13 乗り越えるべき壁
俺には三つ下の妹がいた。
名前は加奈といった。
元気いっぱいで、まだ四才なのに七才の俺の後ろを追いかけて遊び回るような活発な女の子だった。
俺の記憶の中の加奈は、そこで止まっている。もし加奈が生きていれば、リンより少し大きいぐらいだろう。
だが、あの屈託ない笑顔が加奈を思い出させずにはいられなかった。
「・・・大丈夫?」
人と話したのが久しぶりなせいもあって、少しナーバスになっていたかもしれない。アクアにまで心配をかけているようだ。
「ああ。ちょっと、いろいろ思い出してな」
センチメンタルに浸っている場合ではない。俺は現在の問題点と向き合うことにした。
スライムたちの働きもあり、すでに大量のポーションを備蓄し食料も貯まってきた。そろそろ森を出る準備を始めても良いぐらいの蓄えはある。
しかし上手くいかないことが一つあった。
それは俺のレベルアップである。
レクチャーモードのおかげもあり、<スキル>の使い方も理解してきたし戦闘もある程度はこなせるようになってきた。
しかしレベルを上げるにはモンスターを倒し、その存在力を奪って経験値としなければならないらしい。
だが動物型や人型の魔物に、俺は止めをさせないでいた。
理由は簡単だ。
俺が生き物の命を奪うことに慣れていないからである。
もちろん俺だって蚊みたいな虫は殺したことがある。だが犬や猫を殺したことはない。今は学校で蛙の解剖などしない。
それに俺は母さんが生きていた時期に猫を飼っていたことがある。自覚していなかったが、生き物を殺すという行為への抵抗感が強いらしい。
もちろん、そんな生易しいことを言っている状況でないことは理解している。
ここは異世界だ。
殺さなければ殺されるかもしれない。
そういう世界だとチャーリーに教えられた。
しかしモンスターとはいえ生き物に止めを刺そうとすると、ある光景が浮かんでしまい俺の動きを止めるのだ。アクアには「へたれ」と罵られた。
実際、この世界に生きる者にすれば当たり前のことが俺にはできないのだ。
もちろんモンスターを、生き物を殺すことは良いことではない。だが、そんな安っぽい正義感を振りかざして生き残れるほど甘い世界でないことは、こんな魔境に棄てられた俺自身が痛いほど自覚している。
しかしトラウマになった記憶は、俺の前に立ち塞がった。
リンに会って加奈のことを思い出してからは、あの光景がより鮮明に思い出された。
怖い。
逃げ出してしまいたい。
無意識にペンと紙を探していた。それに気がつき、愕然とした。
そんな時だった。
CAUTION!
脅威レッドの敵性反応です。
なに?
目の前に半透明のマップが表示される。
これは俺のユニーク級スキル<地図表示>と複製したチャーリーさんの<索敵>を複合させたものらしい。
ちなみに索敵範囲は半径2キロだ。
そして脅威レッドとは、俺の命に関わるような敵性反応。つまり最大級の危険ということである。
そこからオレンジ、イエローと危険度が下がっていく。
地図の●印もこれに連動していて、さらに言うとブルーが味方、グリーンは安全、ブラックは無関心ということらしかった。
地図に表示された赤丸印を確認する。
種族名:タイラント・ドラゴン
レベル:98
状態:暴走
危険度:レッド
ドラゴン!?
地竜の亜種らしい。
テイムできるかと心踊らせるが、この竜種はテイムできないらしい。
かなりの速度で移動しているが、目的地はこちらではないようだ。うまく横切っていく感じで・・・
「マスター?」
アクアの声が遠くに聞こえた。俺は『それ』を確認すると、いきなり走り出したのだ。
「マスター!?」
アクアの慌てた声が聞こえたが、振り返らない。
スライムたちはマップ上、俺の配下なのでブルーである。モンスターは基本的に遭遇しなければ敵性反応を示さないのでブラックである。
では、今の俺にとってグリーンの表示になるのは誰だ?
決まっている。
さっき出会って言葉を交わしたゴブリン・ハーフの少女リンだ。
そのグリーン目掛けてレッドのタイラント・ドラゴンが猛然と迫っていたら?
予想される結末は一つである。
俺は一瞬で身体機能を最大限に強化し、グリーンの●印を目指していった。
活動報告にも書きましたが、
ブックマークしていただいた方の数が10名を超えました!
ありがとうございます!




