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04

 宮殿の名はライオン宮という。高さもまちまちな四角い建造物が複雑に折り重なっているようだった。


 何代にもわたって増設されていったのだろう。他にも太くて低い四角塔や遠くまで見渡せるような細くて高い四角塔もある。


 壁は全て石造りで、屋根は赤茶けた粘土瓦である。門までの両サイドは高い建物が続き、その先で四角い建物が正面に立ちはだかる。そこに門があり、それは開かれていた。扉の先はまるでトンネルのようで四角い建物の奥へ奥へと向かっている。


 門の扉が閉じられれば三方が石の壁に囲まれるかっこだ。門を突破したとしても長いトンネルとなる。宮殿とは名ばかりで、まるで城である。


 この世界では、王国同士のいさかいは歴史上まれだそうだ。だったらユーアの王族は何に備えているというのか。おそらくは民衆だろう。


 宮殿から見下ろすと竜の門に張り付いた住居群。それが何代にもわたって徐々に高くなる。


 宮殿もおそらくはそれに合わせて増設されていった。ユーアの王族は民衆に対して潜在的に恐怖を抱いている。だからレオンシオのような男がユーアにはいるし、王女であっても剣を持つことが許される。


 レオンシオを先頭に俺たちは門を潜り、トンネルを抜けた。ローレンス王のもと、チアナ、イスランとの会談の場に向かうのである。


 幾つもの中庭を見、幾つものトンネルのような回廊を進むと大きな庭に出た。日当たりの加減と長城の見え具合から、南の斜面に吐出したくるわなのではないだろうか。その突端に大木が一本あり、他は何もない庭だった。


 特別な空気を感じる。この雰囲気はどこから来るか。見渡すと大木の後ろ以外の三方は建物で遮られている。しかも、その壁には窓がない。


 閉ざされた空間。王族が儀式に使う庭なのだろう。大木の前に簡易の玉座が設置されていた。


 庭の真ん中に小さな円卓があり、ワイングラスのようなコップが一つ。赤い液体が入っていて、円卓には椅子がない。


 三方の壁を背に椅子が三つあった。レオンシオがその一つに俺たち七人を案内した。おそらくは大木の前の玉座にローレンス王、残りの二つにはチアナとイスランがつくのであろう。俺は案内された席につき、皆が現れるのを待つ。


 しかし、見れば見るほど味のある立派な木だ。シーカーの里にはシンボルツリーが必ずある。それと同じようなものなのだろう。もちろん世界樹ではない。気候から考えると針葉樹だろうが杉や松のような葉の形が針形ではない。少し幅のある線形と言われるものだ。おそらくはイチイの類。


 太い幹に縦線で幾つもの模様が刻み込まれている。枝が幹に根を伸ばしているからだろう。イチイは幹が腐っても枝は生きており、その枝が幹に根を張るという。


 樹形が円蓋えんがい形なので一見、クスノキの類に見誤る。実際は長い時を経て、幾つもの枝が弱った幹に根を張った。幹は太くうねっている。円錐型のイチイが重なり合ってこんもりとしたドーム状の樹形となった。


 一体どれぐらいの時を経ればあのようになるのだろう。イチイは成長が遅いと聞く。


 ローレンス王が現れた。近衛兵を十人ほど引き連れ大木へと向かう。その後にチアナとイスランが続いた。それぞれ十名ほどである。


 俺は腰を上げた。もちろん、各王国に敬意を示すためである。ローレンス王は玉座の前に立つとチアナ、イスランが所定の場所に案内されるのを待った。その双方がそれぞれ用意された椅子の横に付くとローレンス王は腰を下ろす。それに合わせて俺たち三人も席に着く。


 ローレンス王はブロンドの髪に口髭と顎鬚を生やしていた。年齢は六十前後だろう。頭髪の白髪は目立たないものの口髭と顎鬚には白髪が混ざっていた。


 アーロン王のように着飾っていなかった。ただ、プールポワンの襟は異常に高かった。赤色の生地にライオンをデザインした金糸の刺繍が施されている。首の地肌は白いひだ付きの肌着によって隠されていた。もちろん頭には飾り環状の王冠があり、これにも二匹の獅子がデザインされている。


