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07


 俺は、タイガーに軽く頭を下げた。タイガーの反応はかんばしくない。いかに世間と隔絶をしていたとしても、悪童キースの噂は耳に入っているのだろう。タイガーは俺をジロジロと見ていた。


 他のシーカーたちも彼と全く同じであった。腕っぷしの強そうな大男たちの視線が俺に集中している。どうしたものか。これは何か気の利いたことを言わないと収まらんな、と俺は思いつつ、端から順に視線を巡らせていた。


 でかいタイガーで邪魔になっていて気付かなかった。部屋の隅で、机に座り、うつむいている男がいる。大男たちの中にいてそいつ一人だけが小ぶりで、眼だけが繰り抜かれているマスクをかぶっていた。


 なんで、マスクなのか。俺の視線が小男に注がれているのにタイガーは気づくと位置をずらし、俺の、その視線を遮った。そして、俺をにらみつける。


 まずい状況だった。どうやら俺は小男をジロジロと見過ぎたようだ。他のシーカーたちの雰囲気も変わっていた。今にも戦いが始まるような緊張感がこの場に漂っていた。


 まじぃいな、と思った。とにかく、挨拶だ。俺は改めて深々と頭を下げた。


「キース・バージヴァルと申します。この度は私のためにご足労をかけ、申し訳なく思っております。また、英雄タイガー殿の直々のお出まし、深く感謝するとともに名誉にも感じております。これからは兄カール同様、可愛がっていただくよう深くお願い申し上げる」


 一応、へりくだった物言いだ。キース・バージヴァルと言う男がこのような言葉を述べられるということを示しておく必要がある。病身で、神経質で、何をしでかすか分からない危ないやつだという、彼らのイメージをちょっとでも払拭しておかなければならない。


 タイガーにしてみても、大事なのはタイガーと俺ではなく、シーカーと王家の関係だ。いかに俺が気に入らなくとも、私心は捨てよう。


 タイガーは右手を差し出した。手の甲を上にも下にもせず、横にしていた。これは握手のポーズだ。俺も右手を差し出した。手は固く結ばれた。


 ほっとしたが、手が痛い。そもそもが、タイガーと俺の手では大人と子供の差ぐらいはある。そのうえ、タイガーは加減を知らない。心なしか、俺の籠手こてもひしゃげているように見える。


「挨拶はそれまでとして、」 カールが割って入って来た。「タイガー。久しぶりに飲もう」


「ああ、そのつもりだ」 タイガーは俺の存在なぞもう忘れたかのようだった。酒が入ったコップをカールに渡そうと手に取った。


「その前に、」


「その前に?」


「我々は部屋に行くとしよう。鎧と荷物を置いてくる。このかっこじゃ、君たちに見劣りするしね」


 シーカーたちは笑った。


 食える物はそのままにして、俺とカールは私物を持って螺旋階段を上がっていった。塔は八層、その一番上が王族の間だった。


 階段を上がっていく最中、カールは小声でつぶやくようにして、俺に話しかけてきた。タイガーのことだ。


「女に見向きもされなかったためか、あいつは男色家だ。おまえが見ていたあの少年。あれはタイガーの愛童だ。どこに行くにもあの少年を連れていく。全く人目をはばからない。二年前のユーア国の時もそうだ。ただ、少年は顔を決して他人には見せない。それには理由があってな、現物はあまりの美しさに誰もが見とれてしまうらしい。だがそれが、やつにとっては許せない。始めは、見とれたやつを誰彼構わず殺していたんだ。が、キリがない。そりゃぁ当然だ。話によれば、女もだなぁ、いや、むしろ女ばかりだったんだろうな。とにかく、大勢殺し過ぎた。それでマスクを被らせた」


 ひそひそ話す話し方もそうだが、これから友人と飲もうというのに、その態度からはタイガーへの親しみをみじんも感じさせない。シーカーたちへの振る舞いは愛想だったのだ。


「本来ならこれを最初に言わなければならなかったのだが、私としてもタイガーがお出ましになるとは夢にも思わなかったのだ。だが、なぜだ。私はそんなにやつに好かれているのか? やつは男色家だからなぁ。だったら好かれるのは私じゃなく、むしろおまえの方じゃないのか。それとも他に理由があるのだろうか。とにかく、もう二度とあのマスク男を見るな。おまえがジロジロ見てた時、ヒヤヒヤしたってもんじゃないぞ」


 社交的といえばそうだが、ちょっと落差が激しすぎやしまいか。シーカーなんて歯牙にもかけていないって口ぶりだ。カールは死を恐れているようでそうではない。王家の伝統を重んじているようで重んじてはいない。弟を愛しているようで愛していない。つくづく分からない男だ。


「鎧を脱ぐ前に見せたいものがある。上に行こう」


 搭の頭頂部からの見晴らしは絶景だった。見渡す限りの自然で、山が連なり、森があり、草原があった。西日に照らされるところは赤く染められ、影になったところは、遠くでは薄墨、近くでは漆黒に塗りつぶされているようだった。空はというと茜色で、大きな太陽が山の端にかかろうとしていた。


「ローラムのヘルナデス山脈周辺の風景だ。美しいだろ? 北北東から南へ連なる山々がヘルナデス山脈、ここから見て尾根の一番高いところが竜王の角。我々の目的地、エトイナ山は北北西の方角だ」


 ヘルナデス山脈の荒々しい稜線とは違い、エトイナ山周辺はなだらかな稜線で、それが西へと流れていた。


「ここからだと二日ちょいの距離だ。だが、我々はほぼ逆の方向、南西へと向かう。ここからエトイナ山だと草原を越え、川を渡らなければならない。草原はキングランズと呼ばれている。文字通り、王も走るって意味だ。川はドラゴンキングズ。エトイナ山は大昔、火山活動で陥没してカルデラ湖が出来た。そこが竜王の住処だ。ドラゴンキングズはそのカルデラ湖を水源としている。因みに川にもはぐれドラゴンがいる。小さな翼があるやつで、蛇のように泳ぐ」


 エトイナ山は西側を除いてほぼ全て、草原キングランズに囲まれていた。


「煙嵐の森から金床の森を進む。森には必ず竜王のジェトリがいる。やつらは結界ではないが、自分の森にオーラを張り巡らせている。ほとんどのはぐれドラゴンはそれを突破出来ないでいる。触れると嫌な感じがするんだろうな。本能に任せて生きているから、体が覚えた違和感に逆らうことが出来ない。突破するだけの胆力は、もちろんない」


 俺たちはキングランズを迂回して、ずっと森を移動する。


「南西に、こことは別のルートインがある。薄っすら見えるだろ。あの方角だ」


 遠く向こう、森の中に塔が立っているのが分かる。小さく、影が薄いが、西日が当たって輪郭だけが赤みがかかって見えていた。


「五つある一つで、ライオンの塔という。ここから二日の距離。さらに南西二日の距離に蝶の塔がある。そこから西南西に一日、三日月と星の塔。そして最後、北西に熊の塔。それ以降は、塔はない。我々は最後の塔から道なりに北上し、全行程でキングランズをぐるっと迂回するかっこでエトイナ山を目指す。ロード・オブ・ザ・ロードの路面はずっと石畳だから馬を走らせることも出来る。が、何があるか分からない。魔法が使えるドラゴンなら出入りは自由だしな。だからやはり、シーカーは旅から外せない。やつらは徒歩だ。馬に乗れない。というわけで、私たちはそれに合わせることになる。馬の並足で、ここから約十二日。往復で二十四日、やつらとは仲良くやっていかなければな、キース」







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