05
竜王の門での旅立ちの儀式で、俺は誓った。竜王の領域では全てが竜王のものだ。例え俺の溜息であっても俺の体から離れていったものは竜王の所有物になる。当然、ここでの秘密は持ち帰れない。エンドガーデンで誰にも話すわけにはいかないのだ。
カール・バージヴァルはここにある事実を知りつつ、竜王に対して背信の念を抱いている。よくよく思い返せば、カールは昨晩、ケルンの台座に腰を掛けていた。それは王権の伝統をないがしろにする行為でもある。知らず知らずのうちに思っていることが行為として表れたのではないか。王権に対してだけでない。引いては竜王に対しても。
叔父のイーデン・アンダーソンもそうなのかもしれない。彼らは竜王を畏怖するあまり、竜王らを排除しなければ人類の未来はないと考えている。人が生きるも死ぬも、竜王の考え一つなのだ。
この石畳の道も竜王の力の一端でしかない。どれほどの力を有しているというのか。これから俺は竜王と相まみえる。悪魔のごとく竜王を見るのだろうか。それとも、神のごとく崇め奉るようになってしまうのか。
石畳はルートイン(道の宿屋)という所に向かって行っている。その先はカールにまだ教えられていない。ただ森の中を行くとだけ告げられていた。おそらくはこのような道を進んでいくのだろう。
鳥の鳴き声が聞こえる。猪も親子で芋ほりしていた。立派な角を持った鹿も悠々と闊歩していた。彼らは人なぞ見たこともないのであろう。自然公園でもこうはいくまい。ドラゴンは世界樹に張り付くと何も食べなくなるという。煙嵐の森は人の手つかずの自然豊かな、平和の森だった。
ややもするとドラゴンの領域にいることを忘れてしまう。もし、ルールがちゃんと守れるのであればドラゴンと人は共存出来るのかもしれない。
いや、それは難しいだろうな。人はどうしようもない業を背負って生まれて来ている。世界樹を“やどりぎ”としたドラゴンと違って人は満足というものを知らない。はぐれドラゴンのような存在が、まさしく人なのである。
そんな人にとって、これほど魅力的なところはない。手つかずなのがいい。早い者勝ちなのだ。これは人同士の争いでもある。なにもドラゴンのみが敵だというわけではない。ドラゴンの領域に入れるのはバージヴァルの他に四家もあるのだ。
誰かがそれをやろうとするまでに、やれるチャンスがあれば真っ先にやらなければならない。
戦うだけの価値はある。農地にするのもいいし、もちろん、森林資源は膨大だ。地下資源も期待できるだろう。なにしろ広大な土地なのだ。ダイヤモンドやら石炭やら、どこかに何かは眠っていよう。
新たに手に入った土地は人類の発展にも大きく寄与する。カールはただ単に、怖くて竜王を倒してしまおうと思っているだけじゃないのかもしれない。豊かな土地を目の当たりにしてしまっている。人類の発展、行く末のために戦う。言うなればこれは使命感。
そしてまさに、カールは過去の遺物を引っ張り出してきた。魔法の対抗手段としてはそれしかない。カールが持つ魔法がどれほどのものかは分からない。言えることは、竜王には絶対に適わない。与えられた剣で、下僕が主人に戦いを挑むようなものだ。
だが、その対抗手段も、もう無い。それどころか今のカールには、何も残ってやしない。恋人は父、アーロン王の妃となり、キースはどこの誰やもしれない。母はとうの昔に死んでいる。
不思議な男だ。底知れない。それでもまだカールは戦うことが出来るのだ。考えられるのは一つ。こいつにはまだ奥の手が残されている。
どういう手があるのだろうか。皆目見当がつかない。まぁ、その時になってみれば分かろう。少なくとも、俺はカールを殺さないのだから。
ふと、道の先に影が見えた。木も草もない石畳にポツンと影は立っていた。それが動き出した。真っすぐにこちらに向かって来ている。
ここまで来る途中、猪や鹿やウサギが横切っていくのを何度も見た。道の上をちょろちょろしているリスもいた。カールの言う通り、彼らには俺たちが見えていない。それどころか道の存在にも気付けていないのだろう。
手つかずの自然であった。動物が人に警戒心がなくてもしかるべきだ。それでも、警戒しないまでも好奇心はあってもいいはずだ。だが、通り過ぎる俺たちに見向きもしない。
向かって来る影は立ち止っては進み、立ち止っては進む。さっき動き出したかのように見えたのはそういう歩き方だったからだ。影は道の中心からズレることはない。明らかにロード・オブ・ザ・ロードの通行人だった。
「心配するな。あれは竜王が作り出したこの道の管理人“庭師”だ」
庭師はひげ面の農夫を模したカカシだった。ピョコタン、ピョコタンと一本足で向かってくるのと、俺たちが進むのとで双方がすれ違った。緊張感のない風貌のうえ、滑稽な動きなので通り過ぎてもまだ見ていたかった。俺は、離れて行くカカシをずっと眺めていた。
「気に入ったようだな」
カールは笑っていた。そういや、俺はずっとしかめっ面だったような気がする。自分の表情が緩んでいるのが分かった。庭師はというと、行動パターンを変えていた。立ち止り、道の端に寄って、しゃがんだ。
「なにかやっているようです」
カールは興味が無いようだった。庭師が何をやっているのか確認もせず、言った。
「おおかた、道に世界樹の芽が出ているのだろ。世界樹はドラゴンを引き寄せる。魔法の結界があろうとなかろうと関係なしだ。困ったことにドラゴンがそこに一旦居つくとこの道は台無しだ。だから庭師は休まず巡回し、早めに対処する」
「抜かなきゃ、ならないのですね」
「抜いて、別のところに植え替える。だから、庭師なんだ」
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