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81 魔公撃破の余波

「ラ、ラルヴァ様の魔力反応消失! ラルヴァ軍の魔導人形が機能を停止!」


「ギリアム様の魔力反応もロスト!」


「レ、レイティアス軍の魔導人形も機能を停止!」


「そ、そんな! シュナイダー様の反応ロスト! 魔導人形が機能を停止します!」


「バカな・・・」


次々と聞こえてくる絶望的な報告に、グランゼルフは腰を落とした。


―――どうして、こうなった?

圧倒的な兵力の差で蹂躙するはずではなかったのか?


グランゼルフたち5人の魔公が所有する魔導人形は約一万体ずつの計5万体。

それに対し、ロンダークとジースは、それぞれ3万体ずつ。二人だけで6万体の魔導人形を保有していた。

この事実だけでも衝撃だが、二人は5人の魔公が一体しか保有していないクイーンを2体ずつ、更に共同ということらしいが完全ミスリル製のクイーンを1体保有していた。名前を与えられていたミスリル・クイーンからは、下手をすればグランゼルフと同等の魔力を感じたのだ。


負けるはずがない。

誰もがそう思っていたはずだ。


だが蓋を開ければ、魔導人形たちは原初の大森林に巣食う半妖種たちに手も足も出ない。頼みのクイーンも足止めされている。

既に四人の魔公が倒されたということは、4万体の魔導人形が活動を停止したと言うことだ。動ける魔導人形の損耗率は25%を越えている。11万体もいた魔導人形が半分以下になったのだ。


これはマズイ。

ロンダークとジースが強いことは分かっている。あの二人が他の魔公のように倒されることはないだろう。

しかし原初の大森林を攻め、インテリジェンス・モンスターたちを魔王復活の生け贄にすることは、もう難しいだろう。他の魔公を倒した者たちが自分のところに来られても困る。

グランゼルフは、混乱するオペレーターたちを残し、そっと陣を出た。


逃げるのだ。


「な、なんだ、あれは?」


そして見た。

空に浮かび、燃え盛る『島』を。



一方、族長たちとクイーン部隊の戦闘は激化していた。


「はあ!」


ウルフェンとクイーンは木々の間を縫うように移動しながら、刃を打ち合わせていた。その動きは目で追うことが難しいほどに速い。


9体のクイーンのうち、一体はサーベルトの雷撃で機能を停止。もう一体は魚正宗が<大海の渦>に捕らえている。

ミスリル・クイーンのミスティは王牙と膠着状態。ウルフェンもクイーンの一体を抑えている。

残るクイーンは5体。それらと戦いを繰り広げているのがサーベルトとカイザー、ミッズ、白葉の4名である。


「そりゃあ! <刀楼流>ぃ!」


クイーンの連携した攻撃を次々と受け流し、カウンターを叩き込むカイザー。

鋭い鉤爪を払い、避ける。流れるようでいて千鳥足にも見える足運びは少し気持ち悪い。カイザーのようにプロレスラーのような大男がクネクネと身体を曲げるのだから、タチが悪い。

