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06

 ザカリー州デレクはエリノアの実家パターソン家の領地。そういうことなのだ。アメリア東部の海に面した場所とは聞いていた。案外、先を一番見据えているのはエリノアなのかもしれない。


 そのエリノアが俺を目障りだと思っている。俺は主導権争いなんて微塵も考えてないのだが、そっちがそう思うならしかたがない。まぁ、やつの好きなようにやらせるさ。俺は俺の道を進む。


 創造者を探すのなら東の島トウェイか、ガリム湾にある魔法のダンジョン。


 エリノアが手中に入れるトウェイはともかく、ガリム湾はもう既にハロルドが行っている。俺ならガリム湾の建造物に入れるかもしれないとハロルドは言っていた。


 確かに建造物がヴァルファニル鋼ならあり得るかもしれない。俺は竜王の加護持ちだ。ヴァルファニル鋼と同じで魔法陣に触れられる。ローラムの竜王はもしかしてそのために、このスキルを俺に与えたのか。


 この日、チアナ、イスランとの和平がなり、今夜はそれを祝う晩さん会の予定であった。しかし、両国の王太子は二人そろってそれを断った。捕虜になっていた弟たちを一刻でも早く養生させたいという理由だった。会談が終わるや否や帰国して行った。


 いよいよ以って怪しい。何か腹にあるとしか思えない。もしかして、俺たちのエトイナ山行きを妨害するつもりか。彼らもロード・オブ・ザ・ロードが消失してしまったのは知っていよう。


 そのうえで、俺は偽情報をリーマン・バージヴァルに掴ませていた。出まかせにしては、今から思えば上出来だった。


 ローラムの竜王が使いを出し、俺たちをエトイナ山に案内する。当然それはリーバー・ソーンダイクの耳に入り、ローレンス王に伝わっている。


 ローレンス王のきさき、ニーナはロージニアのヴァレリー王太子の妹だ。ロージニアは他にも王女をチアナとイスランにとつがせている。チアナとイスランがその情報を知らないはずがない。


 妨害すればどうなるか。彼らは王族だ。ローラムの竜王をその目で見ている。あの巨体は恐怖の対象でしかないはずだ。間違っても、エトイナ山に行く俺たちを妨害しない。だったらやつらはどうしたいのか。


 晩さん会は予定通りとり行われた。チアナとイスランが欠席してもアメリアとユーアのよしみは変わらない。それに俺はただの客ではない。王女のフィアンセだ。ユーアが国を挙げて祝ってくれると言う。


 貴族や上級市民らは和平がなり、よっぽど安心したのだろう。エンドガーデンに流れる不穏な空気に不安を抱いていた。


 王女が結婚するという話題も彼らを明るくさせた。惜しげもなく美酒や豪華な料理が出される。会話は弾んで、晩さん会は終わりを見せない。


 俺は酔い覚ましと称して、会場を抜け出していた。中庭を臨む回廊を少しばかり歩き、手摺に手を乗せ、体を預ける。


 うたげはいつか終わるものだ。俺は中庭を見るでもなく、ただぼんやりとそんなことを考えていた。


「面白くなさそうね」


 ジャクリーンだ。白いドレスをなびかせ、ひょいっと手摺に腰を掛けた。彼女もまた晩さん会を抜け出していた。


「そう見えるかい」


 晩さん会では笑顔を振りまいていたつもりだった。レオンシオにせがまれた雨男と風太郎の話も結構ウケていたと思う。


「君こそ今日はどんな風の吹き回しだ。晩さん会の類には出ないと聞いたが」


 ジャクリーンは今夜、白いドレスで現れた。思いがけない出来事のうえ、ジャクリーンのあまりにもみちがえた姿なのにその場が騒然とし、楽団もその手を止めた。


 いつも出席しているがごとく平然と会場を進んでいた。皆の視線が集まる中、常に空席となるその席に当たり前のように座る。


 歓声など大声は、晩さん会では厳禁だ。それで誰かがグラスをフォークで叩いた。その音を皮切りに大勢の人々がグラスを叩く。ローレンス王も、ニーナ王妃も、満面の笑みだった。


「あなたには恥をかかせられないと思ってね」


 その言いよう。俺はちょっと笑ってしまった。他の男たちに恥をかかせていた自覚はあったんだ。


「なにがおかしいの」


「いや、気にするな。ただ俺は、君にフラれた男たちに同情しただけさ」


「ふん。意地悪ね」


「お互い様だろ」


 俺たちは顔を見合わせて笑った。まん丸い月が空にあった。風が弱いのか雲がゆっくりと動いていた。


「これからどうなるの、わたしたち」


 ジャクリーンの言うわたしたちとは俺と彼女のことではないと思う。エンドガーデンのことを言っている。俺の答えを待たずしてジャクリーンが続けた。


「あなたも今、それを考えていたんでしょ」


 ジャクリーンは不安なのだ。チアナとイスランが晩さん会を断っているのをジャクリーンは見ている。城門を出て行く彼らの姿もレオンシオと一緒に見送っていたから見てないはずはない。


