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82 堕天の祝福とダイチの決意

それはタツマキが襲撃を掛けてきた日の夜、タラゼアの町に向かう準備をしていた時だった。


「我が主よ。少し、お時間よろしいですか?」


そう言ってウルフェンが訪ねてきたのだ。


「構わないぞ」


ほとんど準備は終わっていたので、俺はウルフェンを自室に招き入れた。


「なんだ、話って?」


「此度の魔族の企てについてですが、不可解な部分がいくつかあります」


「不可解な部分?」


「はい。現在の魔公七人のうち、ロンダークとジースは<堕天の魔王>ルシファー様の臣下でした」


「<堕天の魔王>、か」


かつて原初の大森林を平定し、魔物や魔族、半妖種や人種すらも従えていた真の魔王。

彼が姿を消したのは約300年前と言われているが、そうなるとロンダークもジースも、それ以上の時間を生きていることになる。流石は魔族といったところか。


「特にロンダークは<堕天の魔王>が最後に言葉を交わした唯一の臣下なのです。

 そのロンダークが言うには、堕天の魔王は別れ際に「面倒事を終わらせたら、必ず帰ってくる」と、そう言ったらしいのです」


「それは<魂の継承>で受け継がれた記憶か?」


「はい」


なるほど。

ウルフェンはユニーク級スキル<魂の継承>で黒狼族族長の記憶を“取り出せる”。


そもそも原初の大森林に棲むインテリジェンス・モンスターたちも<堕天の魔王>ルシファーの配下だったという話だし、当時の“ウルフェン”がロンダークのことを知っていても不思議はない。


「その言葉を信じ、ロンダークは<堕天の魔王>の帰りを待っていました。

 しかし王が不在となったルシフェルアークは荒廃し、インテリジェンス・モンスターたちは自分達の縄張りへと帰っていきました。

 ロンダークとジースは最後までルシフェルアークに留まりましたが、魔族領での混乱やガスパリア帝国が急速に勢力を拡大したこともあり、ルシフェルアークを放棄せざるを得なくなったのです」


「それで?」


「原初の大森林が不可侵とされているのは、高レベルモンスターが蔓延っているのもありますが、ロンダークがそれを許さない、ということも理由の一つにあるのです。

 彼は今も原初の大森林を堕天の魔王が治める場所と認識していますし、半妖種やインテリジェンス・モンスターを保護しようともしていました」


俺は疑問に思っていたことが、一つある。

それは何故、ゴブリン・ハーフのような半妖種が原初の大森林で暮らせるのか、ということだ。


ゴブリン・ハーフの族長だったエルゼフのレベルは、俺が出会った時には41だった。これは人間の冒険者で言えばCランクに相当するが、原初の大森林にはBランクの魔物がウヨウヨしている。


原初の大森林では半妖種の魔力が上がる地域的な特性があるらしいが、それは魔物も変わらない。

魔物も半妖種もインテリジェンス・モンスターも、魂の中に魔素が混じっている。原初の大森林における濃度の高い魔素を体内に取り入れることが魔力底上げの原因だから、それによって受ける恩恵はモンスターの方が強いぐらいだ。


ハッシュベルトがサーベルタイガーでエルゼフの村を襲わせたように、モンスターが半妖種たちの集落を襲うことは十分に考えられる。事実、人種が原初の大森林を開拓できないのは、モンスターに襲撃されるからだ。


このカラクリは<認識変換>という魔導技術にある。

半妖種たちの集落には<堕天の宝珠>なるマジックアイテムがある。これは知性の無い者に対して、その個体が嫌う“何か”に対象が見えるような幻覚を見せるらしい。


例えば原初の大森林にはカエルのようなモンスター、ビッグフロッグがいるが、彼らはデススネークというモンスターに捕食される。

仮にこのビッグフロッグが半妖種たちの集落を発見した場合、ビッグフロッグには集落がデススネークの巣に見えるらしい。当然、ビッグフロッグは集落には近付かない。


こうして半妖種たちは安全に原初の大森林で集落を築くことができているのだ。



「この<堕天の宝珠>は、ロンダークとジースがルシファー様から命を受けて開発し、半妖種たちに与えたものです。

 また我等インテリジェンス・モンスターが魔族との間にトラブルがあった際には、ロンダークが仲裁に出てくることもありました」


「つまりロンダークとジースは、原初の大森林で暮らす半妖種やインテリジェンス・モンスターたちを守ってきたってことか?」


「はい」


それならば、確かに不可解なことがある。

ハッシュベルトの企ては、現魔公七人の合議制によって運営される<魔公会議>によって決定されたもの、という事実を俺たちは掴んでいる。だからこそ魔族全体が原初の大森林を攻撃した、という認識を共有しているのだ。


ロンダークとジースは、この七人の魔公の中に名を列ねている。

しかも魔導人形を用いて原初の大森林を攻める号令を発しているのはロンダーク本人だ。

彼は自ら魔王を名乗り、他の魔公を率いて全軍で原初の大森林を蹂躙しようとしている。


つまり、これまで原初の大森林を守ってきたロンダークが一転、原初の大森林に住む半妖種やインテリジェンス・モンスターを駆逐しようとしているのである。


この心境の変化は確かに不可解だ。

う~ん。

チャーリーはどう思う?



