06
庭師か。先人の王族たちはうまいこと名付けたものだ。にしても、庭師のフォルムがなぜカカシなんだ。どちらかというとローラムの竜王が“庭師”という名前の方に、フォルムのデザインを寄せてきたかのように思えるが。
「王太子殿下はローラムの竜王とお会いになられたのですよね。どんなドラゴンなんです?」
「そうか。そういやぁ、一番大事なのにそのことは言ってなかったな。一言で言うとするなら、最古のドラゴンだな。えらく頭のいいドラゴンで、長く生きているのもあって何でも知っている。姿かたちは、敢えて言うまい。楽しみに取っておくんだな。驚くぞ。あれはもはやドラゴンではない」
ローラムの竜王は何でも知っている、かぁ。思ってた通り、朗報だな。もしかして俺は元の鞘に収まることが出来るかもしれない。俺も嬉しいし、カールも喜ぶだろう。本来のキース・バージヴァルが戻って来るのだ。
「ん? どうした? 楽しい事でもあるのか? 竜王がどんな姿をしているのか、は興味がなさそうだがなぁ。もしかしておまえ、他に目的があるな」
わざとらしいというか、痛いところを突いて来る。なんだかんだ言って、俺が何者で、何が目的かをこいつは知りたがっている。「契約以外なにもありません」
「まぁ、あってたとしてもいう訳ないわな。だが、それはその時になったらわかることだ。私も立ち会うし、竜王は案外、おまえの望みをきいてくれるかもしれんぞ」
望み? まさかな。幾らなんでもそこまでは推測出来るわけがない。にしてもカールのやつ、適当なことを言いやがって。それともこれは、俺を詮索するための誘導尋問か。「竜王は私になんか歯牙にもかけません」
「さっき私は、竜王はえらく頭がいいって言ったではないか。頭がいいやつっていうのは自分の理解を越えた存在に惹かれるものだ。人が天から降りてきた時、ローラムの竜王は敵対せずにずっと見守っていたそうだ。罪なき兵団を破壊せず生け捕りにしたり、人の姿を借りて民衆の中に紛れ込んでいたりしてな」
なるほど、そういう訳でカカシなんだ。ローラムの竜王は人を調べ尽くした。
「そういった点でいやぁ、おまえはうってつけだろ? 一旦死んで、別人になって帰って来た。なぜそうなったのか、竜王は必ず興味がそそられるはずだ」
うってつけか。だが、この男、本来のキースに対してはどう思っているんだ? 心配しているのではないのか? これじゃぁ俺が、まるでレア物扱いだ。
「おまえは竜王に可愛がられる。だが、私の場合はそうはいかない。私は罪なき兵団を蘇らせた」
確かに、それを踏まえてアーロン王はカールを介添人に選んだという訳か。ローラムの竜王に直接会わせて裁断してもらおうという腹なんだ。それならば、アーロン王は竜王に責任を果たしたかっこになる。
もし、ローラムの竜王にカールが許されたとしても、俺が毒を盛る。どっちにしろアーロン王は後々の憂いを断てる。よく考えたものだ。
「私の旅はここで終わりかもしれない。キース、おまえには何もしてやれなかったが、それでもちょっと、私は複雑な気分なんだよ。おまえに何かしてやることが、今、ここで、もし出来たとしても、おまえはもはや昔のキースでない」
俺をレア物扱いしたり、キースが居ないのを嘆いたり、一体どっちなんだよ。「まだ終わりだと決まったわけではありません」
「そうか? なら、おまえがローラムの竜王に命乞いしてくれるか? お前の望みなら竜王は聞き届けてくれるやもしれん」
望み? だから望みって言ったのか。キースも心配だが、やはり己が第一だもんな。ヒヤヒヤさせやがる。にしても、カールのやつ。命乞いとは言いつつもなんなんだ、この余裕のある笑顔。助けなぞ要らないってその顔に書いてある。
「はい。王太子殿下の言うような状況になれば、必ずや」
「うれしいことを言ってくれる」 カールは俺の肩に手を置いた。「恩は忘れない。私はそういう男だ」
道の先に塔が姿を現した。石造りの円柱型で、まったく朽ち果てた様子もない。あれも魔法の産物なのだ。
「キース、ルートインだ。ドラゴンの領域にはこういった場所が五か所ある。一つ一つ個別に呼ぶのなら、あれはイーグルの塔だ」
カールと俺は馬を塔に付けた。木々の遮りもなく塔は上まで見渡せた。直径十メートルほどで、とんがり屋根がついていない、頭頂部に上がって周囲を監視できるタイプの塔だった。
上に行くにつれ細くなっていっているのが分かる。随分と高い塔だ、と思うのも遠近法の錯視効果のため。それでも、高さは五十メートルぐらいあろうか。
入口のドアは鉄製で、イーグルの紋章が刻印されていた。カールはそのドアを開けた。
男たちが二十人ほどいた。シーカーたちだ。随分と前からここに来ていたのであろう、酒盛りの最中で全員が酔っ払い、塔の内部は騒々しかった。それが、ピタと止んだ。
全員が立ち上がる中、もっとも大きい男が一人、こっちに進み出てきた。長身のカールがその男の首元までしか届いていない。口の周りはひげボウボウで、頭のてっぺんは薄いのだが、髪は肩まで伸びている。腕や太ももは、もはや丸太だった。
服装というか、防具なのだろう。生地に、色が一個一個違ううろこ状の小さいプレートが編み込まれていた。スパンコールがイメージに近いが、あれは大体単色で統一されている。シーカーのは、まるで蛾の羽の模様のようだった。
鎧の下に着る鎖帷子のように、それを上下とも着こみ、鎧の代わりにその上から黒革の外套を羽織っていた。
「久しぶりだな、タイガー」
「カール、おまえが介添人になるとはな。来ないわけにはいかないだろ」
二年前のユーア国の騒動で、襲ってきたドラゴン三匹を追い払ったのがシーカーで、そのリーダーがタイガーであった。噂によると、タイガーはバラバラであったシーカーらを一つにまとめた。言うなれば、彼はシーカーの王だった。
「たくましくなったな、カール。契約者としてここに初めてやって来た時とは雲泥の差だ」
二人はハグをした。カールはまるでお父さんに愛情を注がれる息子のようだった。相当きつく抱きしめられているようで、カールはもがくようにタイガーの腕から脱出する。そして、俺を紹介した。
「弟のキースだ。いっぱしの男にしてやってくれ」




