01
あるドラゴンの話をイーデンにした。ヤールングローヴィのことである。ルーアーなるもの、魔核と言い換えてもいい、その存在を俺は初めて知った。
賢いドラゴンはそれを持っていて、はぐれドラゴンにはない。持つ持たないは世界樹が関係しているという。ただし、例外もある。例えばアンデットだ。
アンデットもルーアーを持っていて、賢いドラゴンとアンデットの違いは心臓が動いているかどうかである。ルーアーは魔核と言われる通り、魔法の根源である。つまり、アンデットは魔法で動いている。賢いドラゴンは魔核が無くなっても死にはしない。心臓がうごいているからだ。
無くなればはぐれドラゴンにはなろう。だが、アンデットの場合、ルーアーを失えば塵となる。
では、ルーアーとは何たるか。賢いドラゴンは世界樹をヤドリギにするとその体内で発現されるという。だったらアンデットは。
「叔父上は狂戦士化の魔法をご存じですか? 超回復力と肉体のリミッターを外す魔法です。ですが、痛みも何も感じず、我を忘れ、使い過ぎると戻って来られない」
イーデンは答えず黙って聞いていた。俺は歩みを止めず話し続けた。
「リーマン殿の自爆魔法はご存じでしょう。生命力を爆発力にかえる。心臓が止まれば魔法が発動する。わたしは狂戦士化も自爆魔法もルーアーに関係すると考えています。もちろん、アンデット化も」
俺はあえてイーデンの顔を見なかった。ここまで話せば薄々分かってくるはずだ。
「そもそもルーアーは人には存在しません。ルーアーが無いからこそ我々は四つまでしか魔法を使えない。ならばアンデット化したならルーアーはどこから来るのか。賢いドラゴンは世界樹から。おそらくは私の考えだとアンデットは己の魂か、生命力か、意志から」
イーデンが立ち止った。アンデット化を解くとはすなわち、魂の破壊。あえて表情は見なかった。プライドが高いイーデンのことだ。動揺は見られたくはない。
「叔父上。歩みを止めないよう。皆が不審がる」
イーデンが歩き始めた。弱い自分は見せられない。ほっとした。
「叔父上がアンデット化すればその魔法を解くとわたしは約束しました。しかし、それは、魂の救済にはならない」
「殿下」 イーデンが初めて口を開いた。「お願い致す。それでも私を止めてくれ」
イーデンは魂の救済を求めていたはずだ。ずっと屍のまま何百年、何千年生きるのに耐えられない。魔法が解かれたら魂は屍から解き放たれると考えていた。
しかし、覚悟を決めたようだ。誰も責められない、全て自分の弱さのせい、とイーデンなら考えているはず。
「叔父上、すまぬ。竜王の加護なら解除できると安直に考えていたわたしが馬鹿だった。約束は無かったことにしてほしい」
「では、」 語気が強まった。冷たく低い声であった。「わたしに去れと?」
やぶれかぶれになる寸前だな。イーデンはそういうところがある。だから、アンデット化の魔法に手を出した。
「いやいや、そうじゃない。約束なんてもう必要ないってことだ。アンデット化を解くとは言わずフィルに方法を調べさせたよ。リーマンの自爆魔法を解くならばどんな魔法がいい、とか言ってな。その魔法は同様にアンデット化も解ける。わたしがこの目で直に魔法書を見て確認した」
森は目前だった。イーデンは立ち止った。
「殿下、それをわたしにここで」
「止まるな、叔父上」
俺は森を進んだ。イーデンが付いてくる。
「殿下、魔法は四つまでと決まっております。私のために一枠をみすみす捨てるなぞ」
「いいや、これは約束ではなく命令だ。何が何でも受けてもらう」
俺はずんずん先を進んだ。イーデンはまるで縋り付くように俺に絡んで来た。我々の戦いはエンドガーデンを救うこと、そうおっしゃったじゃぁないですかと。イーデンは俺がエンドガーデンの民を救済すると信じている。
それでも俺が頑として聞かないとみるやイーデンは立ち止った。
「私は去ることにします。私は殿下の足を引っ張りたくない」
やれやれだ。そう言うと思ったよ。
「よく考えてみてくれ、叔父上。俺の魔法の枠が四つ。それで叔父上のが三つ。合わせて七つ。その一つを魔法解除に使ってもまだ六つだ。叔父上を失えば魔法の枠は三つ減る。俺のだけでたった四つだ。解除魔法を使った方が二つも利がある」
「ならば解除の魔法を使わなければもっと得できる。私がアンデット化すればそのルーアーなるものを破壊すればいい。私なら死んでも殿下のために働き申す」
もうやぶれかぶれだな。自分の言っている意味すら分かってない。
「なら聞くが、戦場でアンデット化すればどうする。どこぞの竜王が叔父上をさらいに来るのだろ。戦場は大混乱だ」
「では、わたしは去りまする」
で、また話は戻るって訳ね。
「まぁまぁ落ち着け。なにも俺は魔法の枠を一つ捨てるって言っているわけじゃない。回復魔法の内、状態異常解除だぞ。俺はそもそも竜王の加護のために自分自身に魔法を掛けることが出来ない。だが、一つは回復魔法の枠を持っていたい。今後、状態異常解除は貴重な魔法となるぞ。大概の者は回復魔法を選ぶ時にダメージ回復や体力回復に目が行く。そんなのばっかり集まってみろ」
イーデンは口ごもった。反論出来ないと見える。これでよく政治家をやっていたものだ。まぁ、イーデンは元王族だからな。相手が面従腹背していたのだろう。だが、俺は違う。そもそも立場が上なのだ。ここは押し切る。
「誰かがこういうような魔法を持っていないといけないんだ。分かるだろ、叔父上。これもエンドガーデンの民を助けるため」
カリム・サンもそうだが、イーデンも民という言葉に弱い。
「ですが、」
とはいえ、イーデンが納得しないのも分かる。明らかに、これは詭弁だ。“魂”の状態異常解除というのもそうだが、ドラゴン語がやたらに長い。使い勝手が悪く、どう考えても扱いが限定的だ。すでに魔法書から魔法を選んでいたイーデンならその理屈が分からないはずはない。
「俺も民を大切に思っている。その手始めが叔父上ってだけ。さぁ、そこに立ってくれ、叔父上」
イーデンの肩を持つと俺の前に立たせた。俺はフィルに書いてもらったドラゴン語の写しを懐から出した。
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