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 俺の言葉でカリム・サンは、はっとした。「どうしてそれを」


「正直に言うが、マフィアの連中が教えてくれた。きっと記憶を失う前の俺にもそう言って危険感を煽り、その恐怖心を利用して俺を意のままに操っていたんだろう」


「そういうことだったのですか。ですが、殿下。私の素性を知りつつなぜ、秘密を明かすのです」


「これも正直に言うが、誰も信用できないこの状況で俺は藁をもつかみたい気分なんだ」


 カリム・サンは笑った。「私は藁ですか」


「まぁな。それに逆に、おまえが議会に通じているってのも俺にとっては好都合だった」


「と、申しますと」


「考えてもみろ。これは俺への罠でもあるんだ。カールを殺し、無事帰って来たとしても、俺は捕らわれる。カール殺しの罪を着せられてな」


「殺さなかったとしても、殿下はアーロン王に命を狙われる。秘密を知っているから」


「そういうことだ。カリム・サン、昨日手に入れたあれは大事に保管しているだろうな」


「あれ、ですか? あれが役に立つとは思えないのですが」


 カリム・サンが疑問に思うのは仕方がない。一見、鎧を飾る骨組みのようだ。あるいは、糸でぶら下げて操作する操り人形にも似ている。


 鎧にしては隙があり過ぎるし、使うとしてもせいぜい全身骨折した患者を固定する医療器具程度、とこの世界の者は考えるのかもしれない。


 だが、違う。あれはパワード・エクソスケルトン、別名強化外骨格。俺の世界では本格的な戦闘にはスーツタイプで、民間人が含まれる市街地では外骨格タイプが常識だった。


 強化外骨格はフライホイール蓄電システムを採用していて電気アクチュエータで可動する。フライホイールは磁場からの磁力で動く。地上ならいつでもどこでも動くので、何千年か経った今でも使える可能性は高い。


「いいからあれを誰にも見せるな。俺が欲しいというまでどこかに隠しておけ。カールは殺さない。だから分かったな。絶対に誰にも渡すなよ」






 イザイヤ教はおよそ二千年前に興った。ワイアット・ヤハウェをあがめる一神教で、イザイヤとは“ヤハウェは救済者である”という意味を持つ。


 エンドガーデンの五国の内、アメリア、ユーア、ロージニアの三国において勢力を誇り、ユーアには自治領、自治政府を置いていた。


 この世界は、俺がいた世界の未来だと俺は考える。言葉もさほど変わらないし、イザイヤ教なぞまるでキリスト教だ。政治形態もこの時代にそぐわない立憲君主制で三権分立も意識的にシステム化されている。旧時代の名残りなのだろう。


 だが、地形が違い過ぎる。“矢尻とクローバー”と称する大陸の位置関係。天変地異があったとでもいうのだろうか。


 伝説によると有史前、地上はドラゴンの楽園だった。人類は天から降りて来たとか、かっこよくは言っているが、人類はこの世界に後から来た。


 天変地異があり、人類は宇宙空間に逃げた。そして、戻って来た。ところが地上はドラゴンと魔法の世界である。それを許す人類も人類だが、どんだけ宇宙に漂っていたかって話でもある。


 この世界をパラレルワールドだとしよう。では、なぜ、あのアンドロド“NR2 ヴァルキリー”がいたのか。オーパーツのごとく“ハンプティダンプティ”が地中に埋まっていて、それが発掘されるという滑稽なことがなぜ、起こってしまったのか。


 機械だからか? 俺が見たアンドロイドやロボットは全て量産型だ。パラレルワールドでも、これが量産されていた。あのアンドロイドは、俺が使っていたアンドロイドと酷似していて、記憶が混同していた。


 どうも釈然としない。大聖堂の壁画や天井画はイザイヤ教の教えが描かれている。天から降りて来る人々と“罪なき兵団”。ドラゴンとの大戦。天使と話すワイアット・ヤハウェ。


「お待たせしたようですね」


 大司教、マルコ・ダッラ・キエーザが立っていた。


「いえ、今しがた来たところです」


 俺がそう答えると大司教は手を差し出した。低い位置でなかったことから、咄嗟に、ひざまずかなくっていい、と感じた。俺は立ったまま、大司教の手にキスをした。


 正解だったようで大司教は満足したのか、俺の横に移動して来た。俺が見ていた壁画を一緒に見ようというのだ。俺は、天使と話すワイアット・ヤハウェの壁画の前に立っていた。