だが三体ものクイーンの攻撃を捌いているのだから、侮り難い。


「【フレイムランサー】」


「【ウォーターカッター】」


カイザーの受け流しによってバランスを崩したクイーンたちに、白葉とミッズの魔法が襲い掛かる。


「【マジックバリア】」


しかし、それらは後方に控えたクイーンの魔法結界によって阻まれる。その瞬間を突いてサーベルトが前に出る。


「<雷爪>!」


雷撃を纏った凶悪な爪がクイーンニ体に迫る。寸でのところで回避したと思われたが、ニ体の胴には浅くない爪痕が刻まれる。


「ガンガン突くぜ! <猿舞拳>!」


残る一体にカイザーが滑り込むように肉薄。舞うような連撃を繰り出した。

それをA級スキル<錬気甲>で防ぐクイーンだが、変則的で予想の出来ない攻撃を受けきれず一発がクリーンヒットする。


「【フレイムバスター】!」


なおも追撃を加えようとするサーベルトとカイザーに対し、後方に控えるクイーンニ体が火炎魔法を放った。

炎を纏った十数発の砲弾が二人に向かう。


「【ファイヤーウォール】!」


だがそれは白葉の魔法結界によって即座に防がれてしまう。


「<酸弾>!」


【フレイムバスター】によって動きの止まったサーベルトとカイザーに対し、ミッズの援護射撃が入る。飛び出そうとしていたクイーン三体が<防御壁>を発動して動きを止める。


「ガルルルル! <天雷>!」


そこにサーベルトの<天雷>が追撃で入り、<酸弾>によって弱体化した<防御壁>を粉砕する。


「ひゃっはー! 4Pとイクかぁ! <猿舞拳>!」


この期を逃すまいとカイザーがクイーン三体に突っ込み、嵐のような連撃を繰り出した。

流石に三体同時では押しきることは出来なかったが、<天雷>を発動し硬直していたサーベルトが動けるようになるまでの時間を稼ぐことはできた。


目まぐるしく攻守が入れ替わり、魔法とスキルが飛び交う。

四人は数の不利に対し、連携で補い合っていた。戦況自体は族長たちが押しているようにも見える。


そして、こちらでも激しい戦いが繰り広げていた。


「<地裂撃>!」


「<天馬>!」


王牙が足を踏み鳴らすと地面が盛り上がり、地を這う蛇のようにミスリル・クイーンことミスティに襲い掛かる。

しかしミスティはこれを<天馬>で中空に飛び、回避した。

そのまま<天馬>で足場を作りながら、ジグザグに、しかし弾丸のように素早い動きで王牙へと接近する。



ガギィン!!



ミスティの鉤爪と王牙の曲刀が火花を散らす。


「オオオッ!!」


力での打ち合いならば王牙に分がある。

力任せに曲刀を振り抜くが、手応えは無い。力を込められる前に、ミスティが後ろに跳んでいたからだ。


「【ライトニングニードル】」


後ろに跳びながら、ミスティは雷撃の魔法を放つ。巨大な針の形状をした雷が雨のように王牙に降り注いだ。


「<土壁>!」


王牙はそれを目の前に土の壁を盛り上げることで防ぐ。



ガギィン!



直後にまた、刃が打ち合う音が森の中に響いた。王牙の後ろに回り込んだミスティが死角から攻撃を仕掛けたのだ。

王牙が雷撃の魔法を<土壁>で防ぐことを見込み奇襲を仕掛けたのだが、王牙はそれを正確に読んでいた。


「今のを防ぎますか」


「生憎、俺はお前さんより、もっと速い相手と立ち合ったことがあるんでな」


「それはそれは」


ミスティは王牙の言葉を信用していないようだが、彼は嘘を言っていない。自分たちの主であるダイチの方がもっと速いし、攻撃も読みにくい。

ミスティは相手を翻弄するような動きで接近してくるが、それでも動き自体は直線的だ。ダイチのように至近距離で跳弾のような動きをしてくるわけではない。タネさえ分かっていれば、王牙にとってミスティの攻撃を防ぐことは容易だった。


