12 ゴブリン・ハーフの少女
どうも、大地です。
俺が異世界に飛ばされて、一週間が経とうとしていた。初日にゴタゴタしたが、今のところ安全に過ごすことができている。
アクアをテイミングした水辺―――アス湖というらしい―――に近い洞窟を拠点とし、今は役に立つ素材を集めたり食料を溜め込んだりしている状況だ。
と言うものの、実際に働いているのはヒュージ・スライムたちである。
アクアの配下であるヒュージ・スライムたちには俺がクラスメイトからコピーしたB級スキル<無限収納>へのアクセスを許可している。
B級スキル<無限収納>は、異空間に物を収納することが出来る<スキル>である。収納も取り出しも、頭で念じるだけなので超便利である。しかも収納したアイテムはチャーリーさんがリスト化してくれる。というか何があるか教えてくれるので、俺が把握しておく必要がない。チャーリーさんマジ有能。
Answer.
強縮です。
これによりヒュージ・スライムたちが取り込んだ食材や素材といったアイテムを溜め込めるようになっているのである。
なんかヒモみたいだな、俺。
とはいえ、俺は俺でやることがあるのだ。
ここで新コーナー!
ポーション精製3分間クッキングです。
パチパチパチパチ。
・・・虚しい。何故だ。
さて、スライム種にはユニーク級スキル<溶解>が備わっている。
これは自身に取り込んだ物を文字通り<溶解>することができる<スキル>だ。
スライムは基本的に食事を必要としないが、取り込んだ相手をこの<溶解>で溶かし栄養にして成長するらしい。クリオネみたいだね。
この<溶解>を利用し、俺のB級スキル<錬成>を使用すれば、RPGでお馴染みのポーションを簡単に作ることができるのだ。その素材も、原初の大森林には腐るほどあるとのことだった。
ポーションの精製に必要な素材は、『魔力を帯びた水』に『魔仙草』という草である。
『魔力を帯びた水』というのは、魔素を含んだ水のことである。アス湖の水が該当する。
『魔仙草』は魔力濃度の濃い水辺に生える草で、これもアス湖の周辺に大量に生えている。
正規の手段であれば、この『魔力を帯びた水』を沸騰させて『魔仙草』を8時間溶かし込み、A級スキル<錬成>により回復系の魔力を注入すれば完成である。『魔仙草』を溶かし込んでいる間は不純物が出るらしいので、それを取り出す作業がけっこう大変らしい。
しかし俺の場合は、ヒュージ・スライムたちが<溶解>で『魔仙草』からポーションの精製に必要な成分だけを取り出してくれるので、8時間も煮込む必要は無い。また、イチイチ『魔仙草』の成分とアス湖の水を混ぜ合わせるような作業も必要無い。<無限収納>の中で勝手に合成が可能だ。
用意するものといえば、ポーションを保管しておく容器である。これもB級スキル<錬金>を使用すれば、簡単に作れた。
これも<無限収納>の中でポーションの素となる溶液を容器の中に入れて置くことができる。
ちなみに、ここまでの作業はすべて、チャーリーさんがしてくれる。
俺の仕事は、容器に入った『ポーションの素となる溶液』に<錬成>で回復系の魔力を注ぎ込むだけ。これで魔法薬<ポーション>の完成である。
というわけで、自分で作った<ポーション>を、これまたクラスメイトの誰かから複製したスキル<鑑定>で調べてみる。
道具名:ポーション
種 別:魔法薬
効 果:傷などを癒す
よし。問題なく完成しているようだ。
チャーリーがスライムを―――アクアをテイミングすることを勧めた大きな理由がこれだった。
スライムのユニーク級スキル<溶解>があれば、<錬金>や<錬成>などで作成する武具やアイテムで、必要な素材や成分だけを取り出すことができる。傷は<スキル>や【魔法】でも回復できるが、魔力を使い果たすと<スキル>も【魔法】も使えなくなる。保険として回復系アイテムを常備することは、冒険者にとって常識らしい。
まあ俺は冒険者じゃないけどね。
っていうか冒険者がいるのか、この世界。ファンタジーだなぁ。
というわけで、ヒュージ・スライムたちには、ポーションの素材となる『魔仙草』を集める班と、果実などの食料を集める班に分けて活動させている。
ポーションは町で売り、カネに替える予定だった。
当たり前だが、現状俺は無一文である。服も召喚された時の学生服のままだし、こんな森に服屋は無い。
あってもカネが無いから買えない。
つまり当面の活動資金を得るための備えだった。
無論、チャーリーさんの指示である。
本当はこのあたりの指揮をアクアに任せたいのだが、
「面倒」
の一言で断られてしまった。
・・・従魔って主人の命令を拒否できるんだな。
Answer.
