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 魔法書は少なくとも、シーカーの里の主レベルでは分からない魔法が書いてある。ヤールングローヴィが言っていた。


 俺を元の世界に戻すのがローラムの竜王でも不可能だというのなら、その上の魔力を持つ者を探す他あるまい、思い当たるのは創造者だと。おそらくはその創造者が俺をこの世界に招いた。


 創造者はローラムの竜王が生まれた時にこの世界から姿を消したという。ドラゴンの間で囁かれる都市伝説みたいなものだ。


 もしも、ローラムの竜王がこの魔法書に書かれている魔法を知らなかったとしよう。もちろん魔法書の存在も知らない。人類と不戦の契約を結んだ時、ローラムの竜王は人類に住む場所を提供し、ドラゴン語を与えた。


 もしかして、魔法は与えていなかったのかもしれない。ドラゴン語は友好の印。あるいは、共生を目的に言語の壁を取っ払おうとしていたのか。


 魔法は共生する中で人類にじわじわと浸透していくのがドラゴンらにとって最良なのではないだろうか。ローラムの竜王のあの感じからしてエトイナ山に登るのは王族に限定しているって訳ではなさそうだ。


 限定しているのは人間側じぁないか。現にローラムの竜王はエンドガーデンの多くの人にドラゴン語を与えようとしている。始めっからそのつもりだった。


 竜王の門は文字通り門であり、なぜ門の形をしているのかもそうだ。あの扉からなら結界は関係なくドラゴンの出入りが出来るってことだろ。だが、過去一度も開かれたことがない。


 ローラムの竜王ではなく、誰かが魔法を与えた。横槍を入れている。どうもそいつは自分のいいように世界をコントロールしたがっている。俺たちはそいつの手の平で転がされているんだ。


 俺たちはブライアン王の命によりコウ・ユーハンとウマル・ライスマンを護送し、ユーア国の竜の門へ向かっている。


 ヘルナデス山脈沿いに約八百七十キロ南下することになる。アメリアの竜王の門とユーアの竜の門は繋がった長城の一部だが、その長城の上を行くことも可能だ。ただし、ヘルナデス山脈の尾根沿いに長城が建てられていることもあって場所によっては起伏とカーブが激しく、捕虜の護送には適していない。


 因みに長城の門はどれも同じ形状をしているが、アメリアの扉が群を抜いて巨大で、それを指す場合のみ竜王の門という。他は竜の門である。


 俺たちは整備された幹線道路を行く。近衛騎士団精鋭五十と馬車二両、そしてイーデンら六人。ソーンダイクの騎士一人がユーアの旗を持って同行している。


 馬車は捕虜の護送用で、一両は空で誰も乗っておらず陽動のためのダミーと部品交換のためのスペアとして使われる。重装備にはせずスピード重視で十八頭立て。捕虜が王族だといえども関係なく、街で使われる乗り合いタイプを補強した。


 幹線道路だから道のコンディションもいい。何かあったら馬車を止めて騎兵で守るのではなく、突っ走って逃げてしまおうって考えだ。魔法が使える相手に剣も槍もあったもんじゃない。


 俺たちの移動は今のところ順調だった。国境ではユーアの近衛騎士団と合流することになっている。アメリアの竜王の門から四百五十キロほどの地点、国境の町ブノワトだ。合流まで六日間を予定していて、そのブノワトとはもう目と鼻の先であった。


 竜王の門を離れる時にはブライアン直々のお見送りがあった。当然、俺は髑髏のアーメットヘルムに髑髏のマントだ。ブライアンがご満悦だったのはもちろんだが、カリム・サンは引いていた。


 仲間に初お披露目の時、そのかっこでユーアに行くつもりなのですかってやつにかれてしまった。俺の趣味かと思っていたようだ。陛下の趣味だ、コンセプトがちゃんとあって死神だ、と言うと黙ってしまった。


 このアーメットヘルムとマントの効果はあるようなないような、全く何も起こる気配がない。まぁ実際は、ユーアのローレンス王がチアナ、イスランと上手くやってくれているのだろうなと思う。


 チアナ、イスランにしても王族をもう失いたくないはずだ。浮世離れした爺さんを戦場に出そうとしたアメリアもそうだけど、どの国もたまは限られている。


 こっちには魔法が使える人間が二人もいるんだ。しかも、連中はその俺たちに敗北している。詳しい情報は漏れていないはずだ。どうやって負けたかが分からない相手にそうそう王族は出せない。


 それに黙っていても王族二人は帰って来るんだ。無理はするまい。様子見ってところだ。


 今夜は野営するつもりだ。馬を酷使すれば国境の合流点ブノワトに日暮れ前までには入れるだろう。だが、ブノワトに入る前に小休止する。ユーアに入れば俺たちに自由はない。俺にはやらなければならないことがあった。


 西には幾つもの山が連なり合っていた。ヘルナデス山脈のアンバー連峰だという。その最高峰が響岳であり、屏風を立てるように山々が西の空をふさいでいた。


 俺たちの進む道は緩やかな起伏の高地ではあるが、やはり標高が高いだけあってか草原が広がり、木々はというと森というか小さな塊でしかなく、所々に点在するぐらいだった。


 イーデンの魔法を解いてやらないといけない。イーデンも秘密は誰にも知られたくなかろう。草原の真ん中では具合が悪い。俺は打って付けの森を見つけた。だだっぴろい草原の向こうにぽっかりと森が浮かんでいる。






 野営は天幕を張るでもなく、ただ火を起こすのみである。要らぬものは持って来なかった。高地は日中と夜の温度差が激しい。ブライアンに貰ったマントが役に立っている。


 物見以外、騎士たちが火の回りに腰を落ち着いたのを見計らい、俺はイーデンとカリム・サンを呼んだ。まだ、日は暮れていない。これまで敵の動きは全くなかったが、よもやってこともある。明るいうちにイーデンの魔法と解こうと思う。


 俺は先ず二人に、あの森が気にかかる、と主張した。カリム・サンにその理由を問われると、ただ単に勘だと答えた。さらには、確認に行くがイーデンは付いてくるようと指示し、カリム・サンには騎士団の指揮を任せた。


 カリム・サンも馬鹿ではない。俺が偵察に行きたがるのは重々承知している。やつとはそこそこ付き合いが長い。だが、イーデンに関していえばそれでは通らない。


 クレシオンの戦いでも分かるようにイーデンは守りの要だ。確認は誰でもできるっていうことはいておくとして、野営を指揮するというならイーデン以外ない。


 カリム・サンがガチャガチャ五月蠅いので、今回ばかりは黙れとピシャリと言った。まぁ、俺も返す言葉が見当たらなかったしな、仕方がない。


 イーデン自体はなんの不服もなかった。偵察なんて嘘で、何か内密な話があるのだろうと察していた。


 カリム・サンを追っ払い、俺はイーデンと森に向かって歩き始めた。葉身が膝下ぐらいの草原を進んでいく。風が吹くたびに草原はササ―っと音を立て波打った。空も赤みを帯びている。騎士団とは十分距離が取れていた。


「イーデン殿、いや、叔父上。わたしは大事なことを話さなければなりません」




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