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86話-自然に



「そうです。死にたくなければ、自然に手が出る。足が出る。その有無が勝敗を分けるのです。負けるのが恐ろしいなら殴りなさい、剣に宿す自信と偏見を以て、切り殺しなさい。戦いの中では鋭敏でなければなりませんが、その他のことには鈍感であるべきです。ただ貪欲に勝ちを求めなさい」


 私の猛撃を往なしながら、ラーファさんは言います。飄々としていても確実に私の攻撃は当たっています。剣だけでは傷一つ与えられませんでしたが、あらゆる戦法を取ることでこちらの攻撃は着実に当たっていました。

 ラーファさんの指摘通り、心構え1つで、私は先ほどまで圧倒されていた相手に打ち合えています。

 剣も体術もラーファさんの方が巧いのですが、私は速さで彼女に勝っており、それを軸に一手一手を講じます。剣だけでは取ることのできなかった選択が広がっているのを感じました。

 ついに、私はラーファさんの剣を掻い潜り、彼女の喉元にこちらの切っ先を突きつけます。


「負けですね。もう、私からは言うことはありません。常にこう戦えとは言いませんが、自分がこういう風に動けるのだと知っておくことは重要です。その移行をよりスムーズにできると、あとは時の運です。戦場では一対多はもちろん連戦ですし、まともな状況で戦えることは稀ですから、運も馬鹿にできません」


 そう言ってラーファさんは剣を手放し、軽く頭を下げました。


「説教臭くて申し訳ありません。どうも、年を取ると口がよく回るようになってしまいましてね」

「謝るのは私のほうです。いくら全力でと言われても、そんなに怪我をさせてしまいましたし」


 骨は折れていないものの痣はいくつもできているでしょう。それは私も同じでしたが、教えてもらった側なので当然と言えます。しかし、ラーファさんはそういうわけではありません。親切にしていただいたのに、酷い仕打ちを受けただけです。


「私がそう言ったのですから問題ありませんよ。むしろ嬉しいものです。リズと手合せをしているようで本当に楽しかった」

「姉と私の戦い方は似ていましたか?」

「それはもう。貴方たち姉妹の剣は実直で美しい。私が教えることでセネカ様の剣を汚すのではと思っていましたが、杞憂でしたね」


 私も忘れていたのですが、とラーファさんは恥じるように言いました。


「リズもそうでした。彼女の剣は私が口を出しても美しいままでしたから」


 姉の剣など覚えてもいませんし、自分の剣が美しいという自覚がなかっただけに、ラーファさんの話についていけません。

 ですが、褒められているというのはわかるので、悪い気分ではありませんでした。


「そういえば、リズの剣に恐れは見当たりませんでしたが、冷酷ではありました。彼女はそういった感情の切り替えが上手かったんですよ」


 懐かしむように言って、ラーファさんは私の手から木剣を取りました。


「どうやらお時間のようです。用があれば、いつでもお尋ねください」


 ラーファさんの視線を追うと、廊下を走るリーリエの姿がありました。


「さあ行ってください。お嬢様を勇気づけられるのは貴方しかいないのです」


 私は頷いて、リーリエが出てくるであろう庭に通ずる扉へと向かいました。

 近づくにつれ、トントンと廊下を駆ける軽い音が聞こえてきます。その音からリーリエの位置を大よそ把握し、そろそろ扉が開くだろうと心構えをしました。

 リーリエがどのような気持ちの整理をしたのかはわかりませんが、私にできることは誠心誠意受けとめようとすることだけです。

 深呼吸と共にそんなことを考えていると、扉が開きました。


「あらあら、すっかり汚れちゃって」


 上品に笑いながら声の主であるジョゼットさんは私に手を伸ばします。


「お夕食の準備ができたの。さあ、おもてなしの続きをさせてちょうだい?」




2/23-キャラクターの名前が間違っていたので修正しました。

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