拒否ではなく、感想を述べたものと思われます。
なるほど。
まあ強制させるのも気が向かないし、アクアには俺を護衛してもらっている。たまにバカなクレイジー・モンキーが俺の寝床を奇襲しようとするらしいが、アクアが返り討ちにしているらしい。
アクアからすればクレイジー・モンキーなど雑魚にすら入らないのだそうだ。
頼もしい奴である。
そうそう。
スライムは食事を必要とせず、睡眠も必要としない。アクアさんのおかげで、俺は安心して夜を過ごすことができている。
またスライムたちに任せている労働も休むこと無く続けられており、作業は急速に進行している状況だ。
そんなある時、
「マスター、侵入者です」
「ほえ?」
リンゴとナシを足して2で割ったような果実を頬張っていると、アクアから不意打ちのような報告を受けた。
「侵入者? この洞窟にか?」
モンスターなら確認することなく撃退するはずだが・・・
「違う。魔仙草の群生地帯」
「外じゃないか」
「私たちの縄張りだよ」
なるほど、そういう意識なのか。
半眼で眠そうな顔をしながら答えるアクアの声にに、若干苛立ちのようなものが混じっていた。
「今はヒュージ・スライムたちが囲んでる」
「そいつは穏やかじゃないな」
俺は立ち上がると、魔仙草の群生地帯に向かった。当然、アクアもついてくる。
魔仙草はポーションの原材料となる素材だが、苦くて人間には食べられたものではないらしい。
しかも固い。
また魔力濃度の濃い水辺に生える性質で、そういった場所には巨大化したスライムも生息していることが多い。だから自然の動物は近づきもしないし、モンスターも価値が分からないので寄り付かない。冒険者が依頼を受けて採取することはあるが、こんな魔境に来なくてもいいはずである。
だからこそ群生し、手付かずで放置されていたのだ。
はぐれモンスターが迷い込んだにしてはアクアの『侵入者』という言葉が気になる。
現場に着き、『侵入者』を確認した俺は言葉の意味を理解した。『侵入者』は女の子だったのだ。
肌が黒く、頭には小さい角が二本生えている。少し痩せているが、人間と変わらない女の子である。その瞳にはモンスターや獣と違って、理性が見て取れた。
涙目になっていたが。
どうして、こんなところに人間の女の子がいるんだ?
Answer.
人種ではありません。
なに?
チャーリーが<見破り>の効果で女の子のステータス画面を表示させた。
個体名:リン
種族:ゴブリン・ハーフ
レベル:9
脅威:イエロー
種族名がゴブリン・ハーフ?
ゴブリンじゃなくて?
Answer.
ゴブリンは魔物ですが、ゴブリン・ハーフは半殀種に分類されます。
半殀種?
亜人種じゃなくて?
Answer.
一般的に獣人やエルフ、ドワーフなどが亜人種と呼ばれます。
対して魔物的な特徴の強い亜人種を半殀種と呼びます。
違いは?
Answer.
魔力濃度の濃い場所を好んで住みかにしている以外に、大きな違いはありません。
なるほど。
つまり、外観が違うだけで人間と大して違わないということだな。
年のころなら十歳を過ぎた辺りか?
不意に、その面影が亡くなった妹に重なった。全然似てないんだけどな。
「うううっ!