「預言のことは聞かれましたか?」


 大司教は、俺が記憶喪失だという情報は当然得ている。王立騎士学校にも足しげく通っているのも知るところだろう。


「預言ですか?」 聞いていない。確かに、宗教には預言は付きものだ。「いいえ」


「そうですか。では、お教えしましょう。預言によるとヤハウェが天に帰ってから二千年後、神の子が人の姿を借りて地上に降り立ち、ドラゴンの王となる」


 大司教は別の壁画の前に移動した。俺もついて行く。


 その壁画は、ひれ伏す多くのドラゴンを前にして剣を高々と掲げる赤毛の乙女が描かれていた。鎧は黄金に輝き、剣は光を放っている。


「殿下、もうその時は迫っているのです。我々はその時のために準備を整えておかなければなりません。王とか議会とか言っている場合ではないのです」


 王都か議会とかぁ? キースが何も知らないこといいことに、何かっこいいことを言ってやがる。マフィアを使って酒やクスリや女に溺れさせ、それでキースは騙せたかもしれないが、俺はそうじゃない。


 にしても、預言だ。にわかには信じられない。夢物語だと言っていい。大聖堂の、どの壁画に描かれているドラゴンも凶悪な姿をしている。魔法も使えるという。それにあの“罪なき兵団”と対等に戦っていたんだ。生身の人間に、しかも、うら若き乙女に、そのドラゴンが従うとはとても思えない。


「信じられないのですね、殿下。ですが、教会こそが、真の学び舎なのです」


 大司教としては、王立騎士学校でこのことを教えていないのが憤慨なのだ。絵画の乙女に釘付けな俺を置いて、歩を進めた。中央礼拝所を上がったところで立ち止まった。


「殿下、どうしたのです? 今日は特別な用事で来られたのでしょう。さぁ、王室礼拝堂の方へ」


 そうだった。俺は侍女、シルヴィア・ロザンの件でここに来た。公式には生き返ったことへの礼ではあった。中央礼拝所を進み、さらに奥の王室礼拝所に入って行く。


 先ずは、生き返った礼を言った。大司教は謙遜し、天の思し召しだと言った。全てが型通りである。


「それで、私に懺悔なさりたいとは?」


 アーロン王からの使いも来たのだろうが、俺はあえて侍従フィル・ロギンズを使いにやった。仮にも聖職者を名乗っているのなら王族の懺悔だと聞いて知らないふりも出来んだろ。大仰に人を集めたりもせず、必ず、内々での話となる。


「私は明日、ローラムの竜王に会いに、西へ旅立ちます。危険な旅になるでしょう。私には神の導きが必要なのです」


「分かります」 大司教は会釈をした。「お始め下さい」


「はい。包み隠さずお話しします。私は数々の罪を犯しました。神への冒涜、いや、反逆です。私はゆるしを得たいのです」


「苦しんでおられたのですね。さぁ、続けなさい。神はゆるされるでしょう」


 マフィアのつながりから侍女に性暴力を振るっていたこと。毎晩、酒やクスリに溺れ、遊女屋に入り浸っていたことを俺は話した。


「明日、旅立つにあたって、侍女のシルヴィア・ロザンを解放したいと思います。それを大司教に認めてもらいたいのです」


「認める? わたしが?」 大司教は、これは懺悔ではないと気付いたようだった。「何を?」


「ですから、シルヴィア・ロザンという侍女の解放です」


 大司教の顔は微笑みを失っていた。やっと察したのであろう、キース・バージヴァルは全てを知っていると。俺はかまわず言葉を続けた。


「大司教の手の者は宮廷に何人も入り込んでいるでのしょ。伝言はその者らに。私はマフィアとは話しません。直接あなたと話がしたいのです」


 この言葉を良しと取ったのか、しと取ったのか。カール・バージヴァルが近々廃嫡されるという噂は耳に入っているはず。俺と直接つながりを持った方が良いに決まっている。しかも、それをこの俺の方から申し出ている。


 俺の言葉は、教会のバックアップが必要だ、とも取れる。大司教としても悪い話ではない。それに、いつまでもムーランルージュって訳にも行くまい。偽の王座はもう必要ないのだし、なにより、これからのキース・バージヴァルにスキャンダルなぞあってはならない。


 予想通り、大司教は俺の提案を飲んだ。その日のうちにシルヴィア・ロザンは解放され、王都センターパレスから旅立って行った。もちろん、それ相応の金品を持ってだ。







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