07
ライオン宮に角笛が響き渡った。俺たち七人とレオンシオはその音が鳴る方、最も高い四角塔を見上げた。
「おいでなさった」
そう言ったのはハロルドだ。俺たちは低い方の四角塔でアメリア軍の到来を待っていた。
角笛が何度も吹かれている。だが、アメリア軍の姿は俺たちからまだ見えていなかった。レオンシオが言った。
「シーカーも現れたようだな」
大地に人が湧くように四方八方から軽装備の戦士たちが姿を現した。馬に乗った三、四人のグループがあちらこちらで草原を進んでいる。アビィとジーンと同じく在地のシーカーたちである。エンドガーデン全土から集まって来たのだ。彼らは教会のある街へと向かっていた。
教会の鐘も鳴り響いた。何度も打ち鳴らされ、角笛と相まって山々にこだまする。
俺たちにもアメリア軍が目視できた。無数の旗をなびかせ馬を走らせている。総勢約二百騎。第十陣までエトイナ山に向かわせる軍編成である。アメリア軍は街道の辻を直進した。ライオン宮の前を横切り、そのまま結集場所の教会へと向かうのである。
俺は違和感を覚えた。先頭を行く騎士の両サイドが大司教マルコ・ダッラ・キエーザとバリー・レイズなのである。キエーザはともかく、バリー・レイズが出張るとなったら指揮官は誰か。
もちろん、ブライアン王ではない。体格が違い過ぎる。考え得るはエリノア。やつはブライアン王の後見人の地位をリーバー・ソーンダイクに譲り、魔法省設立のみに携わった。派遣団のメンバーも全部身内で固めている。
顧みれば、全てがここに来るための策謀だったように思える。やつにとって魔法はどうしても必要だった。だが、王族だけしか得られない魔法をどうしても手に入れたかったなんて陳腐なことは言うまい。元恋人のカール・バージヴァルはローラムの竜王に宣戦布告しようとしていた。
エリノアは金色のプレートアーマーに身を包んでいた。颯爽と馬を駆るやつを見ていると、してやられた感はいなめない。やつのために俺は働いていたわけではない。だが、俺のやった事はことごとくやつのためになっている。
東の方角からイザイヤ教団の騎士も姿を現した。総勢百。率いているのはローレンス王の三男フェリクスだ。教団はユーア国内に自治を認められていて、王家の人間が近衛兵団の団長になることが古くからの習わしだった。イーデンが言った。
「殿下、そろそろ我々も」
うむと返事をし、塔を後にした。
階段を駆け下り、中庭を横切り、回廊を走る。馬屋のある郭にやってきた。すでに騎士二百が待機していて、出陣を待ちきれない様子で浮足立っている。
俺が馬に跨るとレオンシオが俺の足元についた。
「キース殿、マリユスをお頼み申す」
マリユスとはローレンス王の末の子息でレオンシオの末弟である。十八歳になろうかという、ローラムの竜王との契約をひかえていた青年である。彼の名誉のためにローレンス王は彼を派遣団団長に指名した。
「ああ、任せてもらいたい」
マリユスはマントの襟が毛皮で装飾されていた。俺の言葉を聞いて安心したのかレオンシオは混雑する馬の間を縫ってマリユスへと向かった。俺は骸骨のアーメットヘルムを被った。
この中にジャクリーンがいる。俺はユーアの騎士らを見渡した。狭い馬屋郭は騎士で溢れかえっていた。しかも、マリユス以外は皆、黒一色のプレートアーマーである。俺はジャクリーンを見つけられなかった。
レオンシオはマリユスの馬の横につくと何か声を掛けていた。おそらくは勇気付ける言葉を与えたのだろう。マリユスはレオンシオの言葉を聞いてうなずくと剣を抜いた。皆に向かって出陣の号令をかける。そして、踵を返すと馬を走らせた。続々と騎士らがその後に続く。
宮殿の回廊はトンネルのようで、俺たちは列を作ってそこを進む。やがて門を抜け、丘を駆け降りる。
アメリア軍はもう市街地に入っているようだった。イザイヤの騎士団もそれを追うように馬を走らせる。