 剣も携えていた。魔法が使えるから剣はあまり意味をなさない。古くからの伝統なのはうかがい知れる。


 堂々としている。玉座のひじつきに肘を乗せ、足を組んでいる。レオンシオに目配せをした。庭の端に控えていたレオンシオはそれに答えて捕虜二人の手錠とマスクを外す。雨男と風太郎はそれぞれの陣営に歩いて行った。


 あれだけの強行軍である。乗り心地を度外視した丈夫が取り柄の乗合馬車だ。よっぽど揺れたのだろう。それにあのマスクだ。経験あるが、肉類など飯も十分食えず、呼吸もしにくくて体力が削られていく。足をふらつかせ、二人はそれぞれの代表の前にやっと到達した。


 椅子に座る男の前でひざまずいた。頭を下げると二人とも手をついて崩れた。それぞれの陣営に抱きかかえられ、あるいは肩を借りて後ろに下がった。


「では、始めるとしよう」


 ローレンス王はそう言うと円卓の前に歩み寄る。チアナとイスランの代表も席を立ち、円卓に進む。俺も二人に続き、円卓に向かった。


 条約にサインするわけではなさそうだ。円卓にはグラスとワインらしき飲物があるだけ。これでどうやって合意がなされたことを証明する。神にでも誓うというのか。同じ神を信仰しているわけでもあるまいし。


 俺たち四人は円卓を囲んだ。目が合った方の男が言った。


「スイード・ライスマンだ」


 イスランの王太子だ。もみ上げから顎のラインに沿って髭がある。


「コウ・フェイロンと申す」


 長髪を後ろで結っていた。チアナの王太子である。俺も名乗った。


「キース・バージヴァルだ」


 王太子二人とも三十半ばくらいから四十歳ぐらい。口を固く結んでいたが、俺に何かもの申したそうである。戦いが終結することをまだ割り切れてない。俺たちにわだかまりがあるとみえる。


 ローレンス王は、俺たち三人が何も語らないと見るや腰から短刀を抜いた。柄に宝石や装飾がなされた短剣である。それを円卓の上に置いた。儀式を始めるというのだ。


 イスランの王太子がその短剣を手にした。そして、己の親指に傷を入れた。その血をグラスに落とす。


 チアナの王太子も同じようにし、手に傷を入れた短剣を俺に手渡した。


 俺も二人にならった。グラスに血を落とす。ローレンス王はそれを見届けると言った。


「始祖が行いし血の盟約。その故事をならい、講和の誓いとする。いかがか」


 そういうことか。先祖の名に誓うってわけだ。王族を名乗るなら初代王の名を辱めるわけにはいかない。二人はうなずいた。もちろん、俺もだ。


 先ずグラスを取ったのはイスランの王太子だった。


「我ら血を分けた家族」 グラスの三分の一ほど飲んだ。「ムザッファル・ライスマンの名に懸けて」


 次にチアナの王太子だ。置かれたグラスを手にした。


「我ら血を分けた家族」 グラスに残った半分を飲んだ。「コウ・ハオティエンの名に懸けて」


 最後に俺だ。


「我ら血を分けた家族」 グラスを飲み干した。「サディアス・バージヴァルの名に懸けて」


 空になったグラスを円卓に置いた。円卓に一つのグラス。こうやって二千年前エンドガーデンが五つに分割された。


 和平にはうってつけだな。なるほどローレンス王も考えたものだ。条約なんて紙っきれだ。チアナ、イスランの王太子たちは庭に入った時の様子から、ローレンス王がこうすることを察していた。


 ローレンス王は満足したようだった。二千年の時を経て三国は改めて血の盟約を結んだのだ。


「誓いは立てられた。各々方、始祖の名を汚すことなかれ」





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