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87話-フードファイターたち

「あのジョゼットさん?」

「どうかしたの? セネカ」


 何事もない風に小首を傾げてみせるジョゼットさんを私は恨めしく睨みます。

 どうしてこうなる前に止めなかったのか、と。

 私たちは食堂に移動したのですが、そこにはパーティーでも開かれるのでは、という量の料理が置かれていました。

 まだ帰宅していないイノ家の長女であるフィオーレ様を加えても5人しか食事する人がいません。その証拠に広い食卓には椅子が5つしか用意されていませんでした。

 テーブルに置かれている料理は8人分は間違いなくあります。いくらおいしそうでも胃に入る量は限界があるのです。


「あの、立食パーティーとかではありませんよね?」

「一つ覚えておくといいわ。私よりフィオーレ姉様。フィオーレ姉様よりお母様の方が手に負えないの。貴方からしたら意外でしょうけど、私はそれなりにまともなのよ」


 そう言って、食卓に着くジョゼットさんの顔は引きつっていました。なるほど、はっきりした力関係があるのですね。

 私も観念して、一番位の低い位置に座ります。


「あら、早かったのねセネカちゃん。コルトンと運動していたから、お腹減ったでしょう?」


 新たな料理を使用人と共に手に持ったフィル様が現れました。

 これで10人は満足に胃を満たせるでしょう。


「あの、もしかしてこちらのご料理はフィル様が?」

「そうなの。といっても半分ほどだけどね。仕事から帰ってきてからだったし、これだけしか用意できなくて。ごめんなさいね」


 これだけしか、という部分がやけに強く聞こえてしまいます。フィル様は別に強調したわけではありませんが、私の耳が勝手にそう捉えたのでしょう。

 自分で圧迫するとは間抜けな頭です。

 無意識は既に降伏しているので、せめて意識的に、明らかに間違った量の料理たちから目を逸らすために私は会話を試みることにしました。


「料理がお上手なんですね」

「この子たちに教わったの。あ、何で私が料理をと思ったでしょう?」


 図星だったので、私は小さく、はい、と言いました。


「貴族が料理をするというのは珍しいもの仕方ないわ。でも、どうして料理をしようと思ったのかしら?」


 そうね、と呟いてフィル様は持っていた料理を食卓に置き考え込みました。


「多分、誰かを喜ばせたいから、かしら。多分じゃなくて、きっとそうね。フィオーレやリーリエ、そしてジョゼットに。または貴方のような素敵な子のために」


 そう言って、フィル様は移動し、ジョゼット様の頭を撫でてから、私の頭も撫でました。


「そういえば、リーリエはどうしたの?」

「頑張っています。本当にあの子は頼りになりますね。呼ばずとも、直きますよ」


 ジョゼットさんの言っている意味が私とフィル様にはわからず、お互いの顔を見て二人して首を傾げます。

 リーリエは私を迎えに来るために走っていたのではないのでしょうか?


「お待たせしました」


 噂をすれば、息を少し乱したリーリエが食堂に入ってきました。

 彼女を見て、フィル様は黙って近づいていき、手の届く範囲で止まりました。


「あ、あのごめんな――」


 リーリエは下を向いて謝ろうとしましたが、それをフィル様は抱きしめることで止めました。


「心配だったわ。本当に、心配だった。でも、いいの。こうして可愛いリーリエがいてくれるんだもの。おかえりなさい。リーリエの好物をたくさん用意したわ」

「ありがとうございます、お母様」


 リーリエもフィル様を抱き返し、食堂に和やかな空気が漂います。

 が、いつまで経ってもそのままだったので、痺れを切らして、ジョゼットさんが咳払いをしました。


「お母様、せっかくのお料理が冷めてしまいますわ」

「そうね。まだフィオーレが帰ってきてないけれど、いつになるかわからないから早くいただきましょう」


 そう言って、リーリエから離れたフィル様はその場でクルリと回りました。


「間違いなく上手くできていると思うから、たくさん食べてね」


 私とジョゼットさんは騎士の点呼のような返事をし、リーリエは朗らかに、はい、と言いました。

 ですが、席に近づくにつれ、リーリエの顔色は悪くなっていきます。フィル様に注目していて、料理を見ていなかったのでしょう。

 呆然とするリーリエにジョゼットさんが声を掛けます。


「ようこそ、復帰戦してわ辛い戦いね」

「ある程度は予想していましたが、これほどまでとは……。ジョゼット姉様、いつもの5割増しでは?」

「そうりゃあそうよ。リーリエが元気になったのと、お母様がセネカのことを気に入ったもの。倍にならなかっただけ救いだわ」

「ですね」


 苦笑してリーリエは席に着きました。


「フィオーレ姉様がいつ帰ってくるかわからない今、頼りは貴方よ、リーリエ。入念な準備をしていたけれど、平気?」

「だと思います。お腹は減ってますし」


 何だか頼もしいのですが、二人の会話に疑問点があったので、私は思いきって質問してみることにしました。


「あの準備とは?」

「ああ、走ってお腹を空かせてきたんだ。準備というより悪あがきだね。こうなることは予想できたからそうしたんだけど、この量は想定外だった。本当に」


 ははは、と枯れた笑い声をリーリエは上げました。

 どうやら冗談抜きで、これらの料理を我々だけで平らげないといけないようです。

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