08
徒歩でも、最短の距離を行けば二日ちょいが、迂回して十二日。ロード・オブ・ザ・ロードで馬を走らせたとしたら三日か、四日だが、やはりシーカーに合わせて馬の速度を並足にしなければならない。
どうしても、シーカーと行動しなければならないものなのか。まぁ、伝統なのだろうな。理屈じゃないのかもしれない。もしかして、過去に乗馬が出来ない王族がいたのかも。あるいは、事故があったとか。現に、キース・バージヴァルは落馬している。
シーカーと行動を共にしなければならないってことは、カールの言う通りトラブルは絶対にダメだってことだ。事情はもう分かっている。タイガーの機嫌は損ねない。
大事なのは、距離感だ。グイグイ行ってはダメだし、無視してもダメだ。俺はそう言うのには慣れている。軍にもいたし、民間で営業もした。
その夜の宴会は、ほぼ接待だった。カールもタイガーと終始笑顔で話している。タイガーは上機嫌であった。俺はひとっ所に長居せず、ブルバンやらラッガーを注いで回る。ブルバンとはバーボンで、ラッガーとはビールだ。
食い物も馬に山ほど積んで来た。食べ物が無くなりそうなテーブルには、そのテーブルが好みそうなのを補充した。宴会が終わるまで、命一杯気を使ってやった。考えてみれば、俺が一番若いのだ。動くのは当然。別に苦はなかった。
シーカーの出立は、造形的には中世のバイキングを彷彿させた。頭には角や羽付きの、アーモンドを横半分に切った形の兜。首から下は編み込み式の鎧、その上に外套。手にはウォーハンマーと盾。背中には槍を五、六本背負っていた。
スピヤ、パイク、ランスなどと槍は分類される。彼らが背負っているのはその中でも、一番短いスピヤのさらに短い、ショートスピヤと呼ばれるものなのであろう。穂先から石突きまで全て真っ白であった。
金属製のものは全く付いていない。象牙のような光沢があり、柄から穂先まで全て同じ材質で、石突きには、釣り針のような鉤が付いていて、そこにワイヤーが結ばれ、柄と繋がっていた。
ワイヤーが付いているその感じから、鉤は取り外しが効きそうだ。マグロを船に寄せる時の様に引っ掛けて、釣りをする時のように遠くから獲物を引っ張るのだろう。
ウォーハンマーは、もちろんぶっ叩くためのものだ。ハンマーヘッドは槍と同じく真っ白で、材質的にいえば大理石のようだった。薄っすらとだが、特有のマーブル模様がある。柄は木製であった。
盾はというと、円形で小ぶりだ。といっても、シーカーは体がでかい。俺が持てば大盾の部類になるだろう。ハンマーの柄と同じく、これも木製であるが、中心に青い石が取り付けられていた。
カールの説明によると全て魔具である。魔法を使えない彼らがドラゴンと戦えるのは全てこれらよる。
彼らは、倒したドラゴンの体の一部を素材とし、武器や防具を得ていた。といっても、魔具というからには魔力が必要不可欠である。当然それは、はぐれドラゴンからは得られない。
太古、人類とドラゴンが戦っていた時の代物である。当時、古代兵器もあって多くの魔法のドラゴンを狩ったそうだ。シーカーは各々の家でそれを代々引き継いでいた。
その頃から今も魔力は色あせない。それどころか、親の親の代より親の代、親の代より自分の代と魔具の魔力は増していっている。古ければ古いほど強力になるというわけだ。
シーカーの足取りは早い。相当、鍛えられているのであろう。俺とカールがそれぞれ乗る二頭をシーカーは取り巻いて、ロード・オブ・ザ・ロードを進む。この分だとトータル二日は短縮できるかもしれない。ただし、ルートインを素通りして、野宿する回数を増やすのであれば。
だが、その判断はカールに任せるとしよう。俺としては一日も早く竜王に会いたいところだが、そこで何も得られなかった場合、センターパレスでは大仕事が待っている。
十中八九、俺は難癖付けられて投獄されてしまうのだろう。何しろカールがピンピンして帰って来るんだ。それでも、手がないわけではない。三権分立、裁判を受ける権利は誰しもある。
その時のために、体力を温存しておくのも悪くはない。疲弊しきっていたら頭も働かないだろう。
タイガーと少年は並んで先頭を歩いている。仲睦まじいと言っていいのだろう。愛の形は人それぞれだ。俺の世界では普通に認められている。昨日ジロジロ見たのはそう言うことではない。荒くれ男の中に少年がポツンとうつ向いている。あの時、皆、酔っ払って騒いでいたんだ。その状況に違和感を持たない方がよっぽどどうかしている。
少年だけが、アーモンド形のバイキングヘルムを被っていない。ドラゴンを模したフルフェイスのアーメット兜を被っていた。素材は金属とも皮の類とも言えない。おそらくは、ドラゴンの頭部をそのまま加工して兜にしたのであろう。
タイガーの少年に対する想いはそれを見ても分かる。少年はタイガーに大切にされているのだ。決して、強要されているわけではない。
と、そう思いたいのだが、なぜか引っ掛かる。こういう時の俺の勘は当たるものなのだ。職業病と言っていいのだろう。
一行の足が止まった。石畳の先から一人、斥候に出ていた者が凄い勢いで戻って来る。この先で問題が発生したようだ。
斥候は息を切らしながらタイガーの耳元で一言言った。馬上から聞き取れなかったカールは、何事だと問いただす。
「庭師が死んでいる」
タイガーはそう答えた。庭師と言えば、あのカカシだ。魔法で動いていて、もともと生きてはいない。それが死んでいるとは滑稽な言い回しだが、状態としては動いていないで間違いない。ロボットでいうならバッテリーが上がっている状態。カカシでなら魔力を失ってしまったということになるのだろう。
それが何を示すのか。俺たちは道を進み、やがて庭師の状態を目の当たりにした。斥候の言う通り、動いていない。真新しかった服装はぼろ布になり、一本足の木の棒は折れてしまっている。
道の真ん中に倒れていて、まるで誰かの落とし物のようだった。引き裂かれたとか、攻撃されたか、そういう形跡は全く見当たらない。足が折れているのは朽ちているためだ。思っていた通り、庭師は魔力が切れたのだろう。




