら当然の反応だ。カールのことだ。是が非でも、確かめなければ気がすまないのだろう。
さぁ、行こう、となったその時、目の前十メートル先を、虎が横切った。道を一旦出たが、戻って来て、道の中央で立ち止まると俺たちの方に向かって突進して来た。
この道は魔法の産物である。最初のルートインに入る前に多くの野生生物を見た。どれも道の存在には気付いてないようで俺たちには見向きもしなかった。
カールは、魔法が使えない俺に対して、この道から出るなと言った。出ると戻れないらしく、それは魔法が使えない虎だって同じことだった。
だったら魔法が使えないシーカーたちはルートインで待ち合わせる時、いったいどうしているのだろうか。カールは独自のルートがあると言っていた。どこかに魔法の綻びがある。ローラムの竜王がいかに魔法に優れたとしてもこれだけの代物だ。不完全なところがあってしかるべきだ。だが、この場合、虎はロード・オブ・ザ・ロードを、普通に出入りしていた。そして、俺たちを獲物だと思って襲い掛かって来た。
タイガーは振り上げたハンマーを、飛び掛かって来る虎の頭の上に落とした。虎は叩き落されるどころか、蠅がはたかれたようにハンマーと石畳との間でぺしゃんこになっていた。頭は無残にも中身を失っていて、飛び散った血やら脳髄やらが俺の白いパレードアーマーを台無しにしていた。カールはというと、ちゃんとマントでブロックしていた。
「大昔、猛威を振るった竜王のジェトリ峻険公の背骨を素材にしたウォーハンマー、フェンリル。地を揺らす者という意味がある。固有効果は会心の一撃だ」
俺たちは先を急いだ。日暮れまで命一杯移動し、夜明けには出発した。距離は大分稼げたようだ。昼過ぎには次の中継地、ライオンの塔に入れるだろう。
カールはずっと無口だった。タイガーに全てを任せているようで、旅の行程などに指示もしなければ口出しもしない。タイガーもおそらくローラムの竜王に会いたがっている。それはカールも察していた。とはいえ、会わせるかどうかは別の話だ。
シーカーはローラムの竜王にお目見え出来ない。そういう決まりなのだが、それは当然のことであろう。シーカーとローラムの竜王は建前として、まだ休戦していない。
誰がどう見ても、今のシーカーがローラムの竜王を倒そうなんて考えているとは思えない。はぐれドラゴンを駆逐するのが関の山で、それはむしろ、ローラムの竜王に手を貸しているとも取れる。
たどって来た歴史の過程でどっちの味方にもなれず、結果的に、人とドラゴンとの共生を手助けしているかっこになっている。彼らは気付いているのだろうか。おそらくローラムの竜王は気付いているのだろう。シーカーが出過ぎた真似をしない限り、この状態は維持される。
相変わらず、タイガーと少年は仲睦まじい。同性愛はこの世界では認められないのだろうが、俺の世界では普通に認められていた。俺の説では、この世界は俺の世界の未来。あるいは未来ではあるが、パラレルワールド。おそらくシーカーは、俺の世界のもう一つの一面、この世界で捨てられてしまったその文化を継承している。
「もうそろそろだな」
無口だったカールが口を開いた。緊張感が解かれたのだろう。ほっとしたようで、言葉に張りがない。次の中継地、ライオンの塔はもうすぐなのだ。
が、またしても斥候が戻って来た。問題があったのは明白だ。ライオンの塔が近いこともある。この旅に致命的な打撃を与えるほどのことではないと願うばかりだ。
斥候はタイガーの耳元で囁いた。タイガーは少年にそれを伝えた。そして、カールにも問題が何かを言った。
「この先で世界樹が生えている。芽を吹いているのではない。苗ほどにもなって小さなドラゴンがそこに張り付いている」
斥候が言った通り、そこに行くと三十センチほどの背丈の苗に、手のひら大のドラゴンが張り付いていた。一見、黒色だが光の加減では紫がかって見える。道の真ん中に堂々と居座っていた。
シーカーたちは、世界樹と小さなドラゴンを取り囲んだ。排除するのだろう。助けてあげたい気もする。この世界では厄介者なのかもしれないが、別の世界から来た俺としては貴重な動物としか思えない。希少生物は保護するべきなのだ。
それに、可哀相な気がする。何も好き好んでこのドラゴンはこの場所を選んだ訳ではない。庭師がいなくなって、たまたま世界樹がロード・オブ・ザ・ロードに生えてしまった。そして、この小さなドラゴンはどういう運命か、その世界樹に引き寄せられた。
多くのドラゴンの内、一体どれだけのドラゴンが自分のヤドリギを見つけられるのだろうか。俺には分からない。が、間違いなくこの小さなドラゴンは幸運に与かった一握りのドラゴン、その内の一匹なのだろう。
世界樹を失えば、このドラゴンははぐれドラゴンになってしまう。殴られようが、手を切られようが、痛いとも言わずにただひたすら噛みついて来る。そんな話を聞けば聞くほど俺は、はぐれドラゴンがまるでホラー映画に出て来るゾンビのように思えてならない。この小さなドラゴンが、あのようになってしまうかと思うと正直、いたたまれない。
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