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05

 円卓にグラス。それを見た時の王太子らの様子が気にかかる。明らかに顔色が曇っていた。それは和平を望んでいないことを意味する。


 紙っきれだったら破る気満々だった。それぞれの王が直ぐに合意したことも引っ掛かる。ある意味、正当性は彼らにあるんだ。始祖たちが決めたことはエンドガーデンの分割統治だけではない。魔法を独占すると決めたのも彼らなのだ。


 会談の出席を命じられた王太子たちは余計納得しきれなかっただろう。反故ほごするつもりだった和平を始祖の名に誓ってしまったんだ。もしかして、火に油を注ぐかっこになったのかもしれない。


 だが、しかし、戦いを再開するとして、チアナとイスランはこの先をどう考えているのであろうか。ローラムの竜王はいつかいなくなる。少なくとも力が弱まっていることはロード・オブ・ザ・ロードの消失で王族なら誰しも理解しているはずだ。


 現状ローラムの竜王との契約はままならない。契約が出来なければドラゴン語が使えない。チアナ、イスランだけでなくそれはアメリアやユーアにも言える。遅かれ早かれエンドガーデンは魔法を失うこととなる。


 五国はどうやって人類の領域を守っていくのか。一時的に魔法が使える者が多くなったとしてもそれはやはり付け焼刃としか言いようがない。シーカーのようにドラゴンと共生していくのか。あるいは、ヴァルファニル鋼。


 エンドガーデン五国の内、ロージニアの動きも気にかかる。エゴール王は七十八歳と高齢であるらしい。国を取り仕切っているのは息子のヴァレリー王太子だ。彼は中立を保っていた。


 ただし、エゴール王の娘たち、言い換えればヴァレリーの妹たちはそれぞれチアナ、イスラン、そしてユーアに王妃としてとついでいる。形勢がいい方に味方するという安直な考えなのか。


 エンドガーデンの情報は全て掌握しょうあくしているはずだ。ローレンス王の王妃ニーナは当然リーバー王太子の母であり、レオンシオの母であり、ジャクリーンの母でもある。そして、リーバーはというとアメリアにいる。


 俺はローラムの竜王との約束により、エトイナ山に人々を向かわせる。そうすることによって俺も元の世界に帰れる糸口を得られるはずだった。核心には迫れなかったが、確かに多くの情報を得ることが出来た。


 創造者。そいつが何もかも裏で糸を引いている。おそらくは俺を召喚したのもそいつだろう。俺を元の世界に戻させるのは当然のこととして、出来れば一発そいつの顔面にこぶしをぶち込みたいところだ。


 ローラムの竜王から請け負った仕事はもう最後の仕上げとなる。終えれば俺に用がない。この辺が潮時かもしれない。人類はいつか魔法を使えなくなる。もしかして、それに替わるのがヴァルファニル鋼なのかもしれない。


 数日前、思わぬことに、ヴァルファニル鋼について興味深い話を聞けた。リーマン・バージヴァルのおかげだ。


 晩さん会の後、俺はリーマンからバリー・レイズの情報を引き出そうとした。リーマンは気に障ったのか刺々しく、おたくのハロルドに聞けば、的な口ぶりだった。


 まぁ、俺の言い方も悪かったしな。周りっくどくて要を掴めない。変な風に誤解されたようだった。当人とすれば俺に嫌味を言っただけのことであったろうが、その意見もありかな、と俺は思っていた。


 連日の強行軍のうえ、その日は雨で疲れがピークに達していた。皆、酔いの回りも早いようで、フィルなぞはウトウトしていた。


 俺は以前、嘘つき勇者のなんちゃらって物語で恥ずかしい想いをした。あの話をフィルの前でするには気が引けていたんだが、その日はみんな疲れ切っていて丁度良かった。誰も突っ込む元気もなかろうと俺は嘘つき勇者のなんちゃらって物語を信じていないていで話を切り出した。


「おい、皆。噓つき勇者に出て来るヴァルファニル鋼って信じるか」


 イーデンに反応はない。元王族だからな。知っているが、答えるに値しないって感じだった。カリム・サンはというと、あ、あれね、ファンタジーだなと歯牙にもかけない。アビィとジーンは、何の話? と目を輝かせている。


