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06

 熱くなると俺はどうもキース・バージヴァルであることを忘れてしまうようだ。恥をかく程度で済めばいいが、足元をすくわれることだってあるやもしれん。俺は王族で王嗣おうしという立場にいることをしっかり頭に叩き込んでいないと。


 フィル・ロギンズによると王立図書館の地下は王族しか入れない。そこには王族に関する記録が膨大に保管されているらしい。なにせ二千年に及ぶ家系だ。王室に属した者に対して一冊、伝記を書いたとしよう。それはちょっとやそっとじゃない。本の多さは大体想像がつく。


 地下一杯ってことだろ。フィル・ロギンズが言うには、人の背丈の三倍や四倍の本棚が無限に並んでいて、壁という壁も本棚で、その中段に回廊が設けてある。侍従になる時にそう教わった。


 その地下の中央にオリジナルの魔法書が神霊のごとく鎮座しているらしい。まったく朽ちていない新品同様の姿で、世界樹製の書見台の上に置かれている。王族は出入り自由で、冒険がてらに入る子供も少なくないそうだ。キース・バージヴァルは入ったことがあるのだろうか。


 ローラムの竜王との契約前には魔法書の前で儀式が行われるのが習わしだ。俺の場合は省かれた。それどころかアーロンに呼び出され、カールを殺す毒薬を手渡された。まぁ、それがある意味、儀式だったのかもしれんがな。


 それはいい。いておくとして、オリジナルの魔法書のことだ。まったくの新品の姿であるらしい。ということは、魔法がかかっている。俺が触ればどうなるか。竜王の加護。魔法は解かれる。一瞬にしてバラバラ。手から抜け落ちてちりとなり、フワフワ飛んで本棚や他の本の上に積もるのだろう。


 それではまずい。やはりフィルを連れていくしかない。丁度明日、ブライアン王に会う。そん時に拝み倒すか。幸運なことに、ブライアン王はなぜか俺に好意を持ってくれている。


 そう考えつつ俺は、自分の部屋の前に立っていた。フィルの部屋から持ち帰った魔法書を脇にかかえ、もう一方の手で鍵を探してポケットをまさぐっている。


 やっとこ見つけ出し、鍵を鍵穴に差し込み回した。スカッとなった。古典的なウォード錠である。回すのに障害がないということは開錠されているってことだ。


 誰かが俺の部屋に侵入している。暗殺者か。あるいは俺を拉致しようとしている。リーマンの話から考えると、俺はチアナとイスランに狙われている。ゆっくりとドアを開けた。


 だだっ広い部屋にアビィ・グリーンとジーン・コックスがいた。シーカーの女戦士だ。二人は素っ裸で、立ったまま抱き合っていて、貪るような熱いキスをしていた。


 なるほどそういうことか。俺は二人を無視し、机に魔法書を置くと椅子に腰を落ち着けた。二人は恋仲で、俺はその片方を助けた。だから二人ともが俺に恩を感じている。


 彼女らは愛し合うのをずっと我慢していたのだろうな。ハロルドの部屋を抜け出して、誰もいない俺の部屋に忍び込んだ。これぐらいの鍵を開けるのなんてシーカーならお手のもんだ。


 素っ裸のアビィとジーンが突っ立って、俺を見ている。殿下なら入って来ていいよ、的な眼差しだ。欲しがっているって顔もしている。


 ああ、そういう目的で忍び込んで来たのか。礼をしたいのね。あいにく俺は忙しいんだ。明日の朝までにこの本の中から一つ魔法を見つけ出さないといけない。


「二人とも」 俺は手招きした。「ちょっとこっちに」


 二人が机の前まで来た。俺は椅子から立って二人の後ろに回り込む。そして、二人の肩を抱くと寝室に向けて歩き出した。


 アビィもジーンも嬉しそうだ。お礼というよりも、どう見ても、二人とも俺に惚れている。三人で寝室に入った。


「いいベッドだろ。マットレスはフカフカで、掛布も軽くて生地もいい。羽毛にシルクだ。それにデカい」


 俺は二人の背中を押した。


「旅に出たら当分おあずけだ。今夜は水入らず、俺に気兼ねなく楽しんでくれ」


 俺は寝室から出て、ドアを閉めた。






 窓のカーテンの隙間から光がさしていた。魔法書が興味深いことばかりで時間を忘れていたらしい。


 色んなことが分かった。例えばローラムの竜王の結界である。ずっとヘルナデス山脈に沿って壁のようなイメージでいたが、よくよく考えればそれは違っている。


 結界はあくまでも結界で、時空間魔法だ。その中には壁のような形状のものは存在しない。フィルに教えてもらった通り、壁は防御魔法として挙げられている。最もシンプルなのはただ単純に壁を張り、何も寄せ付けないというものだ。壁自体に仕事をさせないのだから強度だけは相当のものだと考えられる。


 他にも魔法攻撃を反射したり、物理攻撃を反射したりするものから、シーカーの青い石のように攻撃を何段階か下げるタイプのものある。


 雨男と風太郎は自身の回りを水や空気で覆った。領域を指定していて一見、結界のように思えるかもしれない。だが、それは間違いで防御魔法だ。結界は広義でいうと空間の支配である。


 雨男と風太郎のは水や空気の特性を利用して魔法や物理の攻撃を回避している。空間の支配ではない。


 俺の見解ではローラムの竜王の結界はつまり、ローラム大陸を覆う超巨大なドーム状。あまりに巨大すぎて俺たちは壁の部分しか見ていなかったということだ。高峰をポイントとして巧みに曲線を描いているためにヘルナデス山脈の尾根上の壁と勘違いしていた。


 クレシオンからの帰り道にハロルドが、ドラゴンに乗らなくても、魔法でエトイナ山に行けばいいんじゃないかと言った。エトイナ山派遣団の第一陣の誰かが転移魔法を覚えればいい。イーデンは、それが出来ないから王族は歩いてエトイナ山にいっているんだと答えた。


 そのとき俺は、ああ、そうか、そもそも魔法で行けるのならロード・オブ・ザ・ロードは意味がないもんなと思ったものだ。おそらくローラムの竜王はエトイナ山にも結界を張っている。飛び込み訪問お断りってことだ。


 もちろん俺は本来の目的、ルーアーを見破れるだろう魔法も見つけ出した。注釈がこの時代の人間にはいまいちピンと来ない書きようである。


 フィルが俺に薦めなかったわけだ。これじゃぁ何の利益になるのか分からない。こんなことに魔法なんているかってなる。俺は科学が発達した未来の人間。いや、パラレルワールドの人間か。


 そんな俺だからこそ何を言わんとするか何となく分かる。俺の予想が正しければ、この魔法はルーアーを見破れる以上にもっと強大な力を秘めている。俺とは相性がいい時空間魔法でもあるし、しかも、それが短いドラゴン語ときた。


 俺の部屋に朝食が用意された。あと二人分も追加して、俺は朝食を済ました。アビィもジーンも昨日はいい夜を過ごせただろう。喜びの声が寝室から漏れ聞こえて来た。ゆっくりと休んでもらって、俺はもう一仕事だ。


 ブライアン王に会わなければいけない。身支度を整え、部屋を後にした。






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