対して王牙の武器は巨大な曲刀であり、そのモーションは大きい。威力はミスリル・ボディのミスティですら耐えられるものではないだろうが、当たらなければ意味がない。

そんなわけで二人の戦いは拮抗していた。互いに相手を葬る一撃と攻撃手段を持ちながらも、決め手に欠けるという展開である。


だが、その拮抗状態に、突如終わりがやってきた。何の前触れもなく、カイザーたちと戦闘していたクイーンのうち二体が崩れるように倒れたのである。


「なに、どうしたの!?」


「ほう。以外に早かったな」


ミスティは王牙から距離を取り、動けるクイーンを集めた。その数は三体。


「これは―――魔力切れ? まさか!?」


「この四体のクイーンの主である魔公が敗れた、ということだな」


王牙の側にウルフェンが降り立った。機能停止したクイーンを担いでいる。

その後ろからカイザーたちも歩みより、ミスティたちと対峙する。そこにはクイーンの一体を<大海の渦>で抑えていた魚正宗の姿もあった。


「そんな・・・魔公が四人も倒されたというの!?」


クイーンは戦慄した。

ロンダークとジースの二人によって力を与えられた彼女は他の魔公と遜色ない実力があると製作者の二人に言われている。つまり、相手側には自分と同等か、それ以上。王牙のような実力者が四人は残っているということになる。


(あのクイーンはグランゼルフ様の駒ね。ということは、グランゼルフ様は未だ交戦中?

 それとも向こうの手駒が足りなかったか、あるいは撃退したか)


ミスティはそこまで考えて、肝心なことに気がつく。

魔公が倒されたということは、クイーンだけでなく他の魔導人形も停止しているはずだ。


自軍の数を把握するため【レーダー】の魔法を発動した。魔力感知をするための魔法で、どんな生物が、どこに居るのかが分かる魔法だ。

稼働している魔導人形の数が半数近くになっている。4万体もの魔導人形が停止すれば、流石に撤退せざるを得ないだろう。

しかしロンダークやジースから何も指示が無いのだ。


(つまり、ロンダーク様もジース様も交戦中ということ?

 では、あの二人と戦いになるような戦力が二人もいるの!?)


ミスティにとって、それは想定された中でも最悪の可能性だ。

だが、それよりも今は目の前の脅威に対することが先決だろう。数の有利な状態で互角だった。

いや。いま思えば、彼らは守りに徹していたようにも思える。それがこの状況をつくりだすためだったとすれば、彼らは力を温存している可能性が高い。


「これまでだな。投降を勧めるが?」


「我が主より、そういった命令は出ていませんので」


「そうか。なら―――戦るかい?」


王牙の言葉に、族長たちが構える。

素直に考えるならば撤退が望ましいのだろうが、それを許してくれそうには無い。


「逃がすわけにはいかないが、このまま大人しくしてくれるなら、こちらとしても無理に戦うつもりはない」


「なんですって?」


「我等の戦いなど、オマケみたいなものだ。主君同士の戦いで決着が着くなら、それを静観するのも一つの選択肢ではないか?」


その言葉で、やはりロンダークとジースが交戦中であることが確定した。


撤退か、戦闘か、待機か。


戦闘の継続は戦力差から絶望的だ。

撤退が望ましいが、主からの命令が無ければ、それもままならないのが魔導人形の欠点とも言える。


ここは相手の提案を受け入れるのが最善だろう。

ロンダークとジースが彼らの主を倒せば、戦況は逆転するかもしれない。逆にロンダークたちが倒されれば魔導人形は機能を停止し、ミスティたちの敗けも確定的なものとなる。


「その提案、受け入れ―――」


ミスティがそう口にしようとした時だった。

グランゼルフ配下のクイーンに動きがあった。何かに反応したかのように顔を上げると、後ろに振り返って跳躍したのだ。


「・・・え?」


ミスティにも王牙たちにも予想外の事態に対応が遅れる。


「あいつ、逃げやがった!」


カイザーの声で正気に戻る。


「ま、待て!」


ミスティが慌てて跳ぶ。

王牙たちもミスティを逃がすまいと大森林のの木々の上へと跳躍する。


「な、なんだ、あれは!?」


そして、目に映った光景に今度こそ固まった。

魔公たちの本陣があると思われる場所の上空に、真っ赤に燃える『島』が浮かんでいたのである。

空をも燃やさんとする勢いで燃える『島『は、ゆっくりと下降していく。

その光景に、誰も逃げ出したクイーンを追おうとはしなかった。



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