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01


「竜王のものは竜王のもとへ かの地は例え墓標に眠る最愛の人の亡骸であっても 例え言葉と言葉を繋ぐ溜め息であっても 

 

 約束の地は腐れ果て 天は裂け 海は燃える 悲鳴も慟哭も 怒号もたけりも取るに足りない 


 有るのは我の言葉のみ 我は復讐の連鎖を断つ者 互いに互いを裏切らない 約束を守る者なり」


 俺はアーロン王の前でひざまずいていた。アーロン王は俺の右肩に剣の腹を置く。騎士の叙任式で行われる刀礼と同じだ。


 といっても、まぁ、俺は騎士になっていない。近衛兵は、誰もがこの刀礼を経て、金色の鎧と赤いマントが与えられる。王国の守護者となったというわけだ。


 俺の場合、与えられるのは刀礼に使った剣だ。柄が白くて鞘も白い。剣を鞘に収めれば真っしろ白。身に着けている鎧も真っ白なら、マントも真っ白だった。


 実用性が低い、どちらかというとこれはパレードアーマーというものだろう。姿かたちがキース・バージヴァルだからこそ似合うが、本来の俺ならこっぱずかしい。ウエディングドレスを着るおっさんと何ら変わらない。


 ともかく、これで俺は王家の一員として正式に認められた。ローラムの竜王と話が出来る権利が与えられたというわけだ。


 アーロン王から剣を手渡された。庭園を埋め尽くした観衆は大喜びだった。王族の繁栄こそ王国の安寧につながる。


 さっき言った誓いの言葉は民衆には聞こえていない。近衛兵らのガードに阻まれて近くには来られない。それどころか執政も他の大臣も遠くで見守るのみであった。


 本来なら王族は王国の守護者でなければならない。金色の連中らはというと明らかに、大聖堂の絵画にあった金色に輝く赤毛の乙女を意識した衣装である。預言によると彼女はドラゴンらを従えるという。


 アーロン王の御前で行った誓いの言葉は、まぁ、王家のみに伝わる言葉ってことになるわなぁ。ローラムの竜王への気の使いようは半端ない。後半の威勢は取ってつけたようなのだ。


 傍に居るのはカール・バージヴァルのみだった。二頭の白い馬の手綱とバージヴァルの紋章が描かれる旗を持っている。


 彼もまた白装束であった。ローラムの竜王は白がお好みのようだ。竜王に媚をうっといて、バージヴァル家はその一方で、金色の乙女で国民の顔色をうかがっている。


 王家の紋章はドラゴンの天敵とも言われるイーグルである。これもまた国民へのアピールなのだろう。ローラムの竜王とアメリア国の王は対等なのだと。


 涙ぐましい努力である。それは認めてあげたい。俺とカールは馬上で人専用の城門へと向かった。


 観衆の声援は鳴りやまない。国を挙げてのお祭り騒ぎだ。急きょ行われた式典なのだから前夜祭はなかったがその分、今夜は盛り上がるのだろう。国中から集まって来た人々で街は一晩中大騒ぎだ。


 王家の門は、竜王の門より八百メートルほど離れている。庭園の端だ。そこも人々で溢れていた。だが、竜王の門より人々との距離は近かった。


 カールが手を振った。観衆が歓喜で応える。カールは、俺にもそれをやれと目配せしてくる。黒髪の、精悍な顔つきの男である。キースとは大違いだ。俺としては、出来ればあっちの方に転移したかった。


 上背もあり、逞しく、骨格も均等が取れている。黒い瞳は威厳や神秘性を感じさせ、目つきに全くトゲがない。優男で病的なキースとは対極だった。


 俺はカールに促される通り、観衆に向かって手を振った。観衆も応えてくれたが、やはりカールの人気には遠く及ばない。まぁ、それも仕方なかろう。


 人専用の、王家の門が開いた。鉄製の扉で外開きだ。厚みが四十メートルある長城を、通路が一本通されていた。高さ五メートル、幅五メートルの空間である。


 両方の壁に、松明が等間隔で灯されていた。向こう側に出られるまで四つの扉を通過する。十メートル置きに設置され、入口の扉を勘定に入れれば五つの門を抜けるということになる。


 扉が鉄製というのがなんとも人専用っぽい。それと門の守衛。鎧に金箔は施されていない。シンプルな板金鎧、いわゆるプレートアーマーを身に着けている。まぁ、まかり間違っても近衛兵は城門の向こう側に行かせられないわなぁ。何しろ、金色の乙女がモデルなのだから。


 最後の鉄の門が開かれた。俺とカールは晴れて竜王の支配地域に入ったというわけだ。カールは旗を片手に平然と馬を進める。


 何も心配がないようだ。カールは、いきなりドラゴンが飛来して襲われるなんて思ってもみないのだろう。警戒心がまるでない。


 俺は軍の士官だったことがある。初めて戦場に出た時の緊張感たるや、震えや嗚咽に絶えず襲われ、頭も働かず、体も思う様に動かせられなかった。


 慣れが必要なのだろう。カールも一度、ドラゴンの領域に入った。そういった体験が彼の緊張感のなさに繋がっているのだろうか。


 あるいは、白装束っていうのに意味があるのかもしれない。白装束は竜王の客人で、襲ってはならないと、ドラゴンらはローラムの竜王に命じられているのではないか。


「キース。こっちに来て、横につけろ。話がある」


 俺はカールの後ろを付いて行っている。言われた通り、進み出て、カールの横に馬を付けた。


「大事な話だ。言うなれば旅の注意事項だな」


「はい」


「まずは竜王の門だな。あれはドラゴンの侵入を阻むものではない。今いるこちら側、ドラゴンの領域に人が入らないようにするためのものだ」


 人を阻むため? そうか、なるほど。長城の建設はドラゴンの方が主体だった。


「ドラゴンの方は別の方法でエンドガーデンへの侵入を阻んでいる。ヘルナデス山脈の二十座以上ある高峰に魔法がかけられていて、そのそれぞれがつながって魔法の壁を形成する。この辺りでいうと北の“竜王の角”と南の“響岳”を結んだ線がドラゴンにとって境界ということになる」








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