Answer.

おそらくですが、自領を守るためではないかと思われます。



どういうこと?



Answer.

魔王が現れなくなり、50年が経過しています。

その間、人間族は力を増していますが、魔族は衰退しています。

魔王を復活させて人間族の力を削ぎ、魔族全体を守るために原初の大森林に手を出したのではないでしょうか。



なるほど。

待てども待てども帰って来ない“真の魔王”に忠誠を誓っていても、背に腹は代えられなかった、ということか。

それにしたって、魔族軍の総力を上げて攻め込もうとするだろうか?



Answer.

あと一つの原因としては、マスターの存在があると思われます。



え!?

おれ!?



Answer.

ロンダークは原初の大森林を<堕天の魔王>ものであると考えています。

また半妖種やインテリジェンス・モンスターは<堕天の魔王>の配下と考えているでしょう。



だからこそ<堕天の魔王>が姿を消した300年間、彼なりにこの地を守ってきたわけだ。



Answer.

しかし半妖種もインテリジェンス・モンスターも、マスターに忠誠を捧げました。

これは原初の大森林をマスターが支配したと言っても過言ではありません。



まさか・・・



CORRECT!

ロンダークは半妖種やインテリジェンス・モンスターの行為を裏切りと捉え、マスターから原初の大森林を取り戻すべく戦いを仕掛けてきた可能性が高いと思われます。



俺のせいかよ!?

いや、待て待て。


「ウルフェン」


「はっ」


「お前たちは、なんで俺に従うんだ?」


アクアやヒュージ・スライムが俺に従う理由は分かる。

アクアは<従魔契約>でテイムしたのだし、ヒュージ・スライムが仲間になったのは<神格化>の効果だ。


俺は確かにゴブリン・ハーフやサーベルタイガーを助けた。オーガ族壊滅の危機を救ったし、ハッシュベルトの企みを潰した。

だが、それだけで配下になろうなどと思うだろうか?


「・・・我等は主に真の魔王の片鱗を見たのです」


なんですと?


「ルシファー様は奇抜な方だったと言われています。魔族にしろ人間族にしろ、半妖種や我等インテリジェンス・モンスターを助けようなどという者は、この世界に一人もいないでしょう」


「だから、それは―――」


俺が異世界人で、この世界の常識に疎く、俺自身の事情があったから。

そう続けようとした言葉を、ウルフェンが手で制する。


「それだけではありません。我が主は<堕天の祝福>を御存知ですか?」


「いや。初めて聞く言葉だ」


「ルシファー様は様々な恩恵を、原初の大森林にもたらしました。それらを<堕天の祝福>と呼びます。<堕天の宝珠>もその一つです。

 誰も知らない魔法、見たこともないマジックアイテム、そして―――配下にした者を<進化>させる秘術」


・・・なに?


「ルシファー様が降臨なさるまで、知性は人間や亜人種、魔族や竜族、そして一部の特異なモンスターに限られていました。

 しかしルシファー様の配下となったモンスターは知性を得て、インテリジェンス・モンスターへと<進化>したのです。

 個体別にそういった例が無かったわけではありませんが、種族丸ごとというのは<堕天の魔王>をおいて他に事例はありません。

 これは<堕天の魔王>の伝説として、広く知られていることなのです」


―――なるほど。

だからエルゼフやサーベルト、王牙たちは俺を<魔王>と呼びたがるのか。ルシファーと俺には共通点が多いのだ。



この話をウルフェンとした後、俺はロンダークとジースの二人を同時に倒さなければならないと、何故か思った。


理由は分からない。


だがロンダークの怒りがルシファーへの忠誠から来ているのであれば、ここで彼らを退けても問題は解決しない。魔族全体が抱える問題についてもだ。むしろ悪化する可能性が高い。


ルシファーとの共通点が多いのだとすれば、インテリジェンス・モンスターたちと同様、ロンダークとジースに<堕天の魔王>の後継として彼らに認めて貰うことも不可能ではないはずだ。

俺自身は魔王になるつもりはない。

だが彼らをルシファーという呪縛から解き放たなければ、フォレストピアが危うい。ルシファーと同じように俺が居なくなってしまったとしても、彼らが平和に暮らしていけるようにする義務が俺にはある。



そんな決意を持って、俺は二人の前に立つ。


―――強い。


二人を前にして、先ずはそう思った。これまでに感じたことの無い、強い魔力。隠しきれない敵意。そして圧迫感。

上等だ、やってやる。

かかって来いよ理不尽。叩き潰してやんよ。




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