なんで今日に限って、ヒュージ・スライムがこんなに集まってるんだよ!?
魔仙草も数が少なくて見つからないし!」
それ、たぶん俺が原因だな。
ふだんのスライムなら魔仙草に興味を示さない。群生してたやつをスライムに採取させてるから、この辺り一帯の魔仙草が少なくなってしまったのだろう。この湖の周辺なら、すぐに生えてくるらしいけどね。
俺に気がついたヒュージ・スライムたちは、まるで海が割れるように道を作ってくれる。
おお、モーセの十戒みたいだ。
俺は混乱しているゴブリン・ハーフの少女の前にに、ゆっくりと歩み寄った。
「な、なんでニンゲンがこんなところに!?」
スライムたちが避けて道を作ったかと思えば、目の前に現れたのが人種だったからだろう。少女は驚きを隠せないでいた。
とりあえず、普通に話しかけてみよう。
「迷子か?」
「ち、ちがう! 魔仙草を探しに来たんだ!」
さっきの悲鳴みたいな声で、ある程度は予想していたが・・・
「お前みたいな女の子が一人でか?」
「お前じゃない! リンって名前がある!」
リンはナイフを突き出して、俺を威嚇しながら叫ぶ。
「お前こそ、こんなところでなにやってるんだ! ニンゲンだろ!?」
「なにやってるか、か。難しい質問だ」
異世界召喚された挙げ句に勘違いで棄てられ、何とか逞しく生きていますと説明したところで、リンという少女は納得しないだろう。
まあ単純にいくか。
「俺は、こいつらのボスをやっている」
リンは少し呆けた顔をした後、
「なに言ってんだ!? これだけのスライムを従えてるっていうのか?
スライムはテイミングできないって知らないのか!?」
え、そうなの?
Answer.
誤りです。
然るべきスキルが必要なだけで、スライムはテイミング可能なモンスターです。
「だ、そうだ」
「はあっ!?」
しまった。
チャーリーさんの声は、俺にしか聞こえないんだった。
正確には<魂の系譜>が成立している<従魔>や<眷属>には話しかけられるらしいが。
「いや、すまない。とにかく、リンは魔仙草を探してるんだな?」
「う・・・うん」
「どのくらい必要なんだ?」
「わからない。でも、できるだけたくさん」
ふむ?
お使いを頼まれたというわけでは無さそうだが・・・
まあ、いい。
「アクア。魔仙草を出してやれ」
「だるい」
そう言いながら、アクアは口から魔仙草を吐き出した。
もうちょっと、出し方を何とかしてくれませんかね?
心なしか、魔仙草が湿ってるような気がしてならない。
自分でも取り出せるのだが、アクアたちが<無限収納>から本当に取り出せるか確認したかったというのもある。
アクアを見たリンがギョッとする。
「えっと・・・精霊? きみ精霊使いなの?」
「・・・? アクア、おまえって精霊なの?」
「違う」
「違うそうだ」
「そ、そうなんだ」
狼狽するリンに魔仙草を数株手渡した。
「あ、ありがとう」
両手いっぱいに魔仙草を抱えたリンが礼を言ってくる。
「一人で帰れるか?」
「大丈夫! 魔物に見つからないように帰れるから!」
そう言って、リンは駆け出した。スライムたちがリンの通る道を開けるため、ぶつかり合っている。
「あ、お兄ちゃん!」
「!?」
・・・加奈?
「名前、聞き忘れちゃった!」
「あ・・・ああ。山本大地だ」
「ヤマモトだね! ありがとう!」
リンが手を振ると、ヒュージ・スライムたちも合わせるかのようにユラユラて揺れていた。
そんな光景に苦笑しつつ、俺もリンに手を振り返した。リンは何度も魔仙草を落としながら、姿が見えなくなるまで手を振ってくれるのだった。
リンはヒロインではありません。
すいません。
H28.7.24
チートポーションの製作方法ですが、
『スライムの<分解><精製>スキルで製作』から
『主人公の<錬成><神格化>の効果により精製』に変更しました。




