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「帰ってきたか……」


 ソニック・ランドバードに乗り、牧場町を目指して【魔の森】を進んだ俺たちは、夕方前には、牧場町に戻ってくることができた。

 道中、大蛇の魔物に襲われ、その後始末で費やした時間を巻き返すように、ソニック・ランドバードが張り切り、休憩も極力減らして、雨の中の森を駆け抜けた。

 その際、前に乗る俺の顔には、激しく雨粒がぶつかり、先の戦闘の殴打で雨具も所々避けているために、衣服に雨が染みている。


「帰ってきた。【羽根生え薬】を作って、速く飛べるようにしないと」

「そうだな。だが、その前に、俺たちが休憩しないとな。薬を作る途中で倒れでもしたら目も当てられない。万全の状態でやるんだ」

「そうだね。疲れた」


 一昼夜、【魔の森】で過ごしたジニーは、疲労がピークに達しているようだ。

 牧場町に戻ってきたことで、緊張が途切れ、眠気が襲ってきたようだ。


「あっ、コータスさん! どうしたんですか! そのボロボロの姿! バルドルさん、すぐに呼んできます!」


 牧場町に帰ってくれば、北側を監視している自警団に迎えられ、無事に帰ってくることができた。

 まずは、ソニック・ランドバードをランドバード牧場に預け、その後、ジニーをリア婆さんの許に無事に帰すことができ、【コーヴィクスの花】を無事に届けることができた。


「ジニーには、野営訓練として外出許可を出したけど……分かってるかい?」

「うっ……ごめんなさい」


 事前に勝手に【魔の森】に入ろうとすることを聞かされていたとは言え、怒らない訳がない。


「あと、コータスもなんだい? そのボロボロの格好は?」

「それもこれからバルドルと話に行くつもりだ」

「まぁ、何にしても無事に帰ってきて良かったよ」


 そうして俺にお礼を言う、リア婆さん。

 無事にジニーを送り届けた後にもまだ、後片付けは残っている。


 バルドルのいる町役場に併設された騎士団の駐在所に向かう。

 そこで【魔の森】で危険な魔物の遭遇とその討伐、特徴などの情報共有だ。

『平べったい頭で体色を変えて擬態し、尻尾先には膨らみと目玉のように見える円の模様がある強力な毒液を吐く大蛇』という特徴を伝え、討伐証明部位の牙を渡す。

 毒液を滴らせていたために、素材の処理が得意な専門家が多い牧場町で、素材を洗浄してどんな魔物だったかを特定するようだ。


 そうした煩雑とした報告を終えて、野営のための重たい荷物を背負い、チェルナと共に、レスカの牧場に帰ろうとする時、役場前に見覚えにあるリアカーが止まっていた。


『ワンワン! ワフッ!』

『キュイ! キュイ!』


 そのリアカーを牽いている双頭の魔犬であるオルトロスのペロに俺にしがみついていたチェルナが滑空して跳び込んでいき、盛大に甘え始める。

 そして、そんなペロをここまで連れてきたレスカが顔を上げて、俺に微笑みを向けてくる。


「コータスさん、お帰りなさい」

「とりあえず……ただいま。でも、どうしてレスカがここに?」


 俺が尋ねるとレスカは、恥ずかしそうにはにかみながら答えてくれる。


「きっと野営の荷物を牧場まで運ぶのは大変だろうと思って、迎えに来たんです」

「そうか。悪いな、気を遣わせて」

「いえ、勝手にやったことですから!」


 お礼を口にすれば、レスカは慌てたように言葉を口にするが、それでも嬉しく感じ、表情が緩む。

 なんだか、レスカを見て安心してしまい、一歩踏み出すと膝がガクッと力が抜け、慌ててレスカが支えてくれる。


「コータスさん、大丈夫ですか?」

「ああ、少し疲れが出ただけだ」


 流石に、一昼夜寝ずにジニーの護衛で周囲を警戒していたのは、疲れたようだ。

 肉体的には、【頑健】の加護が蓄積された養分を消費して傷を治してくれるが、休まなければ回復速度も落ち、精神的な疲労は溜まる。


「今日と明日は、しっかり休みましょう。それに体が冷たいですよ」