 俺はジャクリーンの脇に手を掛け、手摺から降ろした。


「エンドガーデンは変わらざるを得ない。君たち王族が人々に道を示すんだ。いがみ合っている暇はない」


「君たち? まるで他人事ね」


 君たちはまずかったか。この場合は俺たちだ。ジャクリーンの顔が妙に近い。怒っているのか、大きな瞳が俺を見つめている。


「でも、いいわ。あなたなら、そういう云い方をしてもおかしくはない」


 何だ。この臭わせぶりな物言いは。


「アレクシス・チャドラーにも、コウ・ユーハン、ウマル・ライスマンたちにも勝ったんでしょ。強いのね」


「ローラムの竜王のおかげさ」


「ごまかしね」 ジャクリーンはうつむいた。「あなただからこそローラムの竜王がその力を与えた」


「何が言いたい」


「聞きたかったんだけど」 再びジャクリーンと目が合う。「あなたの目的はなに」


 疑われてしまっている。晩さん会で調子に乗り過ぎて俺は口を滑らせてしまったか。いや、前後不覚になるほど酒は飲んだりしていない。大丈夫だ。目をそらしてはいけない。平静を保ち、月並みな答えでやり通す。


「君たちと同じエンドガーデの安寧あんねいだ」


「いいえ。うそ。あなたは私たちの知らないことを知っている。全部話してはいない」


「それは買い被りだな。俺はエンドガーデンの笑い者。君も噂で聞いているはずだ」


「ローラムの竜王と話した王族は始祖五人以来、誰もいない」


 声が小さい。誰にも聞かれたくないのか、わざと声を抑えている。流れて来る楽団の音楽のせいでジャクリーンの声がよく聞き取れない。


「とぼけなくてもいいのよ。始祖以来の出来事が今、起こっている。ちょっと考えれば誰でもわかる。ローラムの竜王と何を話したの。教えて。誰にも言わない」


 ローラムの竜王がいなくなるなんて言えっこないし、これからも言うつもりはない。


「話なんかしていないさ。俺はただ一方的に命じられただけだ」


「隠し事は嫌い」


「だが、事実だ」


「わかったわ。だったら言わせてもらうけど、出来るだけ多くの人をエトイナ山に連れて来いってあなたはローラムの竜王に命じられたのよね」


「ああ、そうだ」


「それは女も行っていいってことでしょ」


「ああ、男女の区別はドラゴンにはない」


「あなたは命じられたことに従っている」


「ああ、そう言った」


「なら、わたしもエトイナ山に行く。お父様には言わないでほしい」


「君はローレンス王に黙って行くつもりなのか」


「ええ。第二陣に紛れ込む」


 流石というべきか、ジャクリーン、噂通り。でもってレオンシオの妹、抜かりはないってわけか。


「あなたが道を示せって言ったのよ。わたしもエンドガーデンのために働く。わたしは私のやり方で」


 白いドレス姿からは考えられない。もちろん、止めて止まるような彼女ではない。


「あなたが私たちと違うっていうのは分かっている。あなたはローラムの竜王に命じられて動いていたんじゃない。自分の意志でローラムの竜王のために働いている。でも、それがエンドガーデンのためになるとも思っている」


 察していたんだね。鋭いが、それは違うよ、ジャクリーン。


 俺は俺のために動いているんだ。でも、君の言う通り、引いてはそれがエンドガーデンのためになるとも信じている。


 ジャクリーンの手の平が俺の胸に置かれた。


「危険な旅をするのね。あなたはずっとこの先も」


 そうだ。そして、それを終わらせるために旅をしている。君と一緒にはいられない。


「すまない。君の気持ちも考えないで。俺はアメリアとユーアのことばかり考えていた」


「わたしは、あなたの足手まといにはならない」


 ん? 話がかみ合ってない。戸惑っているとジャクリーンの手が俺の首に絡みついて来た。ジャクリーンが俺を引き寄せる。


「わたしもあなたについていく」


 ジャクリーンの唇が俺の唇に触れた。


「どうか邪魔しないで」


 そう言うとジャクリーンは走って行く。そして、回廊の向こうに姿を消した。





「面白かった!」


「続きが気になる。読みたい!」


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と思ったら


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