シーカーはというと、まとまりを見せず、それぞれグループを作って教会を目指している。重装備のアメリア軍が来ると道の端に蹴散らされ、続くイザイヤ騎士団に至っては道に存在することも許されない。街の入口付近で身動きできない状態にあった。
そこに俺たちユーア軍二百が向かう。シーカーらは俺たちの姿を見るとなぜか下馬した。そして、俺が通ると膝まずく。シーカーは最も多い五百人だ。それが俺を、我が王のように讃えている。壮観だったが、俺はそういうのには慣れていない。
大手道を教会に向けて馬を走らせる。後ろに置いて来たシーカーらも追って来ている。道はなかなかの勾配であり、部分的に階段のところもあった。
花びらが舞っていた。石畳の上も花びらでいっぱいである。時折歓声も聞こえた。多くの住民らが俺たちのエトイナ山行きを祝福していた。
やがて舞う花びらと道の向こうに教会の屋根が見えた。近付くほどにその姿があらわになっていく。まさに天を衝くようである。先行する騎士団は坂の向こうに消えていった。そこは広場であり、結集場所でもあった。
広場は、先に到着したアメリア軍とイザイヤ騎士団で半分以上埋まっていた。教会までの広い階段の上、教会の大扉の前には教会関係者と共にエリノアらがもうすでに陣取っている。エリノアらは俺たちの到着をそこから見下ろしていた。
マリユスが階段に向けて馬を進めた。毛皮の襟付きのマントが目印となって、道が開かれる。俺たちも後に続く。下馬せずにそのまま階段を駆け上がった。
広場には続々とシーカーも加わり、その数は千に膨れ上がった。この国一番の広場は馬と人で芋を洗うようである。
エリノアは階段の上、その中央で扉を背にして空を見上げていた。両隣には大司教キエーザとバリー・レイズ。キエーザの向こう隣りは教団の騎士でローレンス王の三男フェリクス。バリー・レイズ側はマリユス、俺、そしてイーデンらと並んだ。
雲の切れ間から光が差した。エリノアはそれを待っていたかのようにアーメットヘルムを脱ぐ。髪がさらりと兜からこぼれ落ちる。日差しを浴びプラチナブロンドが赤っぽく見えた。エリノアの髪はプラチナブロンドではなかったのだ。
「おおお、これは、なんと!」 大司教キエーザが二歩三歩、後ずさった。「王太后陛下は予言にあった赤毛の乙女」
そして、階段の下の芋を洗うような広場に向けて言い放った。
「皆の者! 頭が高い! ここにおわすは赤毛の乙女なるぞ!」
大司教キエーザは階段を二段、三段と降りた。そして、深々と頭を下げる。バリー・レイズはもとより、フェリクスもマリユスも階段を降り、頭を下げる。広場の騎士たちも次々に下馬して膝まずいていく。俺も膝まずくしかなかった。
俺が膝まずく姿を見たからか、シーカーらも下馬して膝をつき、頭を下げた。
エリノアの髪はストロベリーブロンドだった。日の当たるところでエリノアを見たことが無かった。あるいは、わざと隠していたのかもしれない。金色のプレートアーマーが光の反射で輝く。エリノアが剣を抜いた。
「これよりエトイナ山に向かう。よいか、方々。エンドガーデンの、人類の未来は我らの手にかかっている」
皆、立ち上がって剣を抜いた。高々と剣を掲げ、歓声を上げる。
俺が教会で見た画。ひれ伏す多くのドラゴンを前にして剣を高々と掲げる赤毛の乙女。その鎧は黄金に輝き、剣は光を放っている。まさにその光景に酷似していた。だが、これは茶番である。
エリノアは乙女ではない。未亡人の子持ちだ。なにより、俺は本当の赤毛の乙女を知っている。
異世界恋愛の短編を投稿しました。『悪役令嬢の愛は永遠に不滅ですの。』というタイトルです。こちらは女性語りのコメディータッチ作品となっております。
もしよかったらそちらもご一読よろしくお願い致します。