 しかし、ハロルドは違った。それ、そうなんですよ、とコップを握ったその手で俺を指さした。


「殿下もそう思ったんですね。わたしも、もしやとは思ってました」


 この反応! もしかして、もしかするかも。だが、フィルの一件もある。あくまでも酒の席の話題造りだ。俺は適当に言った風をつらぬいた。


「なにがだ」


「なにがって。『噓つき勇者のアイザック』には元ネタがある」


 嘘つきなんちゃらはついこの間、フィルに聞いたばっかりだ。もちろん、元ネタなんて知る由もない。


「いいや。知らんが」


「そうなんですか? わたしはてっきり」


 ハロルドは口ごもった。言おうか言うまいか迷っている。事は架空の存在、ヴァルファニル鋼だ。信じてもらえるか心配なのだ。俺は酒の入ったコップを置いた。


「笑いはしない」 ハロルドは明らかに何か考えがある。「聞かせてくれ」


 ハロルドは他のメンバーを見渡した。誰もが真顔でハロルドの話を待っている。ハロルドはグイっと酒を飲み干した。


「私が話したいのは、ヴァルファニル鋼というよりはバリー・レイズのアーマーの正体。あと、パターソン家のことも」


 なんと! ハロルド! ヴァルファニル鋼と聞いてそれを言うか。いよいよもって聞かねばならん。


「聞きたい。話してくれ」


 ハロルドは大きくうなずいた。


「ガリム湾のダンジョンの話は以前しましたよね。入口は大きな四角錐の建造物にあると。しかし、入口は見つけられなかった」


 ガリム湾のダンジョン? そういやぁハロルドはガリム湾に行ったと言っていた。


「ずっと頭に引っ掛かっていたことですがね、バリー・レイズのアーマーの素材は建造物の壁面に酷似している」


 建物の材質は確か、黒く、ガラスのようでもあり、金属のようでもあると言っていた。ハロルドは実際それをその手で触り、バリー・レイズのこともその目で見ている。


「面白い話ではあるが、それがどうヴァルファニル鋼と関係する。おまえは確か、ダンジョンの材質は不明だと言っていたはずだが」


「はい。シーカーの古い伝承で素材は何も語られていない。中が迷宮になっているってだけ。わたしはサンプルを取るために壁を削ってみた。が、傷一つ付かない。仲間のシーカーが魔具フェンリルでぶっ叩いた。それでも壁はピクリともしなかった」


 フェンリルとは竜王のジェトリ峻険しゅんけん公の背骨を素材にしたウォーハンマーだ。地を揺らす者という意味があり、魔具の効果は会心の一撃だった。


「その素材が何なのか、わたしには知る必要があった。なぜならば四角錐の建造物にあるはずの入口がなかったから。わたしはどうしても中を見てみたかった。苦労してあそこまで行ったんですよ、わたしたちは」


 大変な旅だったに違いない。話しやすくするために俺は同情する意味でうなずいてやった。


「帰ってから血眼になって文献をあさりましたよ。だが、全ては徒労に終わった。今、殿下が言ったヴァルファニル鋼という言葉。わたしもずっと考えていましたよ。物語でアイザックはドラゴンと取っ組み合いの力比べをした。もちろんそれは空想上で現実ではない。けれども魔具をも寄せ付けない素材というならば、数多あまたの書物の中でそれしかもう思い浮かばない。わたしは『嘘つき勇者のアイザック』を徹底的に調べ上げました。作者不明のその手の話には大抵何かが隠されている。実際そうやってわたしは王都の古代遺跡を見付けましたから」


「それがおまえのいう元ネタってわけだな」


「そうです。エンドガーデンの東に幾つもの島がある。それらはローラムの竜王との約束の地ではないがゆえに、世界樹が自生していて、もちろんドラゴンも生息している。人が住める環境ではない。だが、ある島には村があり、町があり、国家がある。トウェイって国です。ドラゴンとの戦いの末に出来たらしい。彼らが使う武器は鉄ではありません。ヴァルファニル鋼。全くもって夢の素材。そして、そのヴァルファニル鋼はトウェイでしか採れない。もちろん、製錬できるのも彼らだけ。これはとある海岸に住む者たちの伝承。冬の晴れた日にしか見えない島を昔の人々が眺め、そう想像したと言われている。それが『噓つき勇者のアイザック』の元ネタです」


 ガリム湾のダンジョンとバリー・レイズ、そして東の島の伝承がヴァルファニル鋼で繋がった。だが、疑問も残る。


 バリー・レイズが魔法陣を切ったことはまだハロルドには言っていない。それをハロルドにも話した。


「間違いない。魔具が通じなかった。バリー・レイズの剣もガリム湾の建造物も同じ素材。ヴァルファニル鋼だった。だが、まさか本当にガリム湾のダンジョンとアメリア東岸の島が繋がっていたとは」


 ハロルドの口調は自分に語り掛けるようだった。長年抱いていた仮説に答えが出て満足しているのだ。


「ハロルド!」 嬉しいのは分かった。「だが、そのトウェイってぇのは実在しているのか? 実在していなければ『嘘つき勇者』がその伝承に変わっただけ。話は再び元に戻る。ヴァルファニル鋼の実在が証明されたわけでない」


「はい。あくまでも伝承は伝承です。海を渡って、しかも、ドラゴンがいる島なんて誰もわざわざ行くはずもなく、真偽のほどは確かめようもない。しかし、わたしが問題にしているのはそこじゃぁない。伝承そのものでなく、伝承があるその土地の方なのです」


「ハロルド! その土地とは」


 ハロルドは俺の目を見、空になったコップを置いた。


「ザカリー州デレク」






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― 新着の感想 ―
[良い点]  子どもに親しまれる物語、『噓つき勇者のアイザック』には元ネタがある! いいですね、かっこいいですね! こういうの好きです(*´∀`)
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