 レスカに支えられて触れられた掌に目を向けて、自分の手先が冷えていることに気づく。

 雨風に打たれ、ジニーを無事に送り届ける使命感に、知らず知らずに内に緊張していたようだ。

 そんな俺の手をレスカが包み込むように握り締めて温めてくれる。


「…………」


 じんわりとレスカとの体温差で少しだけ手先に血の気が戻ってくる気がした。


「コータスさんの手、大きくて、ごつごつしてますね。手の皮が厚い……って、私は、なにをやってるんだ!?」


 ぼうっとした表情で俺の手を揉むように確かめたレスカだが、自身の行動に恥ずかしさを覚えたのか、ノリツッコミをして手を放す。


「コータスさん! お夕飯を食べたら湯屋に行きましょう! 冷たい体を温めて今日と明日はゆっくり休みましょう! ヒビキさんも待ってます! さぁ、帰りましょう!」


 そう言って、大きな声を出して出発を促す。

 俺は、野営の荷物をリアカーに乗せ、レスカたちと共にレスカの牧場まで歩く。

 そして、互いに気恥ずかしさから少しだけ距離があり、無言になって歩く。

 ただ、少ししてその気恥ずかしさが消え、レスカの側にいる居心地の良さに改めて、帰ってきた、という気分にさせられる。


 レスカの牧場に帰れば、先に野営の荷物を置き、先に用意されていたクリームシチューを食べる。

 その際も野営の不味い食事と比べて、天と地ほどの差を感じ、レスカへの感謝を再度覚え、綺麗な衣服を持って、一人湯屋に向かい、野営の汚れを洗い流し、再びレスカの牧場に戻る。


「……ベッドが綺麗にされてる」


 野営での過ごし方との雲泥の差に三度、レスカへの感謝を覚え、ベッドで眠りに就く。

 そして、一晩じっくり寝て休めば、【頑健】の加護で体調も良好になり、仕事を戻ろうとしたが、レスカとヒビキには、無理矢理に休まされ、バルドルにも休まされ、仕方がなしにチェルナとペロと共にダーダル・スワローの側で一日を過ごしていた。

 先日の哀愁漂う姿ではなく、再び飛べる希望を得て、穏やかな表情でダーダル・スワローは、牧場町の上空を飛ぶ渡り鳥の群れを見送る。


「お前の仲間は、飛ぶの上手いな」

『ツピー』


 俺の呟きに相槌を打つようにダーダル・スワローは、鳴く。

 人慣れしているために鳴き声のテンポが非常に心地良く、勝手に語り掛けてしまう。


「俺は、人だから、チェルナに飛ぶ方法を教えることができない。どうすればいいと思う?」

『キュイ?』


 突然に自分の話が出て、小首を傾げるチェルナに、ダーダル・スワローは、胸を張る。


『ツピッ、ピー』

『キュイ! キュイキュイ!』


 チェルナに向かって何かを話すと、嬉しそうに鳴くチェルナ。


「会話は分からないな。……マーゴ、いるか?」

『ナニ?』


 マーゴの念話が響くと共に、近くの地面から菌糸が湧き出し、人型を作り始める。


「ダーダル・スワローは、何を言っていたか通訳してくれるか?」

『トビカタ、ジブン、オシエル。ソウイッテタ』


 片言のマーゴの念話に、チェルナの飛行の見本になってくれるのか、と理解し更に穏やかな気持ちで一日を過ごした。

 そして、二日後に、ジニーも野営の疲れで休んだ後に、持ち帰ったコーヴィクスの花を使い、待ち望んだ【羽根生え薬】が完成した。

 それは、レスカに預けられ、すぐにダーダル・スワローの翼に塗布された。

 人慣れしているが、野生に近い環境で暮らす魔物であるために、体の怪我は、目立たない程度に治っており、包帯なども外された。


 それから朝晩2回、羽根の根元に液状の【羽根生え薬】を塗布することで、五日目には、綺麗に風切り羽根が生え揃い、いつでも飛んで、野生に帰すことができる状態になった。


 そして――



モンスター・ファクトリー1~3巻が発売中です。

書店で見かけた際には、ぜひ手に取っていただけたらと思います。

また、Web版第4章は、毎日投稿の予定です。

改めてよろしくお願いします。

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